デジタル・ロードショー特集「Love, サイモン 17歳の告白」|辛口批評サイトも絶賛!全米が共感したLGBT青春ドラマ

YAには何かしらの希望が込められている

──三辺さんは児童小説やヤングアダルト(以下YA)小説をメインに訳されていますが、そのきっかけを教えていただけますか?

出だしはファンタジーですね。児童書というカテゴリーでは、今もファンタジー作品が多く生み出されている。ああいう物語性が豊かなものが好きなんです。

──TBSラジオの番組「アフター6ジャンクション」に出演された際にも少しお話されていましたが、まだ日本で浸透していないYAというジャンルを定義するなら?

三辺律子

ジャンルというか、YAは対象年齢によって定義されるカテゴリーという感じですね。中学生から高校生、大学生……あるいは学校に通っていないとしても、その年頃の若者が主人公の物語。その主人公と同じ年頃の若者たちに向けて、説教とまではいかなくても、メッセージのようなものを投げかけている作品です。単に説教臭い小説なんて、若い人は絶対読みませんから。そしてハッピーエンドのストーリーが多いです。

──そうなんですね。

もちろん、すごく暗い現実をはっきりと書いているものもありますけど、打ちひしがれた主人公が最後に死んでしまうとか、そういう話は少ないですね。何かしらの希望が込められています。若い人に向けて「今すぐ死んだほうがいいよ」と絶望的なメッセージを出すことはなかなかありません(笑)。

──「サイモンvs人類平等化計画」ではゲイというテーマが扱われていますが、LGBTを題材としたものはYAの中でも割合として多いのでしょうか。

今は多くなっていると思います。もちろん児童書でも大人向けの小説でも社会現象は文学に反映されていくものですが、特にLGBTは思春期にいろいろ問題にぶつかることが多いので、YAの題材となりやすいのかもしれません。

──なるほど。ちなみに「サイモンvs人類平等化計画」が映画化されることを知ったのはいつ頃なんでしょう。

出版社から「読んでみてください」と言われたときは知らなかったです。訳している途中か、ちょうど訳し終わった頃ですね、映画化を知ったのは。「日本でも上映されないかな」という話はしていました。

パターン化されたゲイの男の子っぽくサイモンを描いていない

──映画を観て、どのように感じられましたか。

アメリカの学園ものの生き生きとした感じがあって、面白かったです。若い頃、ああいう学園生活に憧れがあったんですよ。若者が集まるパーティのシーンを映画で観て「いいな」と思っていたんですが(笑)、そういう雰囲気はこの作品にもあります。それでいて、昔の映画に出てくるような、パターン化されたゲイの男の子っぽくサイモンを描いていないところもよかったです。

──ちなみに、小説を訳している段階ではキャラクターがどんな風貌をしているか想像するものなんでしょうか。

「Love, サイモン 17歳の告白」より、ニック・ロビンソン演じるサイモン(左)。

翻訳者によっても分かれると思うんですけど、私はビジュアルをあまり考えないほうです。イメージはありますが、それが顔形や似ている俳優、髪や肌の色というふうに具体的に見えてくることはないですね。ただ「すごくきれいな人」とか「すごく◯◯な人」とか、漠然としたイメージがあるだけで。

──ニック・ロビンソンがサイモンを演じると知ったときはどのように思われましたか?

合ってると思いました。個人的にも彼は好きだったので、「やった!」と(笑)。アメリカでは、彼のような売り出し中の俳優がゲイの役をやるということについての反響が大きかったみたいです。少し前までは、こういった役を俳優が避ける傾向がありましたから。ニック・ロビンソンが演じることによって、サイモンがステレオタイプ的な「ゲイの男の子」として描写されることがなくなったという意味でもすごくいい配役だと思いました。

「Love, サイモン 17歳の告白」より、ニック・ロビンソン演じるサイモン。

──「ジュラシック・ワールド」や「キングス・オブ・サマー」といった作品で少しずつ知られてきてはいますが、まだ日本ではそれほど認知されていない俳優ですね。

「エブリシング」という映画もありましたね。私も初めて「ジュラシック・ワールド」で知って「このお兄ちゃん役、カッコいいな」と思ったんですけど(笑)。

──彼の魅力ってどういうところなんでしょう。

変な言い方ですけど、いわゆる「典型的ハンサム」じゃないところかな。例えば金髪碧眼ですごく彫りが深いとか、そういう男の子ではないですよね。「ジュラシック・ワールド」のときはリヴァー・フェニックスのようにも見えました。あの、ちょっとふくれっ面な感じが。

