「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」制作スタジオ・エイトビットに赤ペン瀧川が潜入!迫力の映像の裏に隠された努力とこだわりとは (2/2)

新たな魅力を届け続ける2人のプロデューサーインタビュー

その後瀧川はエイトビット社内の会議室に場所を移し、プロデューサー陣へのインタビュー取材に臨んだ。応じるのはスタジオ内を案内してくれた江口氏と、シリーズプロデューサーを務めるバンダイナムコフィルムワークスの成田真一郎氏だ。ざっくり言えば、江口氏がアニメーション制作の実作業を取りまとめる役割で、成田氏は劇場版制作の企画自体を統括する立場となる。

左から赤ペン瀧川、江口浩平氏。

左から赤ペン瀧川、江口浩平氏。

シンプルに人ががんばった

赤ペン瀧川 今回の企画が走り出したのは何年前になるんですか?

成田真一郎 前作の「紅蓮の絆編」の打ち上げの場で関係者内で正式に動き出し始めたように記憶していますので……「紅蓮の絆編」の公開が2022年11月ですから、3年前ぐらいですかね。ちなみに「蒼海の涙編」のフィルム自体は、2025年のうちに完成しています。

江口浩平 作画の作業に入ってからでいうと、納品までおよそ丸1年ほどでした。

瀧川 1年……? 素人からすると、「1年って早くね?」と思ってしまうんですが。

成田 一般的な劇場アニメーションの制作期間は「最低1年、たいてい1年では終わらない」ぐらいの感覚だと思います。なので特別早いというわけでもないですが、今回達成した映像のクオリティからすると「これを正味1年で?」という驚きは与えられるのではないかと思いますね。

瀧川 それは何が要因なんですか? たった1年でこれだけのものができたというのは。

江口 いや……がんばったから(笑)。

瀧川 わはははは! シンプルに人ががんばったから(笑)。

江口 もうちょっと詳しく言うと、TVアニメ第3期の制作もやりながら、4期目の制作もすでにスタートしている中で、並行して劇場版の作業もしていたんですよ。

瀧川 それ、スタッフさん被ってるんですか?

江口 被ってるんですよ。通常だと別班でやるケースがほとんどなんですけど、今回は全部自分たちの班でがんばってみました。

瀧川 がんばりすぎでしょ(笑)。それは誰が悪いんですか? バンナムさんがやらせてるんですか?(笑)

成田 やらせてるという言い方はアレですけど(笑)、企画側のお願いに対して、類まれなる制作力で応えていただいている構図ではありますね。

左から赤ペン瀧川、江口浩平氏。

左から赤ペン瀧川、江口浩平氏。

江口 世界観の共有ができているスタッフで全部やっているからこそ、スムーズに進められた面もあると思います。もちろんかなり大変ではあったんですけど、これが1年で終わったというのは、本当にみんなががんばったからかなと。

瀧川 その体制だからこそ、人も育っている?

江口 そうですね。例えば先ほどインタビューしていただいた持田で言えば、「紅蓮の絆編」のときは動画検査というポジションだったんですが、第3期からは原画マンとなり、本作ではさらなる成長を遂げ獅子奮迅の働きをしてくれました。そういう子たちが育っている一方で、菊地(康仁)監督を含めた大ベテランたちも支えてくれている。ベテランと若手の融合がうまくいっているというのも大きいと思います。

瀧川 菊地監督は大ベテランとのことですが、作品だけ観ると、お若い監督さんが作っていそうな印象を受けますね。

成田 そうですよね、わかります。

江口 気はすごく若いですよ。「もうじじいはやんねえから、若えやつらでやんな」とか口では言いながら、みんなの絵を一生懸命チェックしてくれていました。

2話続けて会議しかしなかったぞ、こいつら!

瀧川 僕は今まで1回も「転スラ」を観たことがなくて、この取材のお話をいただいてから急いでなんとか2期まで、クレイマンを倒すところまでたどり着いたんですね。あと「紅蓮の絆編」と。

江口成田 おおー。

瀧川 まず、「転生したらスライムだった件」というタイトルから想像していた内容とは全然違っていたので、そこにすごく驚いたんです。もっとロードムービー的な、スライムに転生した主人公が冒険の旅をしながら成長していくような物語をイメージしていたんですけど、まさかの建国・国家政策のストーリーがメインだったので。作る側としては、この作品のどういうところが評価されているんだと思ってます?

