「ヲタクに恋は難しい」完結記念インタビュー | 「続けてこれたのは読者さんの支えのおかげ」と語るふじたが、今だから明かす「ヲタ恋」で描きたかったこと

隠れ腐女子のOL・桃瀬成海と、ルックスがよく有能だが重度のゲームオタクである二藤宏嵩ら、オタク同士の不器用な恋愛を描く「ヲタクに恋は難しい」が、7月16日に最終回を迎えた。2014年にpixivで公開されたのち、Webマンガサイト・comic POOLにて連載され、2015年に「このマンガがすごい!2016」オンナ編で1位を獲得。さらにTVアニメ化、実写映画化もされ、SNSを中心に人気を集めた。コミックナタリーでは6年におよぶ連載を完結させたばかりのふじたにインタビューを実施。「ヲタ恋」について改めて語ってもらうとともに、Twitter上で募集したファンからの質問にも答えてもらった。

取材・文 / 増田桃子

続けてこれたのは読者さんの支えのおかげですね

「ヲタクに恋は難しい」11巻

──今回、Twitterでファンの方からふじたさんへの質問を募集しました。質問を交えながら、お話を伺えればと思うのですが、まずは完結した率直なお気持ちを聞かせてください。

実はまだ最終巻の描き下ろし作業をやっているので、「完結した!」っていう気持ちにはなってないんです(笑)。でも1つの区切りとして、最終話を描き終えたことに関しては感慨深いですね。計算された最後ではまったくなくて、ネームを切るまでこんな最後になるとは思っていませんでした。読者さんがここまで運んでくれたんだと思ってます。奇跡みたいないろんなことがあってこういうラストに落ち着いたというか。キャラクターが生きている感じがして、すごいなあって他人事みたいに思っています。

──6年半という長期連載でしたね。

でもあっという間でした。「え、もう6年?」みたいな。最初の3年ぐらいは何をやっていたかあまり覚えてないんですよ。とにかく描くのに必死だったので、作品を落ち着いて見られるようになったのはここ1年ぐらいですね。

──読者さんからはこんな質問もありました。「漫画家を仕事とする、ということはかなり難しい選択だったと思うし、しんどいこともあったと思うのですが、その中でもこの選択をしてここまで続けられた理由を教えていただきたいです」と。

これは完全に読者さんの支えのおかげですね。私自身は、頼まれたことにはがんばって応えてたつもりですけれど、その機会が与えられたのは、私ではなく周りの人ががんばってくれたからだと思いますし。ここまで続けてこられたのは本当にラッキーというか、運がよかったなって気持ちがすごく強くて。担当さんにもとても感謝してます。

──なるほど。

そして一迅社さんや書店さんが、広く本を売って、読んでもらえる機会を作ってくれたからだと思います。マンガを描くだけなら同人誌でもいいんですよ。でもそれをお仕事にして食べていくってなると、1人では絶対ムリなんです。だから読者さん、一迅社さん、書店さんの協力が得られたことと、人と人とのつながりみたいなのをありがたいなと感じてます。

──「1人ではできない」というのは、商業誌と同人誌との違いかもしれないですね。それが支えになったり、時にはプレッシャーになったりするのかなとも思いますが。

そうですね。商業誌のしんどさも、同人誌では得られない成果物も、プロのマンガ家にならないと得られなかったものなのかなと思います。

──連載を続けていく中でさまざまな賞を取られたり、アニメ化や実写化されたりと作品が大きくなっていきましたが、どんなふうに捉えていたんでしょうか。

途中から私の認知できるところではなくなったというか、作品だけが雲の上みたいなところに行って、その規模を正確に捉えることができなくなってしまって。だからあまり考えないようにしてましたね、考えると怖くなっちゃうので(笑)。一番印象的だったのは、「このマンガがすごい!2016」の女性部門1位に選んでいただけたときです。まだ1巻が出たばかりで、まさかそんなことがと信じられない気持ちでした。

──当時は、Webマンガがそういった大きな賞を受賞するのは珍しかったですよね。

「ヲタクに恋は難しい」1巻

そうですよね、私もビックリしました(笑)。それに、私は自分が腐女子とかオタクっていうのを親に言ってなかったので、「ヲタ恋」の1巻が出たとき親になんて伝えたらいいのか思うと憂鬱で(笑)。だから発売されてすぐには伝えられなかったんです。その後、実家に帰る機会があって、「今日こそ言わなきゃ」と思って親に1巻を渡して。「何これ?」って言われて、「私が描いたんや」って言ったら驚いて、「神妙な面持ちで出すから、エロマンガでも出てくるかと思った」って(笑)。そのとき、父親は「そろそろ帰ってこんか」って話をしなきゃなって思ってたらしいんです。せっかく里帰りしたしあと2日ぐらいは楽しい感じで過ごして、3日目ぐらいに言おうって。

──えー!

