コミックナタリー PowerPush - 大須賀めぐみ「VANILLA FICTION」

「魔王」「Waltz」から一貫して「絆」を描き出す作家性の源泉に迫る

4コママンガはキャラを固める大事な作業

──「VANILLA FICTION」は初めてのオリジナル連載ということですが、やはりコミカライズとは違った難しさがありますか。

もちろん、ありますね。「魔王」「Waltz」は小説をアレンジしましたが、やっぱり到達地点が見えていると、俯瞰で見れるんです。ここを入れ替えるとか、このセリフは削って、ここは活かす、とか。ただオリジナルだとそのへんが見えないので、ちょっとぐるぐるすることはあります。あと設定をイチから全部考えるのは本当にキツいです……。

「Waltz」に登場したバディの殺し屋、左が蝉、右が岩西。

──「魔王」「Waltz」は伊坂さんが作ったキャラクターが好きだったから動かしやすかったと、別のインタビューでもおっしゃっていましたね。

そうなんです。蝉なんて、もう小説を読んでるころから本当に好きで。自分なりのアレンジも入れて動かしやすくなっていたので、「Waltz」に関しては、やりたいことが、細かいところまですごく明確だったんですよ。これをやらせたいとか、こういうセリフを言わせたいとか、こういう服を着せたいとか。どれだけキャラを好きになれるかで、結構マンガを描いてるときのノリが変わるんですが、「VANILLA FICTION」はまだそこまで盲目的なテンションではないですね。よくも悪くも、もうちょっと落ち着いて、全体を見ながら描けている気がします。

──客観的に見ている感じですね。

そうですね。あと単行本のカバーを外した表紙やゲッサンWEBでは、「魔王」「Waltz」連載時からずっと4コママンガを描いているんですが、それが実はキャラクターを固めていくのに重要な作業になっていて。

「VANILLA FICTION」1巻のカバー下に収録されている4コマ。

──本編のシリアスな雰囲気とはまったく違うギャグマンガですが、そんな重要な効果があったんですね。

自分の中でキャラを確認する作業といいますか。例えば「花見」というテーマでいろんなキャラの行動を描いたりしているんですが、犬養だったら、蝉と岩西だったら、先生だったらこうするだろうなっていうのを考える、いいきっかけになるんです。

テーマは「擬似家族」

──大須賀さんは「VANILLA FICTION」1巻のコメントで、「この漫画は子育て漫画です」とおっしゃっていますね。

大須賀めぐみ

「Waltz」の蝉と岩西のように、なんの血縁関係もない人が家族になっていく、そのプロセスをもっと突き詰めて描いてみたくなりまして。それで、今回は「家族ものを描こう」と。まだ全然育ててないですけど(笑)。

──では今作のテーマは「家族」?

そうです、「擬似家族」ですね。蝉と岩西の家族っぽいやり取りをゲッサンWEBでたくさん描いて、それが結構楽しかったんですよね。なので、そういう面をもっと本編に入れ込んでいけるようなマンガが描けたら、自分のキャラクターも好きになれるし楽しいんじゃないかと思って。

──では先生とエリ、2人の擬似家族の関係性を描くうえで、気を付けていることはありますか?

うーん、ゴリゴリのロリコンにならないように、ですかね(笑)。そこの境界線を越えないように気を付けてます。

──何を踏み越えたらロリコンになってしまうんでしょうか。

先生(左)とエリ(右)。

先生がエリちゃんにドキドキしたらNGな気がします。エリちゃんはグイグイきてもいいと思うし、先生に恋愛に近い感情を抱いてもいいと思うんですけど。そこのさじ加減だけは気を付けて描いてます。

──でもまだ先生は親としての意識は芽生えていないですね。

そうですね。2巻で先生がエリちゃんの服を買いにいくシーンを加筆したんですが、いきなり親になって戸惑う雰囲気は出てると思います。先生はまだ、どちらかというと小説家という立場に執着しているので、これからどう変化していくのか、その過程を描ければいいかな、と。バッドエンドや人の不幸しか考えないような人間が、ハッピーエンドとは何かを、この激しい闘争の中で見出していければいいですね。

大須賀めぐみ「VANILLA FICTION(2)」2013年6月12日発売 / 600円 / 小学館 / Amazon.co.jpへ
大須賀めぐみ「VANILLA FICTION(2)」
あらすじ

「世界を救うために、とある地でクッキーを食べる」そんな馬鹿げた現実を突きつけられた佐藤忍は、一気に片をつけるべく、エリ、太宰治とともに最短ルートで旅立った……はずだった。

行き着いたその先に立ちはだかるは、太宰に続くもう1人の「不死者」! そして迫り来る、もう1人の「指輪の持ち主」!

ついに判明する敵チーム。佐藤忍を待ち受ける、さらなる窮地。どう考えてもバッドエンドにしか……ならない!!

大須賀めぐみ(おおすがめぐみ)
プロフィール画像

12月21日生まれ。千葉県出身。2002年、少年サンデーR増刊(小学館)にて「トンパチ」でデビューした。代表作は伊坂幸太郎の小説「魔王」を少年向けにアレンジした「魔王 JUVENILE REMIX」、同作のスピンオフ「Waltz」。2012年よりゲッサン(小学館)にて、オリジナル作品での初連載「VANILLA FICTION」をスタートした。