コミックナタリー PowerPush - 大須賀めぐみ「VANILLA FICTION」

「魔王」「Waltz」から一貫して「絆」を描き出す作家性の源泉に迫る

汚い服で、ゴミを食べたりする子にキュンとくる

──大須賀さんは以前、自分の作るキャラクターを好きだと思ったことはないともおっしゃっていました。あえて伺いますが、ご自身の作られたキャラクターの好きなところを教えていただけますか。

まず先生は小説しか書けない人で、考え方も普通の人とは違う。小説を書かないとちゃんと生活していけない天才型と言いますか。ちょっと社会から浮いてる感じは、個人的にすごく好きですね。

服には無頓着な先生。シーサーの絵と「なんくるないさ」という文字が組み合わさったTシャツは、沖縄土産か?

──そういうところは蝉とも似てますね。あと服に無頓着で、変なTシャツを着たり。

あ、あれ実は最初、予告カットを描くときに時間がなくて、ついTシャツに「浅草」って描いちゃったんです(笑)。そこから変なTシャツを着る設定に……。

──そんな裏話が(笑)。ではエリちゃんはどうですか?

どういう女の子なら私が好きになれるかを考えて……、ゴミを食べる子かな、って。

──えっ? どういうことですか?

汚い服で、ゴミを食べたりとかすると、私的にキュンとくるんです。あ、これだと私がヤバい人みたいだ(笑)。えっと、説明しますと、日常からかなり逸脱していて、普通の子とは違う反応をするキャラクターが好きみたい。蝉も普通とは違う価値観を持っていて、ちょっと浮いた存在じゃないですか。エリちゃんもそういう部分があるといいなと思って、結果ゴミを食べさせました。あと死んだ目でクマがいっぱいあるのも好きですね。

ゴミを漁るエリ。

──確かに最初の予告カットは、エリちゃんの目がすごいですね。そして2人と運命をともにする太宰は、どう作られたキャラなんでしょうか。

太宰くんは軽薄なチャラ男にしようというのは最初に決めていて。でもそれだけだと普通な感じになってしまったので、もっとチャラい部分を強調してみたら、ビッチになりました。

──セックス狂なところは人間ぽくない感じも出てますね。太宰も擬似家族の一員になれるんでしょうか。

最初は入れる予定じゃなかったんですが、今後の展開はまだわかりませんね。彼らは気持ちの部分ではバラバラなのに、ひとつの目的のために組まざるを得なくなって、いびつな絆が芽生えていく。運命共同体とも言える3人なので。

でも私、熱血漢とか描けないし

──2巻では敵キャラの鞠山雪彦も登場です。

敵役の鞠山雪彦。アドレナリンを出すために好んでケンカをするクレイジーなキャラクターだ。

彼を作るのは結構大変でしたね。強くて、いろんな人を操れるくらいの権力があるのはどんな人だろうって考えたときに、じゃあ外側というか、職業は警察官にしようと。それに対して内側、どんな性格かを考えるんですが、先生がネガティブだからポジティブなほうがいいのかなあ、と。でも私、熱血漢とか描けないし(笑)。じゃあアドレナリンが出すぎてぶっ飛んでる人はどうかってことで、こんなキャラになりました。

──先生とは真逆のタイプですね。

とにかく元気。元気っ子です。先生みたいにいちいち考えこまないし、目的がきっちり決まってる。そんなキャラクターが必要かなと思ったんですね。このマンガ、登場キャラみんな鬱々と考えこむタイプが多くて、作品全体の雰囲気が暗かったので。

──そこをぶち壊すキャラが、この鞠山雪彦。

鞠山には最愛の息子がいるんですが、家族の日常描写はそこで補っています。先生とエリちゃんの日常も描きたかったんですが、すぐ逃亡生活に入っちゃってそれどころじゃなくなっちゃったので……。それを描く目的で「VANILLA FICTION」を始めたはずなんですけど(笑)。なので先生にできなかったことを、鞠山に担ってもらっている部分はありますね。

──エリちゃん敵に攫われちゃいますし。先生はもう日常どころじゃないですよね。

先生はこれからどんどん、もう日本でいちばんひどい境遇っていうくらい不幸にしたいんです。その中でどうやって幸せを見つけられるか、それをエリちゃんや太宰と一緒に見つけられればと思ってます。その辺を、ちゃんと描けたらいいですね。

大須賀めぐみ

おまけマンガ

「魔王」「Waltz」時代より、単行本やWEB用におまけマンガを執筆している大須賀。今回コミックナタリーのためにも、歴代キャラ大集合の6ページマンガを描き下ろしてくれた。シリアスな展開が続く本編とはテイストが異なる、もうひとつの大須賀ワールドを堪能してほしい。

おまけマンガ
大須賀めぐみ「VANILLA FICTION(2)」2013年6月12日発売 / 600円 / 小学館 / Amazon.co.jpへ
大須賀めぐみ「VANILLA FICTION(2)」
あらすじ

「世界を救うために、とある地でクッキーを食べる」そんな馬鹿げた現実を突きつけられた佐藤忍は、一気に片をつけるべく、エリ、太宰治とともに最短ルートで旅立った……はずだった。

行き着いたその先に立ちはだかるは、太宰に続くもう1人の「不死者」! そして迫り来る、もう1人の「指輪の持ち主」!

ついに判明する敵チーム。佐藤忍を待ち受ける、さらなる窮地。どう考えてもバッドエンドにしか……ならない!!

大須賀めぐみ(おおすがめぐみ)
プロフィール画像

12月21日生まれ。千葉県出身。2002年、少年サンデーR増刊(小学館)にて「トンパチ」でデビューした。代表作は伊坂幸太郎の小説「魔王」を少年向けにアレンジした「魔王 JUVENILE REMIX」、同作のスピンオフ「Waltz」。2012年よりゲッサン(小学館)にて、オリジナル作品での初連載「VANILLA FICTION」をスタートした。