中国ドラマ「長相思」がU-NEXTにて独占先行配信中。DVDもリリースが開始された。作家トン・ホワ(桐華)の小説をもとにした同作は、ヤン・ズー(楊紫)、ジャン・ワンイー(張晩意)、ドン・ウェイ(鄧為)、タン・ジェンツー(檀健次)、ワン・ホンイー(王弘毅)らが共演したロマンスファンタジー時代劇だ。
映画ナタリーでは「長相思」の配信・ソフト化を記念し、中国ドラマに造詣の深いライター・沢井メグ、小酒真由子、島田亜希子の鼎談をセッティング。数奇な運命をたどるヒロインと、命を懸けて彼女を愛する男たちの物語が描かれる本作の魅力を紐解いていく。また中国で“推し選び”が過熱したことから、ジャン・ワンイー、ドン・ウェイ、タン・ジェンツー、ワン・ホンイーが演じるキャラクターについてプレゼン形式で紹介してもらった。
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取材・文 / 小宮駿貴
あらすじ
皓翎国の王姫・小夭は母の国・西炎国で従兄の西炎瑲玹らと暮らしていたが、戦で母を亡くし玉山に送られたことを機に、300年に及ぶ流浪の苦しみを味わう。身分、霊力、そして“本当の顔”を失った小夭は、たどり着いた清水鎮で玟小六と名を変え男性医師として生きることに。そこでの暮らしはつましくも平穏だったが、瀕死の状態で発見された身元不明の男を看病したことから運命の歯車が動き出す。男は葉十七と名付けられ、命の恩人である小六に忠誠を誓い、小六を利用しようと近付いてきた辰栄国の軍師・相柳から守ろうとする。同じ頃、軒と名乗る人物が清水鎮に現れ酒屋を開く。その正体は小夭を捜し続ける瑲玹だった。
中国ドラマ「長相思」予告編公開中
もう毎エピソードの没入感がハンパない(小酒)
──まずは率直な感想をお聞かせください。
沢井メグ タイトルを見た時点で、中国ドラマで人気の「虐恋(nüèliàn)」のジャンルなんだろうと感じました。「虐恋」は結ばれそうで結ばれない、何かしらの運命に翻弄されまくってしまう悲劇性にグッとくるジャンル。もう期待以上でしたね! ヒロインとメインの男性陣の関係性が非常にうまく描かれているのですが、“主役カップル一強であとは噛ませ犬”という内容ではなく、それぞれに深い縁がある。西炎瑲玹とは幼い頃に悲しい思いをともにして手を取り合った情があり、塗山璟とは思慕の情、相柳とは孤独の痛みをわかり合える一心同体のような関係。それを視聴者から納得が得られるようにヒロインを演じたのが、さすがはヤン・ズー様といった感じ。一歩間違えると、いろんな男性の間でフラフラしているようなキャラクターになりかねない設定なのに(笑)。素晴らしかったです。
小酒真由子 最近の中国のファンタジー時代劇は、ゲームの展開のようなアクションで魅せるものが多くなってきたんですよね。それも面白いんですが、「長相思」では視点やアプローチが違う文学的な醍醐味が味わえました。原作・脚本のトン・ホワは「宮廷女官 若曦」の原作者でもある有名作家で、小説の文学的なエッセンスがドラマでも表現されている。もう毎エピソードの没入感がハンパないんですよね! 登場人物それぞれが心の傷と重い過去を背負っていて、そこから再生していく。号泣ポイントはいっぱいあるんですが、大げさな演出があるわけではなく、それぞれの人物の心の機微が丁寧に描かれていて、それが布石となってちょっとしたセリフにもハッとさせられて泣けるというシーンが多かったです。そういう意味でほかのファンタジー時代劇とは面白さのポイントが違う、一線を画すような作品でした。
島田亜希子 やっぱりヤン・ズーの時代劇は絶対に面白いので、一度観始めたら途中下車できない!と予想していた通り、ハマり度がものすごく高くて。「この先いったいどうなっちゃうの?」と、その先が観たくなる中毒性も非常に魅力的で面白かったです。これは観ておいたほうがいい!と、お薦めしたくなるドラマですね。
