コミックナタリー PowerPush - 大須賀めぐみ「VANILLA FICTION」
「魔王」「Waltz」から一貫して「絆」を描き出す作家性の源泉に迫る
大須賀めぐみインタビュー
ボウリングのボールで人を殴り殺すシーンが思い浮かんだ
──伊坂幸太郎さんの小説「魔王 JUVENILE REMIX」「Waltz」をコミカライズしてきた大須賀さんにとって、今回の「VANILLA FICTION」は初めてのオリジナル連載です。ただ「VANILLA FICTION」は「魔王」「Waltz」の系統を引き継いでいる印象を受けますし、サスペンスの色が強いですよね。
そうですね。でもサスペンスじゃなきゃ嫌というわけではなかったんです。最初はせっかくのオリジナルですし、スポーツものにしようと思ってましたから。
──それはまた、まったく印象が違いますね。
「Waltz」がそろそろ終わるかなというときに、担当さんと次回作の話になって。で、直感で「次はスポーツで行こっかな」と。
──元々スポーツは何かされてたんですか?
いえ、まったく(笑)。スポ根っぽいものを好きで読んでたりしてたので、勉強すればいけるかなと思ったんですよね。でも当然、そんな甘いものではなく……。ボウリングのマンガを描こうとしたんですけど、ボウリングって個人競技なので自分との闘いがありすぎて。うまくライバルとの対決に持っていけないな、というのがもう担当さんと話している段階で見えたので、お蔵入りになりました。
──なぜボウリングだったんでしょう。
いちばん最初に、ボウリングのボールで人をぶん殴るシーンが思い浮かんだんです。1ページ目でボウリングが始まると見せかけて、次のページをめくるとボールで人を殴り殺してる見開きがある、という。そこから話を広げていったら私らしいスポーツマンガができるかなと思ったんですけど、そこで打ち止めでした(笑)。
──ははは(笑)。めちゃくちゃバイオレンスですね。
そんな迷走もありつつ、結局バトルものをやろうってところに落ち着きました。初めてのオリジナルなので、あまり無謀なことはせずに、これまで培ってきたスキルをちゃんと活かせる土壌でやってみたいなと思ったので。
先生の能力は「魔王」で培ったことを活かして
──「VANILLA FICTION」ではバッドエンドしか考えられない悲観的な小説家が、相手のバッドエンドを予想して戦っていきます。この能力って、あまり派手なものではないですよね。
そこは「魔王」の安藤に近いんです。安藤も腹話術というちっぽけな能力しかなかったけど、それがとんでもない効果をもたらしていく。小さい能力を応用して、どれだけ大きいものにしていくかというのは「魔王」のときに勉強させていただいたことなので、それを活かせるようにとは思いました。
──これっていわゆる空を飛んだり気を放ったりみたいな超能力ではなく、誰でもできる可能性がある能力ですよね。
能力バトルものってすごく多いので、あんまりそこに寄らないようにとはしました。なるべく小さい能力にしようと。無理やりバッドエンドを考えるのは大変なんですけど、でもそれは「魔王」「Waltz」でやってきたことですから。「もう無理だ!」っていうピンチから這い上がるところから考えてきたので、担当さんと2人で案が浮かばなくなっても「大丈夫、我々はやってきたんだから」って励まし合ったり(笑)。
──「魔王」「Waltz」での実績がありますからね。
そう、意外となんとかなるもんなんです。
──先生がバッドエンドを考えるシーンは、2ページまるまる小説の文章で埋められていたりと、演出も新鮮です。
1巻の段階ではちょっと文章量が多かったかなとも思ってます。やっぱりマンガなので、どれくらいの長さなら読者も流さずに読んでくれるか考えたり。あと文字の大きさもいろいろと試行錯誤していますね。最初はより小説っぽく見せるために文章をキュッと詰めてたんですが、読みづらくなっちゃって。2巻ではかなり大きめに入れてみました。
最初は小説家ではなく物理学者だった
──主人公を小説家にしたのは、何か理由があるんでしょうか。
実は、最初は小説家ではなくて物理学者だったんです。物理の知識を使って能力者とバトルしていく、という。非能力者が能力者と、どれだけ自分の知識だけで戦えるのかを作ろうとしてたんですね。ただ、すごく盛り上がる場面で主人公が「備長炭を探せー!」「水と薪を探せ!」みたいな感じで、材料を探しはじめる展開になっちゃって(笑)。
──ははは(笑)。
でんじろう先生みたいになっちゃって。さすがに無理があるかな、ということでこれもお蔵入りになりました。それで、いろんな知識がある人って誰だろうって考えたときに、マンガ家や小説家は執筆するテーマによって取材を重ねたりしているから博識なんじゃないかと。
──ちなみに「魔王」「Waltz」で伊坂さんという小説家を身近に見てきたことは、この設定に活きていたりするんでしょうか。
ああ、確かにコミカライズをやっていなかったらすごく遠い職業に感じていただろうし、描くのに気負っちゃってた部分があったかもしれません。伊坂先生とお話したり、インタビュー記事なんかを読ませていただいたりして、小説家という職業を身近に感じられる部分があったので、その辺は抵抗なくすんなりと参考にできた気がしますね。
あらすじ
「世界を救うために、とある地でクッキーを食べる」そんな馬鹿げた現実を突きつけられた佐藤忍は、一気に片をつけるべく、エリ、太宰治とともに最短ルートで旅立った……はずだった。
行き着いたその先に立ちはだかるは、太宰に続くもう1人の「不死者」! そして迫り来る、もう1人の「指輪の持ち主」!
ついに判明する敵チーム。佐藤忍を待ち受ける、さらなる窮地。どう考えてもバッドエンドにしか……ならない!!
大須賀めぐみ(おおすがめぐみ)
12月21日生まれ。千葉県出身。2002年、少年サンデーR増刊(小学館)にて「トンパチ」でデビューした。代表作は伊坂幸太郎の小説「魔王」を少年向けにアレンジした「魔王 JUVENILE REMIX」、同作のスピンオフ「Waltz」。2012年よりゲッサン(小学館)にて、オリジナル作品での初連載「VANILLA FICTION」をスタートした。