入江悠が語る「21ブリッジ」|チャドウィック・ボーズマン最後の主演作!ハリウッドの歴史を受け継ぐ王道エンタメ

歴史を受け継ぎつつ、現代的にアップデートされている

──そもそも映画を観るときは、「監督」の視点になってしまうんですか?

いや、純粋な映画ファンだった頃と同じ気持ちで観ているつもりで、「ここはすごいな」「ちょっとダルいかな」なんて素直に反応するのですが、「21ブリッジ」のような伏線の張り方は、やっぱり映画監督として観てしまうのかもしれません。車が突っ込んでくるなどちょっとした演出で、「これは怪しい」と感じさせるとか、映画監督としての見方ですね。

──そのほかにも撮る側として観た部分は?

夜の撮り方でしょうか。雨が降ってくるところなんか、いかにもフィルムノワール的です。夜のシーンを撮るのは本当に難しいのですが、この映画は素晴らしい映像になっていました。

──ニューヨークに愛がある入江監督にとって、街の雰囲気はいかがだったでしょう。

「21ブリッジ」

ニューヨーク自体は撮影に協力的な都市なので、部分的とはいえ、ロケを行ったシーンでは、その魅力が生きていると感じました。観光地から一歩裏へ入ったストリートの空気感もクライムサスペンスっぽくて、子供が大人の世界を知るドキドキ感がありましたね。ニューヨークを舞台にしたサスペンスが好きな人にはたまらないでしょう。

──同じような設定を日本映画で作ったら、どうなりそうですか?

東京を封鎖する映画を僕らが日本で撮ったら、「ここは一回、都知事に相談に行くよね?」とか余計な話を入れてしまうかも(笑)。「21ブリッジ」はそこをすっとばして進めるのが、アメリカ映画っぽいですが、結果的にスピード感も生まれた。2時間以内に収めているところも感心します。ある意味で「映画の嘘」が効果を発揮しているんですよ。

──チャドウィック・ボーズマンのように、入江監督が「もうこの人とは、一緒に仕事ができない」と残念に思った相手はいますか?

具体的に「誰」というわけではありませんが、映画って作り物とはいえ、カメラで記録するという意味で、ドキュメンタリーでもあると思うんです。瞬間、瞬間を映像に収めることで、その人が亡くなっても作品は残る、という気持ちで撮っています。チャドウィックは、これからも作品がずっと残っていくと思うので、一緒に仕事をしたスタッフがうらやましいですね。自分だったら、この人の魅力をどうやって引き出せるか。そう考えさせてくれる俳優の一人でした。

入江悠

──海外の俳優と仕事をする醍醐味は何でしょう。

「ジョーカー・ゲーム」でイギリスの俳優さんと仕事をしたとき、いつも以上に細かいやりとりがあり、コミュニケーションが密になった印象があります。そうした経験をすると、日本の定型とは違うやり方で、もっとチャレンジしたくなります。

──ではハリウッド進出という可能性は?

確かに「21ブリッジ」のような映画を観ると、「いつかアメリカで撮ってみたい」という野心に目覚めるかも(笑)。人種の多様性や、そこから生まれる混沌は、アメリカ映画ならではの面白さですから。

──最近のハリウッド作品を観て、何か変化は感じていますか?

ここ数年、アメリカ映画でも演技の質が変わってきていると実感します。例えば「スリー・ビルボード」のように、現実と地続きの表現が増えてきて、ハリウッドの王道の作品もリアリズムに近付き、洗練されてきた印象でしょうか。「21ブリッジ」も、最初に話した「逃亡者」のようなクライムサスペンスの歴史を受け継ぎつつ、演技は現代的にアップデートされている。そういう流れに気付くのも、映画を観続ける楽しみなんですよ。