エンディングの「アレ」の正体
平池 小ネタですが、まだ出していないネタでいうと……エンディングの冒頭に、ランタンみたいなのが出てくるじゃないですか。
ふじた うちの姉からも、LINEで「これ何?」って写真つきで問い合わせがきました(笑)。
平池 実はあれ、ランタン型のスピーカーなんです。アニメのロケハンに行かせてもらった、とある大手企業の休憩スペースに置いてあったもので、アニメでも「このスピーカーからテーマ曲が流れている、というふうに見せられたらいいな」と思いつき、エンディング担当にオーダーして出しています。私はオーディオ機器とかイヤホンのライトヲタクなので、前からランタン型スピーカーの存在については知っていたのですが、アニメを見た方にこの話をすると「あれ、スピーカーだったんですね!」と驚かれることが多いですね。ロケハンの一番の成果かも。その会社の設備が立派すぎて(笑)、オフィスに関しては喫煙室など一部だけ参考にさせてもらいましたが。
ふじた たしかに「ヲタ恋」のメンツがあんな大手の会社に入れるとは、到底思えないですね(笑)。
平池 ほかのメンバーはまだしも、成海が転職してくると考えると、難しいかもしれません(笑)。ただ、第1話冒頭で成海と花子が顔合わせをする部屋は、その会社のVIPな応接室を参考にしています。
──オーディオ機器といえば、宏嵩がしているイヤホンも毎回違ったものでしたね。
平池 私に加えてプロデューサーの五十嵐さんがイヤホン好きというのもあるのですが、演出的な意味としては、第9話で語られる“宏嵩がなぜピアスを空けたのか”というエピソードまでに、ピアスの跡を強調したかったんです。だから耳元にズームしていることが多く、そこで付けているイヤホンが実は毎回違うという小技を効かせました。
──なるほど。一挙両得な演出だったのですね。
平池 耳だけを毎回見せていてもつまらないと思うし、イヤホンも一機種をあまりに推してしまうよりはバラけさせたほうがいいので。それに、原作でも宏嵩の部屋のベッドの上に、ヘッドフォンが結構何種類が吊るしてあったので、宏嵩もオーヲタなのかな?と思い、そういう演出にしています。
──宏嵩なら、ゲームによってイヤホンを変えていてもおかしくないですね。
平池 「シューティングはこういう音で」「アクションはやっぱり重低音がいる」とか(笑)。
ふじた FPSは「どこから撃ってきているか」を判断するために、いいイヤホンを使うのが大事と聞くので、あり得ますね(笑)。
ファンにはうれしい悲鳴をあげさせたい
──「ヲタ恋」は先日、実写映画化も発表になりましたね(参照:ふじた「ヲタクに恋は難しい」実写映画化!お馴染みの新刊告知PVで発表)。
平池 私もアニメのスタッフも、実写の監督やキャストの発表を楽しみに待っています。(取材が行われたのは8月末。9月18日に実写映画版のキャストが発表された。参照:映画「ヲタ恋」は高畑充希&山崎賢人のW主演、福田雄一監督で「歌ったり踊ったり」)アニメを一緒に作った私も原作のふじたさんも、「このキャラこうなったのかーっ!?」とか唸るような、いい意味での「裏切られ感」「してやられた感」があったら面白いなと個人的にハードル上げめで期待しています。
──そしてアニメ続編のOADも制作中ということで。
平池 原作の4巻に収録されている、樺倉と花子のエピソードを収録予定です。ふたりが高校バレー部で先輩・後輩の関係だった頃の話ですね。
ふじた 杉田さんが高校生を演じられるのは久しぶりだと思うので、個人的にはそこが楽しみです(笑)。
平池 原作でも、すごく人気のある話なので、ファンの方は喜んでくださると思います。アニメもマンガも変わらないと思いますが、やっぱり、読む人・観る人に、うれしい悲鳴を上げさせたいんですよ。「コミックにBlu-ray!? ……見たい! 欲しいっ!!」と(笑)。今回、アニメのBlu-ray / DVDは、パッケージのサイズもコンパクトで、装幀がすごく可愛いんです。これも、うれしい悲鳴を上げてもらいたいですね。
──お菓子のパッケージのようですね。
平池 男性ファンは手に取るのは恥ずかしい、と思う方もいると思いますが、敢えて「樺倉なら店頭で恥ずかしくて受け取れないだろうな」と樺倉プレイを楽しんで下さい(笑)。アニメ化の話を最初にいただいたときは、10代中盤から20代中盤の女性ファンが多いと聞いていたのですが、アニメでは男性ファンも増やせるはずだと思っていました。実際、Twitterや周りで感想を見ていると、男性ファンもどんどん増えていったという手応えがあります。
──描き下ろしブックレットが特典として付くということですが、どんな内容なのでしょう。
ふじた 本編に対してのこぼれ話というか、おまけ的要素の強いものですが、その巻のアニメを見終わったあとに読んでもらえるとクスッと笑えるような、それぞれのディスクの収録内容に少しだけ関係するものになります。「誰の下着がピンクなのか?」というネタなど(笑)、カラーでしかできないものにも挑戦しているので、楽しんでもらえるとうれしいです。
平池 それと、ディスクにはオーディオコメンタリーが全話入っています。私が収録時に聞いた話では、キャストがそれぞれ趣味のことを語りまくっていたり、ノリに全フリしたような面白い内容が繰り広げられていたとのことなので、とくに「ヲタ恋」キャストが好きな方たちは、このチームならではのノリの良いところも聞けると思います。
平池監督が語る、「ヲタ恋」の魅力と新しさ
