キャラの「日常」をどう演じるか
──PVからの続投ですでに関係性ができあがっている中、アニメでの演出や声優さんへの要望などはありましたか。
平池 実は私は「PVの演技からは変えるからね」と最初に宣言をしていました。というのも、PVは時間も短いし宣伝が目的なので、成海も宏嵩もキャラが際立つような特徴的な演技をしなければいけない。対して、TVアニメではキャラの平常時も作らないといけないので、声優さんにはPVとは違う演出をオーダーしました。例えば、尚哉役の梶(裕貴)くんには「もうちょっと年齢が上の感じにしたいんだ」とお願いして。PVでは声だけで表現しなきゃいけないこともあって、尚哉はかなりかわいらしさを重視して演じていたけど、アニメの中で実際の大学生として彼が動いたときにはかわいらしすぎてしまうなと。もしそれを、ファンが気付かないレベルでできていたとしたら、いい調整ができたなと思います。
──全然気付かなかったです。プロの仕事ですね。
平池 中でもコミックス初期のPVから参加して、キャラの場数を踏んできた伊達さんと伊東くんは、変更に少し戸惑ったと思います。特に成海役の伊達さんは、テンションマックス!という感じでPVの声を演じていたので、アニメになったとき「私、ほんとに成海の声になってますか?」という不安を最初口にしていました。普通に力を抜いてしゃべっているのを聞いて、ふじたさんとも「成海になってるよ」「あれで全然いいのに」と言っていたのですが、彼女はしばらく不安そうに成海を探していましたね。
ふじた PVでは、「キャラにする」というのを強く意識されていたと思うので、アニメではキャラクターではなくて、「成海という人」に調整するというところに戸惑われていたのだと思いますね。「ヲタクの成海」から、「社会人の成海」にならなければいけなかったので。
平池 伊東くんも同じような戸惑いがあったみたいですが、最終的には2人ともうまくキャラクターの等身大の部分を掴んでくれて、よくやってくれたと思います。
ふじた コメディ部分はテンポ的にも割と一発OKが多かったのですが、生身の人間っぽさがある恋愛パートや、ちょっとテンションの低めの演技やクールな部分は作り上げるのが大変だったと思います。特に成海はテンションの落差が激しいので。だからこそ第9話や最終話の収録は「大丈夫かな?」とも思ったのですが(笑)、その頃には完全に掴めてましたね。
平池 私自身の考え方ですが、第1話のアフレコで、キャストもキャラクターも全部できあがるということはないと思っていて、むしろそこから作品としての伸び代をどこまで大きくできるのかが戦いだといつも思っています。そういう意味ではちゃんと、第9話や最終話をやるために、2人の出会いから積み上げていって、スタッフの熟成度やキャストの芝居の完成度も上がっていったからこそ、やりきれたのだと思います。ただし、花子と樺倉の先輩カップルは最初から「ドン!」と完成してましたけど(笑)。
アニメを経て、ようやく光の声が聞こえてきた
──アニメ化を経て、マンガのほうにも変化はありましたか?
