「食戟のソーマ」附田祐斗×松岡禎丞対談|原作の6年半、アニメの4年半を1万字超えのボリュームで徹底総括

「松岡禎丞まで聞いて帰ろう」

左から松岡禎丞、附田祐斗。

附田 本当に、演技ももちろんですが、オーディションのときから松岡さんの声って創真にピッタリだと思っていたんです。

松岡 そうなんですか?

附田 オーディションでは僕自身は意見せず、スタッフの皆さんにおまかせしていたんです。というのも、「食戟のソーマ」はアニメの前にVOMIC(マンガに声などを加えたコンテンツ)になっていて、そこでは小野友樹が創真役をやっていたんです。実は小野友樹と僕はお互い売れる前から友達で、「いつか俺の作品が売れたら、お前が声優やってくれよな」なんて話もしてて。

──「バクマン。」じゃないですか。

附田 でしょ? 毎回小野友樹と飲み会するたびに「なんでどっちか女じゃないんだろうな」って話をしてます(笑)。だから、VOMICのときもうれしかったんですけど、反面小野友樹の声には創真というキャラは合ってないんじゃないかって声もあって。でも、もう僕自身は客観視できなくなっていたので、アニメではスタッフさんにすべて任せようって決めてたんです。ただ、オーディションは立ち会わせてもらうことになっていて、リストも事前にもらってはいました。その中の1人が松岡さんだった。そのときから松岡さんのことは知っていて、「柳の木のようにしなやかな声だな」って思ってたんです。そういう声は創真に合うんじゃないかなって。だから、オーディションも長いので途中で帰らせていただく形だったんですが、「松岡禎丞まで聞いて帰ろう」って決めてたんです。

──第一印象はどうでしたか?

アニメ第1期1話「果て無き荒野」より。

附田 「やっぱりいいな」と思いましたね。でも、それも伝えずに帰ったんですが、後日「幸平創真役は松岡禎丞」って決まって、やっぱりみんな同じイメージだったんだ、と。

松岡 そう言っていただけるのが一番うれしいですね。僕自身も第一印象として創真はすごく波長が合うキャラクターだと思っていました。無理せずに演じられるというか。

附田 それはメンタル的な意味でですか? それともフィジカル的に、無理せず声を出せるということ?

松岡 両方ですかね。僕、家で好きなマンガの音読とかするんです。「ソーマ」も事前に音読してみてたんですが、「あれ、これすっごいやりやすいな」って思ったんですよ。

演じていても鳥肌が立った「辞めるよ」のセリフ

創真は食戟を挑んできた美作に対し、もし自分が負けたら料理人をやめると宣言する。

松岡 あと、創真のまっすぐさは演じていて気持ちいいなって。創真って嫌味のないまっすぐさがあるじゃないですか。わちゃわちゃしているときは子供っぽいんだけど、人と人との関係を壊してしまうようなことがあったときは本気で怒る。本当に許せないときには、普段と明確にキャラクターが変わるんですよね。美作戦のセリフも印象的でした。

──秋の選抜本戦準決勝ですね。

松岡 食戟の条件で創真は「(負けたら)料理人 やめるよ」って言うんです。

附田 はい、松岡さん、ここの演技天才でした。PVにもセリフが使われてましたけど最高。

松岡 自分で言うのも変ですが、演じていてもあのシーンは鳥肌が立ちすぎて声が震えそうになったんです。

──美作戦は仲間であるタクミの仇討ちの要素もある一戦でした。

松岡 仲間のために人生を賭けてもいいと思える人間なんだなって。こいつ、本当にカッコいいなって思いました。

附田 アニメで観ていてもすごくカッコよかったです。創真らしさを感じるといったら、僕は自信をなくしてる秘書子(新戸緋沙子)に、えりなへの届け物を渡すシーンですね。

えりなの元に戻る資格はないと語る緋沙子に、えりなへの届け物を頼む創真。

松岡 あ、少女マンガを貸すところだ!

──えりなに貸す約束をしていた少女マンガを「ちょうどいいから」と渡してもらうように秘書子に託す場面ですね。

附田 創真が「落っことしたりすんなよ」って言うんですけど、あれって「薙切(えりな)のところにちゃんと帰れよ」って意味なんです。創真って父性のキャラクターで、その父性がバランスよく出たシーンで、演技もよかったですね。

松岡 そんなそんな(笑)。

附田 松岡さんの声ってやっぱりすごく創真に合っているなと思います。何て言ったらいいんだろう……「ちょうどいい」んですよね。ソーマって大人になりきる前の未成熟な少年らしい軽やかさと、実家の食堂での現場経験からくる堂々とした部分、どっしりとかまえた部分もある。そういう妙な奴なんです。軽すぎてもダメだし、重すぎてもダメ、男性的すぎても女性的すぎてもダメ。そのちょうどいいところが松岡さんなんです。ちょうどいい……何かもっとうまい表現ないかなあ……。

松岡 いや、僕的には「ちょうどいい」って最高ですけどね。

左から松岡禎丞、附田祐斗。

附田 本当ですか? それならよかったです。とにかくしなやかで軽やかな柳のような声で演じてもらえればと思っています。

松岡 でも、こんなに言われるとプレッシャーで来週以降のアフレコで堅い樫の木みたいになってるかもしれないです(笑)。

附田 しなやかな柳だと思ってたのに(笑)。

松岡 みんなの斧も通らないくらいガチガチに(笑)。

秋の選抜で脱皮した創真

秋の選抜の予選を終え、もっと強くなりたいと決意を新たにする創真。

──先ほど創真の成長という話も出ましたが、松岡さんは演じている中で創真が成長したなと感じたエピソードはありますか?

松岡 遠月学園に入って以来ずっと成長し続けている感じでもありますが、明確に感じたのは秋の選抜の予選後、田所(恵)とテラスで話すシーンですね。本戦へは進むわけですけど、今の自分の全力を出し切って、それでも葉山に負けたっていう場面で、創真は自分のスペシャリテ、自分の料理について考えるようになるわけです。自分の料理という方向性へ進んでいくきっかけになったのがあの勝負だったと思います。……隣に原作の先生がいるところで話すの、怖いんですけど(笑)。

附田 いや、松岡さんには創真が憑依していますから。正しいことしか言わない。

松岡 そんなこと言われたら!! 先生のご意見はどうなんですか?

秋の選抜本戦では、葉山が創真と黒木場を破り優勝する。

附田 でもフォローとかでなく、秋の選抜は大きな転機というか、創真にとって重要なエピソードだったと思います。本戦の決勝戦でも創真は結局葉山に負けるんですね。あの結果も、打ち合わせで何度も変わっているんです。1~2週間の間に5~6本ネームを描いて、そのたびに「創真に勝たせよう」「いや、やっぱり負けさせよう」と結果が変わっている。そのなかで一番納得できる結末があの敗北だったんです。第1巻の第1話で創真は親父に「遠月に行け」と言われるわけですが、その意味するところは「負けてこい」ということなんですよね。井の中の蛙だから遠月で負けてこい、と。松岡さんの話してくれた場面も創真が「もっと強くなりたい」と気持ちを新たにするシーンなんです。そこにはやっぱりボロ負けするというのが必要な道筋だったんです。そういう意味で、秋の選抜までの話が、創真が脱皮するまでの準備期間といっていいと思います。


2019年10月4日更新