──改めて「ヲタ恋」の新しさや、ここまでヒットした要因はどのあたりにあると、平池監督は思われますか。
平池 アニメを作っているときには気付かなかったのですが、放送が終わってファンの方や身近な人の感想を聞いて思ったことの1つが、ヲタクという存在やワードの面白さや難しさにフォーカスした点が重要だった、ということです。いわゆるディープなヲタク層ではなく一般層に受けたのは、これまでよりもヲタクが身近な存在になったという現実がある。それと同時に「ヲタクって何?」という謎の部分もまだあり、新しい世界、見知らぬ存在に対するみんなの興味に応えたのではないでしょうか。そういった興味を刺激するようなエッセンスが、この作品には詰まっていたのだと思います。
──なるほど。「ヲタクとは?」という一般層の興味にうまく合致した、ということですね。
平池 どんな温度感でヲタクという存在を描くかは難しいところですが、原作はもちろん、アニメでもそこがちょうどよかったのではと思っています。例えば、一般層ではなくディープ層向けにアニメ「ヲタ恋」を作るとすれば、「1話あたりどれだけ最新のパロディを入れられるかが勝負」といったヘビーユーザーに向けた作り方をしないといけない可能性があった。でも、今回は「ノイタミナ」という一般層にも広く訴求できる枠だったので、マンガからそれほど調整する必要はないと考えて作らせてもらいました。それと、アニメ史上でいうとオフィスを舞台にした「ヲタ活」や「アフター5活動」を描いた作品で、かつライトなコメディというのは珍しいですよね。
ふじた でも普通に考えたら、社会人でヲタクする期間のほうが長いですからね。
平池 やはり社会人を描いていて、かつキャラクターに対するシンパシーを獲得できたからこそ、ファン層を広くキャッチできたのかもしれないです。「ヲタ恋」のことを、「宏嵩はなんだかんだいってもイケメンだし、みんな結局リア充じゃん」という人もいますが、とはいえどのキャラにもほのかに差す「私ヲタクだから……」という影の部分がある。成海もすごく元気だし明るいけれど、一般の人にはヲタクであることを隠していて、「バレてはいけない」という負い目のような部分が影になっていたりもします。それがいい苦味になっていて、魅力につながっていると思いますし、作品に独自の深みを与えているのだと思います。
──いかに恵まれているように見えようと、明るく楽しいだけがヲタクではないというところに、リアリティを感じます。
平池 どれだけヲタクという言葉や存在が一般的になっても、この言葉自体が持つ縛りや、存在のありようにつきまとう影の部分ですよね。キラキラしたアイドルが「『エヴァ』好きです」とか「『ラブライブ!』に夢中です」と言う時代になりましたが、やっぱりどこか仄暗い部分が残る。しかし、それも含めて本作のようにヲタクの素晴らしいエンジョイライフが多くあらんことを願います。
- Blu-ray / DVD「ヲタクに恋は難しい①」
- 発売中 / アニプレックス
-
完全生産限定版 [Blu-ray]
4320円 / ANZX-12631~2 -
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4320円 / ANZB-12631~2
- 完全生産限定版・特典
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原作者・ふじた描き下ろし漫画収録 特製ブックレット
キャラクターデザイン・安田京弘描き下ろしデジパック
特典CD:「ヲタクに恋は難しい」Original Soundtrack Vol.1
音声特典:オーディオコメンタリー
- 第1話出演者:伊達朱里紗、伊東健人
- 第2話出演者:伊達朱里紗、伊東健人、沢城みゆき
映像特典:ノンクレジットオープニング&エンディングムービー
- TVアニメ「ヲタクに恋は難しい」
- スタッフ
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原作:ふじた(「comic POOL」連載/一迅社刊)
監督・シリーズ構成:平池芳正
キャラクターデザイン:安田京弘
アニメーション制作:A-1 Pictures
制作:「ヲタ恋」製作委員会
- キャスト
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桃瀬成海:伊達朱里紗
二藤宏嵩:伊東健人
小柳花子:沢城みゆき
樺倉太郎:杉田智和
二藤尚哉:梶裕貴
桜城光:悠木碧
ほか
- ふじた「ヲタクに恋は難しい⑥」
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- ふじた「ヲタクに恋は難しい⑦」
- 2019年3月29日発売 / 一迅社
- ふじた
- 兵庫県出身。2014年からpixivで「ヲタクに恋は難しい」をアップし始め、ダ・ヴィンチ(KADOKAWA)による「次にくるマンガ大賞2014 本にして欲しいWebマンガ部門」で1位に選ばれた。その後、一迅社より単行本を発売。現在comic POOLにて「ヲタクに恋は難しい」を連載中。
- 平池芳正(ヒライケヨシマサ)
- アニメーション演出家、監督。サテライト所属。主な監督作に「スケッチブック ~full color's~」「WORKING!!」「アマガミSS」「繰繰れ!コックリさん」「にゃんこデイズ」など。