江口 僕が個人的に感じている部分で言うと、おっしゃったような国作りや政治の部分をものすごく丁寧に描いているところですね。作り手の心理的にはもっとスピード感を上げて話を前に進めたくなりそうなところを、ちゃんとじっくり描いている。そこは「転スラ」ならではの特徴的な部分かなと。

江口浩平氏

江口浩平氏

瀧川 会議のシーンだけで話数をまたいだりしますもんね。「2話続けて会議しかしなかったぞ、こいつら!」みたいな。

江口 そうそう(笑)。あとは、リムルの安心感ですよね。よく「水戸黄門」に例えられるんですけど、「リムルが来ればなんとかなる」と安心して観られるのは大きいかなと思っています。

瀧川 その“主人公の無双感”って、一歩間違えれば退屈を生みやすい要素でもありますよね。「どうせあいつが全部解決するんだろ」みたいな。「転スラ」にはそれをあまり感じないんですけど、どういう意識でそこを回避しているんですか?

江口 おっしゃるとおり、リムルがスッと来たら解決しちゃえるので(笑)、今回の映画を作るうえでも“いかに来させないか”をかなり意識しています。リムルがどうしても介入できない状況を、どうすれば無理なく発生させられるか。とはいえ最終的にはリムルの見せ場も作りたいので、その両立は原作の伏瀬先生も交えて構築に苦労した部分ですね。

劇場アニメ「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」より、リムル(CV:岡咲美保)。

劇場アニメ「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」より、リムル(CV:岡咲美保)。

瀧川 劇場版ならではの難しさもあると思います。特に「転スラ」の場合はTVシリーズが続いている中での劇場版なので、世界観やキャラクター配置に破綻がないようにしないといけない。極端な話、映画の中でいきなり主要キャラクターが死んだりするわけにはいかないじゃないですか。

江口 そうですね。勝手には殺せない(笑)。

瀧川 全体のストーリーに大きく影響するような展開は作りづらいでしょうし、でも1本の映画として満足させられるだけのドラマ性は持たせなければいけない。要は、制約が多い中で脚本を成立させるのは大変そうだなと思ったんです。

江口 もちろん大変です。ただ、ストーリーの骨格部分は伏瀬先生のプロットがベースになっているんですね。そこからシナリオや絵コンテなど、制作過程のものも先生にチェックいただいていました。ドラマ性を担保しつつ本筋とも齟齬がないように、というのは伏瀬先生も含めた全体で気を使っていた部分です。

「まだお前には荷が重くない?」と

瀧川 今回、ゴブタが尋常じゃない活躍を見せるじゃないですか。こう言っちゃなんですが、あいつ、なんであんなに出世したんですか?

江口 ホントですよね。それは僕も知りたい(笑)。

劇場アニメ「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」より。左からユラ(CV:大西沙織)、ゴブタ(CV:泊明日菜)。ゴブタが追手から逃げるユラを助けたことをきっかけに、2人は親密になっていく。

劇場アニメ「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」より。左からユラ(CV:大西沙織)、ゴブタ(CV:泊明日菜)。ゴブタが追手から逃げるユラを助けたことをきっかけに、2人は親密になっていく。

成田 (笑)。今回ゴブタにスポットライトが当たったのは、伏瀬先生の鶴の一声のようなところから始まっていまして。

瀧川 先生のプロットがすでにゴブタの活躍ありきだった?

成田 いえ、その前に劇場版を作るにあたってのコンセプト会議みたいなものがありまして。前作の「紅蓮の絆編」がベニマルをフィーチャーしたお話だったことを受けて、「今回は誰を活躍させようか」という話し合いがあったんです。その中で、先生がまず「ゴブタかなあ」とおっしゃって。

瀧川 なるほど。歴代のファンからすると、このゴブタの抜擢というのは「よくぞ!」という感じなのか、「まさかお前が?」という感じなのか、どっちなんですかね?

成田 後者が多いでしょうね(笑)。

江口 個人的にも「まだお前には荷が重くない?」と思いました(笑)。意表は突かれましたね。

瀧川 先生はどういう思いでゴブタを指名したんでしょうね?

成田 「リムルを含めた中心メンバーの絆を描きたかった」というようなことを今回の映画のインタビューの中でおっしゃっていました。実はゴブタって仲間になったタイミングが相当早い、古株なんですよね。あと、先生の中でゴブタは男前キャラ枠なんですよ。メインを張らせるに足る、カッコいいキャラクターなんです。

瀧川 確かに、見た目はコミカルですけど精神的にはイケメンですよね。

江口 イケメンですね。あと、作り手としてもゴブタって動かしやすいキャラクターではあるんです。喜怒哀楽がはっきりしていて、アニメ向きというか。

瀧川 なるほど。アニメ画面で映えるタイプのキャラだというのはわかりますね。

江口 あとは……瀧川さんはまだ第3期をご覧になっていないということなので申し上げるべきか迷うところなんですが、第3期のラストまでを観ていただくと、一応ゴブタが活躍しそうな予兆があるっちゃあるんですよ。

瀧川 ええっ! マジですか!?

