ヲタクのままで、恋をする。しかも職場で──! そんなシチュエーションを笑いと胸キュンたっぷりに描き、多くのファンを獲得しているふじた「ヲタクに恋は難しい」。平池芳正監督の手により「ノイタミナ」枠でアニメ化され、さらに人気を加速させた本作のBlu-ray / DVDの第1巻が発売となった。
コミックナタリーではこれを記念し、ふじたと平池監督の対談を敢行。強烈で愛すべきキャラクターたちは、どのように作られていったのか、原作とアニメを縦断して「ヲタ恋」制作秘話を語ってもらった。
取材・文 / 的場容子
「7歳女子」もトリコにしたアニメ「ヲタ恋」の戦略
──「ヲタクに恋は難しい」(以下「ヲタ恋」)アニメ化にあたり、平池監督が工夫された点はどのあたりだったのでしょうか。
平池芳正 今回キャラクターが社会人なので、大人ならではのテンポ感には気を使いました。例えば、過去に私が監督した「WORKING!!」のキャラクターは高校生なので、スピード感のある空気感が合っていたのですが、それに対して「ヲタ恋」では社会人らしいのんびり感が必要だと思ったので、そこはギアを切り替え、ほどよいフィット感を探しました。
──確かに、「ヲタ恋」はオフィスのシーンも多いですし、会話ひとつとっても学生と社会人ではテンポが違いますよね。
平池 そこを目指した結果、功を奏したのか、「ヲタ恋」はびっくりするくらい一般層のお客さんが観てくれたようで。先日も実家に帰ったときに、知り合いづてで「アニメ『ヲタ恋』好きです!」とか、「うちの娘が好きなんです。7歳なんですけど……」とお父さんから言われたりして、「ちょっと早いっす!」と返したり(笑)。
──7歳! 今は意味がわからないまま聞いているヲタク用語も、だんだんとわかるようになっていくんでしょうか。
ふじた それは困りますね(笑)。
平池 腐女子さんの入り口になったりして……(笑)。
──ふじたさんは、アニメで好きなシーンや印象に残っているセリフはありますか?
ふじた 一番好きなのは第9話(「デートへ行こうよ!」)の成海と宏嵩が遊園地に行く回ですね。アニメの絵と色に声優さんの声が合わさり、すべてが一緒になったときに、「これは原作を超えたな!」って思いました。まさに「ドラマになっている」と感じましたね。正直、この回はマンガでは思っていたほどドラマティックにならなかったという思いがあったのですが、アニメでは恋愛の甘さや、大人の空気感がしっかり出ていて、「さすが平池監督、プロだ……!」と感動しました。
平池 自分としても力を入れた回ではあるのでうれしいです。でもふじたさんの“甘くしすぎない”ところも、絶妙なさじ加減で魅力的だと思います。
ふじた ありがとうございます。でも遊園地の回に関しては、甘くしたかったのに、甘くならなかったんですよ!(笑) あれが限界でした。
──(笑)。一歩踏み込んだ恋愛の描写になると、照れが出るのでしょうか?
ふじた 描き手からすると、キャラクターの感情を何回も繰り返し考えるので、どんどん冷静になってしまうんです。突然すっと冷めるときがあるんですよね、「お前は何を言ってるんだ……?」と(笑)。それが照れなのかはわからないのですが、キャラの気持ちになりきって描くのが苦手で。でも今後はちょっとずつ払拭していきたいと思っていて。アニメをきっかけにドラマティックな展開やラブコメの空気感を勉強しなくてはという思いが強くなってきたので、最新6巻では大人の空気感を出そうとがんばってみました。言葉ではなく、「空気でときめかせたい」と思って(笑)。……でも、結局「胸キュン」なシーンもつかの間、次の瞬間、成海はガチャ引いて、通常運転に戻ったんですけど(笑)。やっぱり長くは耐えられなかったんですね。
平池 めちゃめちゃガチャ引いてましたよね(笑)。
──(笑)。「ときめき」と「コミカル」のバランス感も「ヲタ恋」の魅力だと思います。
ふじた 私の作る「ヲタ恋」は、やっぱり「ボケたら決める、決めたらボケる」というところが個性だと思っているので、おそらくこれからも、ロマンティックなシーンがあっても、最後はちょっとボケるというスタンスは変えずに、かつ、読者にもちゃんと「あのシーンにはときめいたな」という読み味を持ってもらえるように続けていきたいと思います。
キャスト同士のチーム感!
