燃え殻×成田凌のHuluオリジナル「あなたに聴かせたい歌があるんだ」、スタッフとキャストから紐解くドラマの見どころを徹底解説 (2/2)

上杉柊平/中澤悠斗役

武道館を夢⾒るバンドマン・中澤悠斗役は上杉柊平。2015年にドラマ「ホテルコンシェルジュ」で俳優デビューを果たして以来、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」や映画「リバーズ・エッジ」など出演作が途切れることがない。自身もKANDYTOWNの一員として活動を行うだけあり、悠斗がバンドマンとして、ステージに立つ自信に満ちあふれた姿はもちろん様になっているが、ステージを降りたときの未来に不安を覚える憂いを帯びた表情もバランスよく見せる。今作の監督・萩原健太郎がメガホンを取った映画「サヨナラまでの30分」にも、劇中バンド・ECHOLLのドラマーとして出演しており、萩原の描くバンドマン像を体現している人物とも言えるだろう。また、悠斗はバンドマンの次の道を歩む姿も描かれている人物。夢をあきらめたあとも人生は続いていく、その中にも喜びがあるというメッセージを、前田ゆかとは別の角度で見せてくれる。

前田敦子/島田まさみ役

前田敦子が演じるのは、人気アイドル・八木今日子のモノマネ芸人・島⽥まさみ。きらびやかな衣装に身を包んだ憧れのアイドルのポスターに囲まれる中で、模した衣装を手作りする際の翳りある表情は、今や前田の得意分野と言ってもいいだろう。前田の俳優としての実力を見せつけたきっかけでもある映画「苦役列車」での桜井康子役を彷彿とさせる、艶やかかつ湿っぽさが存分に生きる。言わずもがな、AKB48のセンターとして日本のアイドル界を牽引してきたそのスター性も健在で、ポスターの中で微笑む八木も前田が演じている。同じ曲を同じ前田がパフォーマンスしているはずなのに、完璧な八木と、八木のモノマネをする“七木今日子”こと島⽥まさみでは纏う空気が異なるから不思議だ。また高校生時代の島⽥は、孤独を刃に替えてクラスの中心人物になっている存在。前田はこちらの島田の葛藤も見事に演じきっている。

田中麗奈/望月かおり役

物語の鍵である、望⽉かおりを演じるのは田中麗奈。望⽉は27歳のときに高校の英語の臨時教師として教壇に⽴つも、過去に下着姿でグラビアに出ていたことを生徒たちに暴露され学校を去る元⼥教師というセンセーショナルな役どころ。各主人公たちが“27歳”を意識するきっかけにもなる。「暗いところで待ち合わせ」や「夕凪の街 桜の国」、近年では「幼な子われらに生まれ」など、メッセージ性の強い映画で主役を務めることが多い田中には、凛としたイメージが定着している。しかし、今作の望⽉は、生徒の中にも初恋の相手が望月であったというメンバーがいるなど、ある種の羨望の眼差しを浴びつつも、自身は苦悩と困難の連続。そんなひたむきに生きる望月を、田中はまっすぐに熱演。まっすぐゆえに隠しきれない苦しさがにじみ出るという形で、望⽉の苦悩を表現している。ラストシーンの後ろ姿には、望月の幸せを願わずにはいられない。

ドラマを彩るゲスト出演者たちにも注目!

「あなたに聴かせたい歌があるんだ」

「あなたに聴かせたい歌があるんだ」

多彩な各話ゲストも見どころ。ベストセラー作家・並⽊翔平役を演じる後藤淳平(ジャルジャル)は、笑いを封印した神妙な表情で、全8編をつなぐキーパーソンを好演している。そのほか、ドラマ「liar」主演も記憶に新しい見上愛、映画「明け方の若者たち」や放送中のドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」など出演作が続く楽駆、映画「パコと魔法の絵本」での俳優デビューが⼤きな話題を呼んだアヤカ ウィルソンなど、注目の俳優陣が各話に登場。さらには怒髪天メンバーや、テーマ曲「エイリアンズ」を担当するキリンジの元メンバー・堀込泰行などもさまざまな場面で主人公たちを盛り上げる。

監督・萩原健太郎のこだわり

萩原健太郎

萩原健太郎

主人公たちの人生のきらめきが見える作品

本作の監督を務めたのは、映画「東京喰種 トーキョーグール」「サヨナラまでの30分」の萩原健太郎。小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読んで燃え殻にTwitterでDMを送ったことをきっかけに、今作の制作に至ったという。燃え殻の世界観に惚れ込んだというだけあって、ドラマ本編はもちろん、エンドロールは燃え殻の著書を思わせるようなつくりに。各話ごとのタイトルバックにもこだわりが光る。また、ときおり俯瞰したカメラワークになるのも印象的。「あなたに聴かせたい歌があるんだ」というタイトル通り、まるで彼らの人生を“あなた”に見せているような、視聴者が“あなた”として物語に自分事として加わっているような感覚にさせられる。今作について萩原が「曖昧な灰色のまま悩み続ける人々の光を切り取った」とコメントしているように、King Gnuのミュージックビデオなどを手がける光岡兵庫によるざらりとした映像の中に、主人公たちの人生のきらめきが見える作品がここに完成した。

「あなたに聴かせたい歌があるんだ」

「あなたに聴かせたい歌があるんだ」

劇中美術について萩原健太郎のコメント

今回、特にこだわった点は2点あります。1つはそれぞれ登場人物の心情を表した空間作り、もう1つは時間の流れです。

前者は、言い換えれば象徴とも言えます。例えば、1話のスナックは、これは全篇通して「星」を象徴としてちりばめているのですが、ここでは「消えゆく星たち」をイメージし、夢を諦めた荻野の心情を表しました。星は消滅するとガスになると読んだ事があって、部屋にきらめく寒色のイルミネーションで星を、室内全体にスモークを焚く事で、ガスを表現しました。また部屋全体を、飾られている絵も含めて寒色で統一することで、荻野が感じている社会の冷たさを表現しました。ただ、ドアに付けられたスナックの電飾(タイトル)だけは暖色にして、この作品の視点はあくまで荻野に寄り添っている事を伝えています。

次に後者ですが、ドラマ自体が時間の話でもあるので、そこに映っているものからも時間の流れをきちんと感じられるようにしました。そしてそれがただ古いだけの印象にはしたくありませんでした。映画やドラマで「汚し」と言って、経年劣化を表現するために新しいものを敢えて汚すのですが、その汚しを丁寧にすることで、古いものが美しかったり、味があるように見せたいと美術デザイナーと話しました。この効果として、一つの視点から物語を語る事を回避もできます。例えば、6話に出て来る島田まさみの実家ですが、ダメ親父ではありますが、このダメ親父がいる部屋をただ汚い場所に見せるよりも、汚いけど味があるように見せる事で、この親父に奥行きを感じさせることが出来る。白でも黒でもない灰色の世界を描いている今作では、必要な表現だったと思っています。

他の美術も以上のような視点で見ていただけると、さらに楽しんでいただけるかもしれません。