中国ドラマ×ブロマンスの魅力をトーク
※第2部トーク終盤には一部ネタバレも含まれるため、未視聴の方はご注意を
志を同じくする男たちが知己となっていく姿が中国ブロマンスの魅力(小酒)
──第2部では中国ドラマ×ブロマンスならではの見どころをお二人に伺いつつ、そこから「大理寺日誌」で描かれる男たちの熱い友情の魅力を紐解いていこうと思います。お二人は、中国ブロマンスの入り口はどこでしたか?
沢井 中国のブロマンス作品としてしっかり認識して観たのは「陳情令」が最初だったと思うんですが、中国でのブロマンス人気を実感したのはもう少し前で、BBC製作の「SHERLOCK(シャーロック)」の人気ぶりに触れたときですね。当時から、中国のBL文化や動向を追っているんですが、そんな中で「SHERLOCK」が中国でブロマンス作品としてドカーン!と人気になっていることを知ったんです。視聴者がシャーロックとワトソンの関係性に盛り上がっていて、それを中国のメディアでもかなり取り上げていた。日本での注目の浴び方とはまた違った印象を受けたんです。そんな流れの中で、「陳情令」の人気に触れて、とうとう自国でドカーンと来るものを作ったんだなと思いました。それと前後して中国らしさを押し出していこうという「国潮(guó cháo)」(国風潮流の略語)もブームになっていたので、ブロマンスも国潮の流れに乗ってきたのかなとも思っていましたね。
小酒 私は2016年に「ハイロイン~上瘾~」が流行った当時、中国のBLブームに触れて、ものすごい人気なんだなと感じたんです。ただすぐにBLドラマが規制されて、その後、BLをブロマンスに置き換えた「鎮魂」が登場しました。現地ではこれを皮肉を込めて「社会主義兄弟情」と呼ぶ人がいたんですよ。振り返ると、やっぱり日本では「陳情令」の影響がすごく大きかった。周りにも「陳情令」から中国ドラマを観るようになったという人がけっこういます。また、ブロマンスという形だからこそ、BLファン以外にもファンの裾野が広がったと言えるかもしれません。日本では混同されている部分もあると思うんですが、中国ブロマンスには2種類あって、原作がBLのものと、BL関係なく男たちの熱い友情を描いたものがあります。
沢井 まとめてブロマンスと言われますけど、現在では中国だとBL原作ありのものは「耽改劇」、そうでないものが「兄弟情」と呼ばれますね。
──お二人はこれまでにもさまざまなブロマンス作品に触れてきたと思うんですが、中国ドラマ×ブロマンスならではの魅力ってどんなところにあると感じますか?
小酒 「三国志演義」の「桃園の誓い」に代表されるように、志を同じくする男たちが契りを交わし、互いに命を預ける関係になって、知己となっていく姿が中国ブロマンスの魅力の1つ。同様の概念は、世界中にあると思うんですが、中国は歴史的にも戦乱が多かったせいか、戦う男性同士の関係をメインテーマに据えた作品がかなり多い印象があります。義兄弟、男性同士の熱い友情を押し出した作品を楽しむことができる。同性愛を罪とする旧来のキリスト教的概念の影響がある欧米とは違ったアジア的感性が海外でも面白いと思われる理由の1つなのかもと思います。
あとは、中国ブロマンスが世界的にも特異なのは、検閲があるという部分もやっぱり大きいと思います。原作がBLでも直接的な描写はせず、いかに行間を読ませるか工夫して作られている。ものすごく想像の幅が広い作品になっているところも魅力です。
沢井 検閲があることによって生み出された余白の美がありますよね。描写の裏側を想像するのも楽しいですし、おそらく製作者はこう表現したかったのではないのかという意図を汲み取ったときの達成感もある。あとは俳優さんたちの美しさと描かれる愛の重さもポイントだと思います。相手のために命を懸けたり、何万年も待ち続けていたり、ブロマンスに限らず、愛が重いのが中国ドラマの魅力。
小酒 時代劇の場合、ブロマンスを盛り上げる仕掛けをたくさん作れるというのもポイントですよね。生きるか死ぬか、世界が終わるか終わらないかといったところまで物語を無理なく展開できる。アクションも見せ場になるので、「お互いを守る」というのが言葉だけじゃなく、行動で表現できる。命懸けのバトルが見られます。さらに時代劇は登場人物も多いので、嫉妬や独占欲などさまざまな人間関係にドキドキしたりハラハラできる。
──「大理寺日誌」も、まさに「男たちの熱い友情」「命懸けのバトル」「想像する楽しさ」といった要素のあるドラマでした。
小酒 「大理寺日誌」は、ほのぼのブロマンスもドラマチックなブロマンスもいろいろ用意されている作品ですよね。
沢井 物語の中でさまざまな関係性が描かれますし、いろんな矢印がありますよね。そんな中で、まず注目するのは李餅と陳拾。李餅にとって自分が半人半猫であることを知っている陳拾は唯一心を許せる相手であり、庇護の対象でもある。李餅が陳拾に向ける慈しむような視線もいい。ほんわかする友情を見せてくれます。
小酒 李餅と陳拾は身分も違うし、本来なら住む世界が違うんですよね。そんな2人が出会って、陳拾が半人半猫である李餅をありのまま受け入れることになる。秘密を共有するところから始まるブロマンスはとても素敵だなと思いました。
