現在放送中のもぐす原作によるTVアニメ「恋と呼ぶには気持ち悪い」は、オタク気質の普通の女子高生・有馬一花と女癖の悪いハイスペックなサラリーマン・天草亮の年の差ラブコメディ。コミックナタリーでは同作の特集第2弾として、天草亮役の豊永利行とアニメ「ヲタクに恋は難しい」で二藤宏嵩役を演じる伊東健人との対談をセッティングした。
「ヲタクに恋は難しい」は、隠れ腐女子のOL・成海と重度のゲームオタク・宏嵩をはじめとした、オタクカップルの日常を描くラブコメディ。「恋きも」「ヲタ恋」はともに、pixivで注目を浴び、一迅社のWebコミックサイト・comic POOLで連載が始まったのちにアニメ化されたほか、オタクの人々のあるあるなエピソードが盛り込まれるなど、さまざまな共通点が見られる作品だ。今回、豊永と伊東には2作品を軸にキャラクターの魅力、恋愛観、それぞれが思うオタク論について語り合ってもらった。
取材・文 / カニミソ 撮影 / 曽我美芽
一花さんは“おもしれー女”として読者の気持ちを代弁
豊永利行 「ヲタ恋」って2018年にアニメ化されたんですね。けっこう前からある作品なんだなって、今回の対談のお話をいただいて知りました。
伊東健人 単行本1巻が発売されたときのPVにも出演させていただいていて、それを含めると2016年から宏嵩を演じていることになりますね。アニメ化するにあたってPVやドラマCDからキャストが変わるタイトルもある中で、そのまま演じさせていただけたありがたい作品だったんですけど、そう考えるとけっこう長い付き合いになります。
──先ほど撮影をしていた際に、伊東さんはもともと「恋きも」の原作を読んでいたと話していましたが、ぜひ感想をお聞きしたいと思います。いかがでしたか?
伊東 劇中でも言われているように、序盤の亮さんは、やっぱり気持ち悪く感じましたね(笑)。一花さんに駅の階段から落ちかけたところを助けてもらって、のちに偶然再会するわけですけど、ほぼ初対面にもかかわらず、助けてくれたお返しとして何がいいかと考えた結果「キスとかは?」ですから。「女子高生相手に、なんてことを言ってるんだ!」ってなりますよね、そこは。
豊永 確かにね(笑)。
伊東 でも一花さんがイケメンでハイスペな亮さんになびかない、いわゆる“おもしれー女”として、読者が亮さんに対してツッコミたいところを全部言葉にしてくれるので、作品としてすんなり読めて、僕は「ああ、いいマンガだな」って思いました。豊永さんは「ヲタ恋」って読んだことあります?
豊永 僕は今回の取材がきっかけで初めて「ヲタ恋」を読んだんですけど、ヒロインの成海がオタクでいることを隠したいのに、たまたま転職先に幼なじみの宏嵩がいたもんだから、ボロボロと崩れていくという展開が面白かったですね。ネットスラングやオタク用語がバンバン出てきて、日常会話がもう濃いなって(笑)。いろんな好きがあって、いろんなオタクの形があっていいんだって思わせてくれた作品です。
──豊永さん演じる亮は、一花に一方的なアプローチを続けるストーカー気質な側面を持ち、伊東さん演じる宏嵩はゲームがないと死ぬレベルの“ゲーオタ”という一面を持っています。それぞれが演じるキャラクターについて、ここが萌えたというポイントがありましたら、教えていただきたいです。
伊東 ちょっと話がそれるんですけど、宏嵩に関しては親戚から「お前みたいなキャラクターだな」ってよく言われるんですよ。普段、声優の仕事をしていても親戚に自分がどのキャラを演じているか気付かれることなんてないのに、宏嵩に関しては一発でしたね。そう言われてから自分でも素というか、寝起きのテンションに一番近いと思っているんです。萌えポイントとしては、彼は背も高くてスタイルもよくて、パッと見イケメンなのに、感情が顔に出なくてわかりにくいんですよね。だけど、相方で幼なじみの成海には、その微妙な機敏が伝わるわけですよ。「ホント…宏嵩ってわかりやすい」って言ってくれちゃったりして。そういう部分はキュンとするというかいい関係だなと思うし、話が進むごとに距離が縮まって宏嵩の表情がやわらかくなっていくのもいいですね。
──通じ合っている相手にだけ感情がわかるところがポイントという。豊永さんは亮さんの萌えポイントや魅力はどういうところだと思いますか。
豊永 亮さんって、序盤は確かに気持ち悪いんですけど、それがだんだんキュートに見えてくるさまが大きな魅力だと思うんですよね。バレンタインデーのチョコの代わりにって、一花さんから突然ハグされるじゃないですか。そのへんから、亮さんがサラリーマンと女子高生という年の差に始まる、大人の悩みを抱えていくというか、一花さんに惚れて気持ち悪くなってるだけじゃないという一面がどんどん出てくるんですよ。その感情の機微が難しくもあり、気持ち悪さと悩みを抱えた大人という2つの要素のさじ加減に気を使いながら演じていました。たぶん今後のアニメの展開で、皆さんも亮さんの印象が最初と変わってくるんじゃないかと思うので、そのあたりのシーンを楽しみにしていただけたらと思います。
──キャラを演じていての難しさというお話が出ましたが、伊東さんは実際に宏嵩を演じて、難しいなと感じた部分はありますか。
伊東 宏嵩は感情が顔に出にくい受け身タイプで、「会話のキャッチボールをしないでください」っていうディレクションが飛んでくるようなキャラクターだったので、そこは難しいと言えば難しかったですね。普段、そんなこと言われないじゃないですか。感情を出さないなんてことは、養成所でもやらないことなので、こういう役柄もあるんだなって思いましたね。
恋はするもの、愛は与えるもの
──亮と一花、宏嵩と成海もそうですが、両作品の登場キャラのほとんどが不器用なタイプだと思うんですよね。そんな彼らが繰り広げる恋愛模様だからこそ面白いですし、見どころのひとつだと思うのですが、彼らの恋愛観について共感を覚えたり、逆にわかりにくかったりした部分はありますか?