江口 ネタバレになっちゃいますけど……。

瀧川 ぜひ教えてください。

赤ペン瀧川

赤ペン瀧川

江口 第3期ではリムルが治めるジュラ・テンペスト連邦国の開国祭というイベントが描かれるんですけど、その中で武闘大会が開かれます。そこで優勝するのがゴブタなんですよ。

瀧川 うそー! え、それ決勝の相手は誰だったんですか?

江口 マサユキですね。

瀧川 マサユキ……?

成田 3期で初登場するキャラクターです。

瀧川 出たよ! そうか3期か! やっぱり3期なのか!

江口成田 (笑)。

「お前が主人公だったのか!」みたいな

瀧川 そんなふうに、「蒼海の涙編」はやっぱり過去シリーズの内容を全部押さえておいたほうがより楽しめる作品ではあるじゃないですか。この映画を宣伝するとなったときに、そのハードルをどう下げるかは非常に頭を悩ませるところですよね。

成田 そうですね。もちろん、あくまで「知っているとより楽しめる」要素であって、「知らなければ楽しめない」というものではないんですけど。

瀧川 実際、僕は「2期までだけでも観ておいてよかったな」と感じたんです。初見のお客さんに対しては、どういうところがアピールポイントになりますか?

成田 まず前提として、今回完成したフィルムがとても素晴らしいものに仕上がっていることは間違いないです。いつ誰がどこで観ても楽しんでいただける、1本の映画作品としての基礎点の高さには絶対の自信があります。時系列的にはアニメ第3期と第4期の間のお話ではあるんですが、例えばリムルと各陣営との勢力図などは頭に入っていなくてもまったく問題ない、独立したストーリーにはなっていますので。

瀧川 なるほど。それはおっしゃる通りですね。

成田 そのうえでいろいろなキャラクターの見せ場もありますし、これまで作品を応援してきてくださった方々に対しては「皆様が大切にしてきてくださった『転スラ』がここまですごいものになりましたよ」と訴えかけてもいきたい。「単体で観ても楽しいよ」「手前を知ればもっと楽しいよ」という、2通りの楽しみ方をしてもらえたらいいなと思います。

左から赤ペン瀧川、江口浩平氏。

左から赤ペン瀧川、江口浩平氏。

瀧川 やっぱり、その「門戸は広く、でも既存のコアファンも大事に」っていうバランスが一番難しいところですよね。なんせ自分自身が「3期まで観てからにすればよかった!」と今心底思っているので(笑)、その僕が初見の人に対してどういうアピールの仕方をしたらいいのかは難しいなあ……。成田さんがおっしゃるような“1本の映画としての完成度”を軸に攻めるなら、「リムル、ゴブタ、ユラの3人の動向さえ押さえれば、本筋は十分に楽しめますよ」という、根本的な物語構造のシンプルさを強調する感じになりますかね。

江口 でも、ゴブタについてはプロモーション上まだ特に言及していないんですよね。キービジュアルには描かれてるけど、ゴブタが実質主人公のように活躍するみたいなことまでは言ってないんです(※取材は2月上旬に行われた)。

瀧川 あ、そうなんですか?

成田 明示的には言っていないんですが、例えば舞台挨拶などの場にはゴブタ役の泊明日菜さんにもご登壇いただいていたり、宣材物などもリムル・ゴブタ・ユラでビジュアル展開していたりするので……。

瀧川 匂わせてはいるんですね(笑)。

江口 実質的には言っているようなものだけど、予告編映像などでも「ゴブタが大活躍!」みたいなことはハッキリとは言ってないんです。

瀧川 うわあ、それはドキドキする。「THE FIRST SLAM DUNK」のような驚きのリアクションが起こり得るってことですよね。

成田 そうですね(笑)。「お前が主人公だったのか!」みたいな。

プロフィール

赤ペン瀧川(アカペンタキガワ)

1977年12月27日生まれ、神奈川県出身。映画プレゼンターとして、テレビ、ライブ、コラムなど多方面で活躍中。スライドとトークを武器に、作品に鋭いツッコミを入れる“映画添削”で知られ、朝日放送テレビの情報ワイド番組「おはよう朝日です」の毎月第1金曜日レギュラーも務める。また俳優として「アウトレイジ」「孤狼の血」「コンフィデンスマンJP」「室井慎次 敗れざる者」「極悪女王」などに出演し、現在はCXで放送のドラマ「東京P.D. 警視庁広報2係」に出演中。