沢井 中国の動画サイトでも李餅と陳拾のこんなやり取りに萌えた!という切り抜き動画がかなりあって、やっぱりみんな好きなんだなと思いました。あとは男子わちゃわちゃの部分に癒やされている視聴者がたくさんいましたね。
小酒 李餅は半人半猫であることを陳拾以外には隠していますし、知られるのを恐れてる。一方で明鏡堂のみんなは「仲間にどんな秘密があっても、ドンと来い!」といった頼もしい存在になっていくのが素敵。部活仲間ノリな青春ブロマンスがよかった。
物語の中でさまざまな“濃い思い”を見つけることができる(沢井)
──明鏡堂の仲間との関係はもちろん、李餅と対立する金吾衛の将軍・邱慶之も物語の重要なキーパーソンでした。
沢井 李餅と邱慶之は、大理寺と金吾衛という違う組織にいて、それぞれ守るものがあるので、衝突している関係なんだなと捉えていたんです。そしたら終盤ではああいう展開になって。また1話から見返すと違った邱慶之が見えてきます。
──終盤から驚きの展開へ突入する李餅と邱慶之の関係性に、中国では心を奪われる視聴者が続出する事態になったそうです。
小酒 ウェイ・ジャーミン(魏哲鳴)はクールな表情を作るのがうまいので、悪役なのかそれとも?という役がハマっていましたね。
※以下の会話にはネタバレが含まれます。リンクをタップすると表示されます。
沢井 邱慶之はこの物語の中で一番、“中国ブロマンス”を感じさせるキャラクターでしたね。たとえ李餅に嫌われても、陰から守り続けて、それを誰にも言わない。
小酒 私の大好きな黙って尽くす男で、きたー!と(笑)。完全に刺さってしまいました。
沢井 報われない男子でもありましたね。
──物語終盤では、奴隷営から脱走してきた邱慶之が李餅と出会い、李家に家族のように迎えられたという過去が明かされます。
小酒 このドラマは回想シーンの使い方がうまいですよね。幼なじみ設定は時代劇あるあるで、李餅と邱慶之の少年時代のエピソードはキュンキュンします。本来なら出会うはずのない2人が出会って、強い絆を結ぶ。邱慶之はずっとそのときの気持ちを忘れずに、陰で李餅に尽くし続けている。例えるなら初恋をずっと大事にしている男の物語のようでした。
沢井 彼の真実がわかってから見返すと、グッと口をつぐんでいても、邱慶之の目が何かを訴えているのがわかるんですよね。
小酒 でも、その真実は視聴者にも終盤まで悟らせない。うれしい驚きでした。
沢井 中国では一枝花と邱慶之の関係に注目している視聴者も多かったですね。一枝花は邱慶之とつながっていたい、彼に構ってほしいという気持ちはあるのに、うまくそれを言葉にできないように感じました。
小酒 ブロマンスあるあるですよね。視聴者は気付いているのに、本人は自分の真の気持ちに気付いていない。
沢井 彼は、初めて邱慶之と出会ったとき、その場にあった花から思い付いて「俺のことは一枝花と呼べ」と言う。ポロっと出た言葉だと思うんですが、それまで長い間、自分の名前を意識することもなかったと思うんです。でも邱慶之に出会って、自分を覚えていてほしいという思いが湧いてきた。私はそんな気持ちをチラッと感じてしまって。一枝花と邱慶之は何かがちょっとでも違ったら本当の友達になれたかもしれないと思うと切なかったです。
小酒 そうですよね。でも邱慶之が助けたいのは李餅で……。そんな三角関係のような展開もよかった。
──李餅と明鏡堂の仲間だけでなく、さまざまな関係性に見どころがある本作ですが、ブロマンス好きの方にこの作品をどのようにお薦めしますか?
沢井 やっぱりまずは、わちゃわちゃを楽しんでほしいですね。そこから、物語の中で、さまざまな“濃い思い”を見つけることができます。キャラクターの感情や動きをよく観察していると、ドラマチックでグッとくる展開が用意されているので、ぜひ!観てほしいです。
小酒 男子のわちゃわちゃにほのぼのできるし、冒険心を掻き立てられるような、ワクワクも味わえるし、さらに最後はドラマチックな展開が待っている。本当にいろんな喜怒哀楽を楽しめるエンタテインメントです。中国時代劇の中には、ちょっと難しい設定の物語もありますが、「大理寺日誌」はそういった難しさはないので、気楽に観られるのも魅力です。
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プロフィール
小酒真由子(コサカマユコ)
映画界・出版界での会社勤めを経てフリーライターに。雑誌「月刊スカパー!」「見るべき中国時代劇ドラマ」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「華流ドラマガイド」などのムック本、Cinem@rtなどのWeb媒体でアジアから欧米までドラマについて執筆している。
沢井メグ(サワイメグ)
大学時代に中国近代文学と出会い上海・同済大学に留学。2010年上海万博日本館での勤務を経てライター / 編集者となる。中国・台湾エンタメや文化、時事ニュースなどを中心に記事を執筆、翻訳。主な訳書にルアン・グアンミン「用九商店」シリーズ、毎日青菜「DAY OFF」がある。
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