──続きが気になる中毒性とか、ちょっとしたシーンで涙してしまうのもすごくよくわかります。中国では配信総再生回数40億回を超え、時代劇ドラマとしてあらゆるランキングで上位を独占するなど社会現象を巻き起こしましたが、どのようなところが評価されたのでしょうか。
島田 単なる恋愛ドラマではなく、再生・癒やし・赦しといった要素が描かれているのが視聴者の心をつかんだのかな、と感じました。悲しい過去を乗り越えて、心の傷を癒やす大切さ、その先の未来に光を当てるような作品の注目度が、近年の中国では高まっているように思います。そして小酒さんもおっしゃっていましたが、トン・ホワが自ら脚本も手がけているので、小説のディテールを高度に再現することができて、キャラクター設定にも忠実なので原作ファンも安心して観られた。そのあたりが評価された点なのかなと。
小酒 あとはキャスティングもすごくよかった。実力・ビジュアル・スター性を兼ね備えた俳優たちをしっかり起用している。小説を読むときって、自分の中で登場人物のイメージを作るじゃないですか。だから人気のある小説であればあるほどドラマ化は難しいと思うのですが、今回はキャスティングでも多くのファンを納得させるパワーがあったと思います。
沢井 キャスティングとキャラクター設定の好循環がすごく見えた作品ですよね。ビジュアルは文句なし、設定もしっかりしているので、それぞれのキャラクターに思い入れができる。だから推しを応援したい気持ち、カップルを応援したい気持ちが生まれたんだと思います。応援しているうちにキャストも好きになる。それが好循環になっていますよね。中国のSNSであるWeibo(微博)では俳優陣のフォロワー数も爆増したみたいです。
小酒 ヒロインが誰と結ばれるのかわからないままストーリーが進んでいく。だから視聴者は「自分の推しキャラと幸せになってほしい」と期待を抱きながら観ることになる。どのキャラクター、どのキャストにもスポットが当たっているのがよかったですね。
沢井 私はあえて相関図を見ないで数話楽しんだのですが、「おや? 風向きが……」と思わせてくれる。情報を伏せて観るのも面白いと思います。
島田 私はどうなるかが気になりすぎて、一気見しちゃいました(笑)。
ヤン・ズーの男装、演技が素晴らしかった(沢井)
──今作ではヤン・ズー演じる小夭 / 玟小六を中心に4つの愛の物語が描かれます。国王の孫でありながら身分を捨て男性医師として生きる小六、従兄の瑲玹と再会し王姫・小夭として生きるヒロインの二面性を見事に体現されました。ヤン・ズーの魅力や印象に残っているシーンについてお聞かせください。
沢井 ヤン・ズー、すごいなと。女性が男装しているのは中国ドラマあるある。ドラマの中の人物は男性と思っているんだけど、作品によっては私たち視聴者から見たら「どう見ても女性でしょ!?」と思っちゃうこともあって(笑)。でもヤン・ズーの小六は、男性にしては線が細いけれども、小夭と見比べると全然違う。ビジュアルや振る舞いもそうですが、さすがだなと思いました。小六は自分が小夭であることを知っているのか、はたまた記憶喪失なのか、観ていて本当にわからなくなる。それくらいヤン・ズーの男装、演技が素晴らしかった。
小酒 幻形術で体まで男性に変わっているから、一緒に暮らしている仲間も気付かない。男性の格好で男性の言葉をしゃべる。でも、心は女性のままというのを見事に表現していましたよね。だから小六と十七との間に恋の予感が生まれるのにトキメキが感じられるし、相柳が小六の首から血を吸うシーンにはセクシュアルな雰囲気を感じてドキドキできる。