ギリギリ親孝行ができました(笑)。でも田舎だから私がマンガ家になった話が一瞬で広まってしまって……。たまに里帰りするときも、一握りの友達にしか知らせず帰ってます(笑)。しかもそれ以来、親がオタク文化に詳しくなってしまって。腐女子とかコミケとか、ネットを駆使して検索するんですよ(笑)。

友達のオタク話を聞くのが楽しくてスタートした「ヲタ恋」

──とてもいい話ですね(笑)。まるで「ヲタ恋」に出てきそうなエピソードです。読者さんからも「ちょくちょく挟まれるヲタクあるあるエピソードなどは、先生の実体験だったんですか?」という質問が来ていますが、これに似た質問は多かったです。

実体験や友達からの伝聞、友達の友達のエピソードが多いですね。ある程度リアリティに基づいて、さらにこうだったら面白いかなとか、このキャラクターだったらこうなるかな、みたいな感じで脚色して。私個人だとオタクとして語れる分野は狭いんですが、友達にはアニメオタクだったりアイドルオタクだったりバンドのオタクだったり、いろんなタイプのオタクがいるので、ほかの人の分野の話を聞くのが楽しくて。「ヲタ恋」を描こうと思ったのも、それをマンガにしたら共感してもらえたり、楽しんでもらえたりするんじゃないかと思ったのがきっかけです。

──お友達のエピソードで特に印象に残っているものはありますか?

マンガにした中だと、花子と成海が一緒にイベントに出るエピソードですかね。入稿1週間前でまだネームもできてないのに、そこからすごいスピードで原稿を上げて新刊出した、みたいな話を友達から聞いて、そんな奇跡があるんだ、これが好きの力かと(笑)。どうして最初からやらなかったのかってところはあるんですけど、その情熱へのリスペクトを込めて描いたつもりです。

──連載中、特に苦労した思い出はありますか?

しんどかった記憶が根深いのは、3巻の成海と宏嵩のデート回ですかね……。スケジュール的にはもっときつかった時期はほかにもあったんですが、ちょうどpixivさんのテレビCM用の取材が家に来て、それがけっこう大変だった記憶があります。そのときは自分なりにがんばったんですけど、向いてないことを背伸びしてがんばりすぎましたね(笑)。しかも難航していた描き下ろし作業も重なって、最後の最後まで担当さんと「どうしよう……」みたいな感じで悩んでいたので、ダブルでしんどかったのかなと思います。結局「ほかに思い浮かばないのでこれでいかせてください」みたいな半端な落としどころになっちゃったのが引っかかってるというか。しんどかったイメージが残っている要因だと思います。

「ヲタクに恋は難しい」5巻より。 「ヲタクに恋は難しい」3巻より。

──こんな質問も届いてます。「ふじた先生の絵柄が大好きなのですが、絵を練習していた際によく参考にしていた物はなんですか?又よく練習していたポーズや部位など知りたいです!」とのことですが。

絵柄は、特定の作家さんを真似て練習したというよりは、好きな作家さんから自然に影響されちゃったみたいな感じです。多感な時期ですからいろんなものに影響されがちで、私の世代だと「PEACE MAKER 鐵」とか。それこそゼロサムとか好きで読んでましたし、友達もみんな真似して描いてましたね。

──絵はいつ頃から描き始めたんでしょうか。

物心ついた頃からお絵描きは好きでしたが、マンガっぽいものは中学校ぐらいですかね。オタク友達を得て「なるほど、こういうものか」みたいな(笑)。私は普通に健康的な厨二病だったので(笑)、目にものもらいができたら「眼帯できるかな」ってワクワクしたり、骨折したら「大げさに包帯巻いてください」って頼んでみたり(笑)。

──(笑)。よく練習していたポーズ、部位などを知りたいとのことですが。

練習していたポーズや部位……もともと、手が好きなんですよ。特に男性の手の骨ばった手の甲の浮き出る骨筋とか、手首のボコッとしたところとか好きで。手フェチではあると思います(笑)。ちゃんと練習するようになったのはこの仕事を始めてからですが、手はこだわって描きたい部分ではあります。