自分の周囲だけが“世界”ではないことに気付いてもらえたら

──先ほど「アメリカの学園ものの生き生きとした感じがあって」とおっしゃっていましたが、確かに映画の全体的なトーンは明るいですね。

以前と比べれば、こういうテーマを扱う映画のテイストは変わってきたと思います。これまでは、同性愛者であることがバレたときにすごくいじめられたり追い詰められたりという話がどうしても多かったんですけど、最近になってからはこの映画のように「あ、ゲイなんだ。ふーん」と受け取られる作品が断然増えていて。日本でも、ちょっと前まではゲイ=女言葉をしゃべる人たち、みたいな誤解がありましたが、「逃げるは恥だが役に立つ」に出てくるゲイの男の子はどこにでもいるような子でしたし。

──確かに。

「Love, サイモン 17歳の告白」

それから、Twitterなどで原作への感想を見ていたとき「皆さん、よく読んでくれているな」と思ったことがあって。「これってゲイをカミングアウトするという話じゃなくて、なんでゲイだけカミングアウトしなくちゃいけないの?という話だよね」と。

──原作でも映画でも、サイモンの心情として表現される部分ですね。

例えばストレートの女性だったら「私は男の人が好きなんです」と別に宣言しなくてもいいですよね。何も特別なことではなくて、たまたま同性が好きだった、というふうに描かれているのがこの物語のいいところなんだと思います。

──それでは最後に、どんな方にこの映画をオススメしたいと思われますか?

やっぱり、サイモンと同世代の人にまず観てほしいですね。こういう映画を観ると「アメリカと日本は全然違う」というところと「アメリカと日本、ここは同じじゃん」というところ、両方が見えてくると思います。自分の周囲だけが“世界”ではないということに気付いてもらえたら。

デジタル・ロードショーとは?

日本の劇場で上映される機会のない海外映画をいち早く日本で配信する、20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンによるサービス。スクリーンで日の目を見ることのない珠玉の作品や話題作を発掘し、映画ファンにお届けする。ビデオパスやU-NEXT、dTV、Amazonビデオなど各種プラットフォームで対応。

第1弾配信作品「Love, サイモン 17歳の告白」
2018年9月12日(水)より配信中
「Love, サイモン 17歳の告白」
ストーリー

サイモン・スピアーは明るく仲の良い両親、妹とともに暮らす高校生。友人にも恵まれているが、彼にはゲイであるという秘密があった。ある日、自分が通う高校に匿名のゲイの同級生がいることをインターネットで知ったサイモンは、“ブルー”と称するその相手に思い切って連絡を試みる。メールでのやり取りを通して、ブルーに心惹かれていくサイモン。その正体を知ろうとする中でサイモンが犯した小さなミスをきっかけに、事態は思わぬ方向へ転がっていく。

スタッフ / キャスト

監督:グレッグ・バーランティ

原作:ベッキー・アルバータリ著 / 三辺律子訳「サイモンvs人類平等化計画」(岩波書店)

出演:ニック・ロビンソン、ジェニファー・ガーナー、ジョシュ・デュアメル、キャサリン・ラングフォード、アレクサンドラ・シップ、ジョージ・レンデンボーグ・Jr.、ローガン・ミラーほか

第2弾配信作はスティーブン・ソダーバーグ監督のサイコサスペンス!

「アンセイン ~狂気の真実~」
2018年9月26日(水)より配信中
「アンセイン ~狂気の真実~」
ストーリー

ストーカーから受けた精神的ダメージを回復させるため訪れたカウンセリング施設に強制入院させられてしまった女性ソーヤー。よき理解者である患者ネイトからアドバイスを受けひそかに母親と連絡を取って脱出を試みるソーヤーだったが、彼女をストーキングしていた男デヴィッドが施設の職員として姿を現す。

スタッフ / キャスト

監督:スティーブン・ソダーバーグ

出演:クレア・フォイ、ジョシュア・レナード、ジェイ・ファロー、ジュノー・テンプル、エイミー・アーヴィング、マット・デイモンほか

三辺律子(サンベリツコ)
東京都生まれ。英米文学翻訳家。フェリス女学院大学や白百合女子大学で講師を務める。クリス・ダレーシーによるファンタジー「龍のすむ家」シリーズや、マイケル・ボンドの「パディントン、映画に出る」、キャット・クラークの「パンツ・プロジェクト」、デイヴィッド・レヴィサンの「エヴリデイ」などの訳書で知られる。また、金原瑞人とひこ・田中が監修を担当した「今すぐ読みたい!10代のためのYAブックガイド150!」にも執筆者として参加。翻訳を担当した、ジョン・ベレアーズの同名小説を原作とする映画「ルイスと不思議の時計」が10月12日より公開される。