伊東 わかりにくかったというのは全然なかったですね。宏嵩のほうは亮さんみたいに自分の気持ちを素直に行動には移せないんですけど、成海に対して何かしてあげたいって心の中では常に思っていて、かわいい奴だなって感じます。成海が仲良さそうにしている男の子がピアスをしているから、自分もピアス穴を開けるっていうエピソードがあるんですけど、そういう理由もまたかわいいじゃないですか(笑)。はっきりと明言されているわけじゃないけど、たぶん女性経験も多いほうではないんじゃないかと。そういう意味では、亮さんと宏嵩は不器用でありつつも真逆の部分がある2人ですよね。
豊永 確かにね。「恋きも」1巻よりも前の時間軸を考えると、亮さんは何度一夜限りの恋を経験してるんだってくらい、モテてるから(笑)。ただ亮さんって、女性の扱い方はスマートなんだけど、きちんとした恋愛をしてきていないと思うんですよ。一花さんに出会って、初めて胸がときめいたり、恋に落ちる感覚を知ったりしたところから物語がスタートしたと僕は思っていて。
伊東 なるほど。
豊永 哲学じゃないけど、僕は「恋はするもので、愛は与えるもの」だと思っているんです。亮さんは今まで全部与えられる側だったんだけど、一花さんと出会って初めてしっかりと恋をして、何かを与える愛というものを知った感じがするんですよね。亮さんの一花さんへの行動って、積極的に相手のことを考えながら、積極的に動くというのを体現しているじゃないですか。アプローチの仕方はともかく(笑)、僕の価値観とも重なるものがあるなあと、もぐす先生の亮さんの描き方に共感を覚えていました。なので、亮さんのことは自然と理解できた気がしています。
──変化した亮さんの価値観に共感したと。伊東さんは恋や愛に対する具体的な価値観をお持ちだったりしますか。
伊東 最近ほかのインタビューで答えたばかりなので、パッと出てきちゃうんですけど、「愛っていうのは言葉で伝えるのではなくて、好きな人を守るためとか、その人に相応しくなるために自分がどういう人間になるのか、どう行動していくのかを考え続けることだと思うんですよね」って、すごくカッコつけたことを言いましたね、僕(笑)。
豊永 すごくいいと思います(笑)。
──台本を読むかのように、スラスラと出てきましたね(笑)。ちなみに伊東さんは両作品のキャラクターの中で、誰の恋愛観に一番近いと思いますか?
伊東 亮さんですね。まあ僕からしたら、全員まぶしすぎるんですけど。
豊永 どんなところが近いと思ったの?
伊東 さすがに亮さんのように歯が浮くようなことは言えないですけど、例えば僕は人を好きになったら、どれだけ好きか、どう好きなのかをなるべく伝えたいと思うタイプなんですよね。そういったことを素直に言えるのは、亮さんかなって。「ヲタ恋」のキャラは誰ひとり、愛の告白を3行以上のセリフで言えないと思うんで(笑)。
──ちなみに豊永さんは好きな人に告白するとしたら、どんな形で伝えますか?
豊永 それ、妻子持ちに聞いちゃいます?(笑)
伊東 思い出話でいいので、お願いします!
豊永 そうですね、僕はサプライズで何かプレゼントすることはあっても、ムードにはこだわらないタイプでしたね。例えばホテルの最上階にあるレストランをセッティングして、雰囲気を作って告白とかはしない。僕も慣れてないですし、相手にも気を遣わせるじゃないですか。なので亮さんまではいかずとも、ごく自然な感じで、ストレートに言葉を伝えていました。
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伊東くんは粒子が細かいタイプのオタクなんだなって