ふじた ありましたね。まずアニメの会議のときに「宏嵩の同僚たちにも、実はこういう名前を付けてるんです」とチラッと話したら、キャスト表にちゃんと彼らの名前が登場して。しかも豪華なキャストさんが演じてくださったので、マンガでも「これはモブではいられないな」と。
平池 馬場役の寺島拓篤くん、相庭役の八代拓さん、千葉役の長江里加さんの3人ですね。6巻では3人がかなりクローズアップされていましたよね(笑)。
──6巻の社員旅行の場面で、同僚3人がたくさん活躍していたのは、そういった経緯があったのですね。
ふじた さすがに今のままだと、アニメオリジナルのキャラのようになってしまうので(笑)。あと先ほど平池さんが「かわいらしすぎてしまう」とおっしゃっていた尚哉も、最初マンガではかなり少年のように描いていたのですが、アニメを経て「確かに、大学生ってそんなに子どもじゃないよな」と思い(笑)、ちょっとずつ、年相応な言動に変えていってます。
──マンガの尚哉は、兄の宏嵩とは対照的に人付き合いもうまくていい子で、天使のような男子として描かれていますよね。
ふじた そうなんです。「天使」の側面を少し私が過大評価してしまい、そこを過剰に描いた面もあったので、もうちょっと等身大の大学生としての尚哉を描けたらと思い、5巻あたりから意識が変わってきました。尚哉も人間である以上、間違えるし悩むし、自分がやったことで人を傷つけてしまったら、どうしていいかわからなくなって「ごめんね」のひとことが言えなくなってしまう、そんな人間くさいところのある存在になりはじめています。アニメに携わったからこその変化ですね。
──もう一度冷静な目でキャラを見つめ直されたということですね。尚哉の相方、光もすごく味のあるキャラですよね。
ふじた 光は、悠木さんがキャラクターを完成させてくださったなという思いが強いです。実はそれまでは、マンガを描いていても光の「声」は聞こえてこなくて、どんなキャラなのか自分でもわからないところがありました。もともと光は、「男の子かな?」と勘違いされるくらい地声が低い、あまりかわいくない感じのガチのコミュ障というイメージで描いていたので、アニメでも「あまりかわいくしないでください」とお願いしていたんです。それを悠木さんが見事に再現してくださり、「これだわ!」と思いました。あまりリアルにしすぎると気持ち悪さが出るかなと思っていたのですが、悠木さんはヲタクっぽさを残しつつも「これはもう、守ってあげたい!」と思わせるかわいらしさを持った、すごくいいところに着地してくださったので、「光ってちゃんとかわいいんだ」ということを認識できました。悠木さんのおかげだと思います。魂が入ったというか、改めて声ってすごいなと思いました……。
平池 悠木さんに関しては、光がずいぶん後のほうでの登場だったので、出番のない回でもナレーション役をやってもらったり、あるときはゲームのエネミー役をやってもらっていましたが、面白かったですね(笑)。
次のページ »
エンディングの「アレ」の正体
- Blu-ray / DVD「ヲタクに恋は難しい①」
- 発売中 / アニプレックス
-
完全生産限定版 [Blu-ray]
4320円 / ANZX-12631~2 -
完全生産限定版 [DVD]
4320円 / ANZB-12631~2
- 完全生産限定版・特典
-
原作者・ふじた描き下ろし漫画収録 特製ブックレット
キャラクターデザイン・安田京弘描き下ろしデジパック
特典CD:「ヲタクに恋は難しい」Original Soundtrack Vol.1
音声特典:オーディオコメンタリー
- 第1話出演者:伊達朱里紗、伊東健人
- 第2話出演者:伊達朱里紗、伊東健人、沢城みゆき
映像特典:ノンクレジットオープニング&エンディングムービー
- TVアニメ「ヲタクに恋は難しい」
- スタッフ
-
原作:ふじた(「comic POOL」連載/一迅社刊)
監督・シリーズ構成:平池芳正
キャラクターデザイン:安田京弘
アニメーション制作:A-1 Pictures
制作:「ヲタ恋」製作委員会
- キャスト
-
桃瀬成海:伊達朱里紗
二藤宏嵩:伊東健人
小柳花子:沢城みゆき
樺倉太郎:杉田智和
二藤尚哉:梶裕貴
桜城光:悠木碧
ほか
- ふじた「ヲタクに恋は難しい⑥」
- 発売中 / 一迅社
- ふじた「ヲタクに恋は難しい⑦」
- 2019年3月29日発売 / 一迅社
- ふじた
- 兵庫県出身。2014年からpixivで「ヲタクに恋は難しい」をアップし始め、ダ・ヴィンチ(KADOKAWA)による「次にくるマンガ大賞2014 本にして欲しいWebマンガ部門」で1位に選ばれた。その後、一迅社より単行本を発売。現在comic POOLにて「ヲタクに恋は難しい」を連載中。
- 平池芳正(ヒライケヨシマサ)
- アニメーション演出家、監督。サテライト所属。主な監督作に「スケッチブック ~full color's~」「WORKING!!」「アマガミSS」「繰繰れ!コックリさん」「にゃんこデイズ」など。