島田 ヒロインの男装キャラって、中国時代劇においては定番であるし、ストーリーを膨らませるのに欠かせない演出の1つだと思うのですが、沢井さんがご指摘されたように、観る側としては若干冷めるというか、テンションが下がるという感じも否めない(笑)。でもこの作品でのヤン・ズーの男度はすごかったですよね。回春堂の仲間との絡みのシーンなどは、リアルな男同士のふざけっこ感が出ていて本当にいろいろと考えながら演じ方を工夫されたんだろうなと思わせてくれる。印象的だったのは、小六が阿念ちゃんと一緒に逃げるシーン。さりげなく阿念ちゃんを助けてあげる男前な感じがとっても素敵。このまま阿念ちゃんが小六のことを好きになっちゃうんじゃない⁉と、ちょっとドキドキしちゃうくらい。ヤン・ズーの俳優としての新たな一面を知ることができましたね。
──小夭になってからのヤン・ズーの演技はいかがだったでしょうか。
沢井 舞のシーンがすごくきれいでしたね。目の前にいる相手への思いも乗っているんですよ。
島田 阿念ちゃんとのキャットファイトのような喧嘩がすごくかわいくて。ここから2人の間にシスターフッドが芽生えていく。素敵な関係だなあと思いました。
小酒 私は母親にそっくりな妃を見て泣くシーン。あの場面は中国でもすごく話題になりました。感情を爆発させるヤン・ズーの演技……あれは本当に真に迫っていて、彼女にとっても挑戦的なシーンだったと思います。
ジャン・ワンイーは感情を抑えた演技でも、目で複雑な感情を伝えてくる(小酒)
──今回、皆さんに1人ずつ「長相思」に登場するキャラクターや最旬イケメン俳優についてプレゼンしていただこうかと思います。まずは「策略系ツンデレ男子」こと瑲玹を演じたジャン・ワンイーについて、小酒さんお願いします。
小酒 瑲玹は西炎国の王の孫。幼少期に親が国に殉ずることを選んで自分を残して死んだことから、小夭と同じく親に捨てられたという心の傷を持っていて、彼女とずっと一緒にいようと固い絆を結びます。彼にとって本当に心を許せるのは小夭だけ。しかし瑲玹は人質として皓翎国へ。小夭は玉山に送られて離ればなれになってしまい、その後、小夭は行方不明となります。そんな彼女を300年探し続ける瑲玹は、身分を隠してやってきた清水鎮で小六という男性医師と出会います。けれど、その正体が小夭であることに気付けなかった。それは瑲玹が誰も信じずに心を閉ざして過ごしてきたから。あらゆることに策略をめぐらせることに頭がいっぱいで、小六に対しても疑心暗鬼となり冷徹な態度を取っていたんです。彼がようやく小六の正体に気付くシーンはとても印象的でした。何事にも冷静だった瑲玹が、肩で息をするくらい動揺して初めて感情を乱す。ジャン・ワンイーの真に迫った演技が素晴らしかった。誰も見ていないところでは小夭のことを1人の女性として好きという気持ちがつい漏れ出てしまうシーンもあって……。果たすべき使命と自分が欲している愛との板挟みになる切ないキャラクターです。
沢井 瑲玹の愛が従兄妹としてなのか、1人の女性への愛なのか、どちらなんだろうと注目して観ていました。それをはっきり悟らせない展開は脚本の妙だなと感じました。
島田 ジャン・ワンイーは内面にマグマのようなものを隠しながら感情を抑える役がうまいなと思いました。他人には自分を出さないキャラクターがハマり役ですよね。
小酒 目の演技が上手だなと。視線に艶っぽさと、独特な目力がある。瑲玹は他人に感情を悟らせないようにする策略系男子なので、一見表情は平静を装っているんだけれども、よく見ると目で多くを語っている。感情を抑えた演技でも、視聴者に目で複雑な感情を伝えてくるというか。
沢井 小六の正体に気付きながらもそれを本人に伝えていないとき、目から涙をこぼすシーンがあったと思います。それまでの仮面を被ったような外向けの顔から、瑲玹の人となりが見えた顔になって、すごくハッとさせられました。
小酒 ジャン・ワンイーはどちらかというと現代劇で素朴な男性を演じることが多くて、若手イケメンがいっぱい出てくる時代劇は「長相思」が初めて。「時代劇の俳優はみんな痩せている」と気付くと、撮影期間中も縄跳びを毎日朝晩3000回してダイエットに励み、最終的には10kg減らしたそうです。ストイックですよね。