「ヲタク用語指導」を担ったのは……?
──アフレコ現場はどんな雰囲気だったのでしょうか。
平池 メインキャストはPVから続投だったので、チームワークがとてもよかったですね。それと、このチームでよかったなとつくづく思うのが、キャストの皆さんのヲタク度がさまざまだったことです。要は、すごく深い樺倉役の杉田(智和)くんに、ほどよくヲタクな成海役の伊達(朱里紗)さんと宏嵩役の伊東(健人)くん、それに対して「あなたたちは何を言っているの?」みたいな、まったくヲタクではない花子役の沢城(みゆき)さんと幅広くて。
──ヲタク度合いにグラデーションがあったのですね。マンガのセリフでは、ヲタク用語やネットスラングがたくさん出てくるところも魅力ですが、例えば「おk」「ンゴ」など、文字で見かけることがほとんどであるヲタク用語をアニメでどう発音、発声するかなど、声優さんへの指導や演出はあったのでしょうか。
平池 収録していて面白かったのが、セリフにヲタク用語が出てくると「それはこういう意味からこう来ているから読みはこんなふうですよ」と、もっともディープな杉田くんの解説が入るんですよ(笑)。それに杉田くんは、パロディネタのシーンでも「(いじり方は)このくらいの角度にしておいたほうがいい」とか、「このネタばっかりやっていると、◯◯のファンからツッコミが入るから抑えたほうがいい」とか、玄人の心理を非常に深く読んだ視点から提案をしてくれまして。
ふじた すごかったですね(笑)。とあるキャラ名の読み方についても、「今でも二分化していて、タブーみたいになっているから触れるのは危ないよ」とか、歴史を踏まえたアドバイスをされていました。
──杉田さんは、キャストとしてはもちろん、「ヲタク用語指導担当」としても大活躍だったのですね。
ふじた クレジットにスペシャルサンクスとして入れたいくらいですね(笑)。
平池 杉田くんがいないときは、光役の悠木(碧)さんがその役を買って出たり(笑)。「今日は杉田くんの代わりに、悠木さんがアドバイスをする日なのか」みたいな現場でしたね(笑)。
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キャラの「日常」をどう演じるか
- Blu-ray / DVD「ヲタクに恋は難しい①」
- 発売中 / アニプレックス
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完全生産限定版 [Blu-ray]
4320円 / ANZX-12631~2 -
完全生産限定版 [DVD]
4320円 / ANZB-12631~2
- 完全生産限定版・特典
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原作者・ふじた描き下ろし漫画収録 特製ブックレット
キャラクターデザイン・安田京弘描き下ろしデジパック
特典CD:「ヲタクに恋は難しい」Original Soundtrack Vol.1
音声特典:オーディオコメンタリー
- 第1話出演者:伊達朱里紗、伊東健人
- 第2話出演者:伊達朱里紗、伊東健人、沢城みゆき
映像特典:ノンクレジットオープニング&エンディングムービー
- TVアニメ「ヲタクに恋は難しい」
- スタッフ
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原作:ふじた(「comic POOL」連載/一迅社刊)
監督・シリーズ構成:平池芳正
キャラクターデザイン:安田京弘
アニメーション制作:A-1 Pictures
制作:「ヲタ恋」製作委員会
- キャスト
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桃瀬成海:伊達朱里紗
二藤宏嵩:伊東健人
小柳花子:沢城みゆき
樺倉太郎:杉田智和
二藤尚哉:梶裕貴
桜城光:悠木碧
ほか
- ふじた「ヲタクに恋は難しい⑥」
- 発売中 / 一迅社
- ふじた「ヲタクに恋は難しい⑦」
- 2019年3月29日発売 / 一迅社
- ふじた
- 兵庫県出身。2014年からpixivで「ヲタクに恋は難しい」をアップし始め、ダ・ヴィンチ(KADOKAWA)による「次にくるマンガ大賞2014 本にして欲しいWebマンガ部門」で1位に選ばれた。その後、一迅社より単行本を発売。現在comic POOLにて「ヲタクに恋は難しい」を連載中。
- 平池芳正(ヒライケヨシマサ)
- アニメーション演出家、監督。サテライト所属。主な監督作に「スケッチブック ~full color's~」「WORKING!!」「アマガミSS」「繰繰れ!コックリさん」「にゃんこデイズ」など。