「食戟のソーマ」附田祐斗×松岡禎丞対談|原作の6年半、アニメの4年半を1万字超えのボリュームで徹底総括

2019年6月に週刊少年ジャンプでの約6年半におよぶ連載にピリオドが打たれ、少年ジャンプGIGA(ともに集英社)での後日譚の連載も8月に完結した「食戟のソーマ」。10月4日に最終36巻と「食戟のソーマ ラストファンブック ~creators' spécialité~」が刊行されるほか、10月11日にTVアニメの新シリーズ「食戟のソーマ 神ノ皿(しんのさら)」がスタートするなど、まだまだ盛り上がりは続いていく。

コミックナタリーは最終巻発売とアニメの新シリーズ放送開始を記念し、原作者の附田祐斗とアニメで主人公の幸平創真役を演じる松岡禎丞の対談を実施。後日譚の連載を終えたばかりの附田に現在の心境や6年半の思い出を話してもらうとともに、2015年の第1期から数え約4年半もの間、創真を演じ続けている松岡にオーディション時の思い出からキャラクターの魅力までを1万字を超える文量で語ってもらった。なお附田が原稿を執筆していて「ソーマ」という作品らしさが出てきたと感じたエピソードや、松岡が演じていて鳥肌が立ったというシーンなど、2人には作中の名場面についてもたっぷりと振り返ってもらっている。

取材・文 / 小林聖 撮影 / ヨシダヤスシ

やっと1人の読者として「面白い」と思えるようになった

──「食戟のソーマ」完結おめでとうございます。少年ジャンプGIGAでのエピローグの連載などもありましたが、本編完結を迎えた今のお気持ちは?

附田祐斗 連載中はうまくいかないことがあったりしてダークサイドに落ちかけた時期もありましたが、今やっと「はあーっ」と息を吐いた感じです。

松岡禎丞 本当にお疲れ様でした。

左から松岡禎丞、附田祐斗。
「食戟のソーマ ラストファンブック ~creators' spécialité~」

附田 ありがとうございます! 10月に最終巻と一緒にファンブックが発売されるんですが、その準備などで「食戟のソーマ」を改めて読み返しているんです。連載中も読み返すことはあったんですが、そのときは作中で出てきた数字や時系列の整理・確認のためという感じで、ストーリーを改めて追う機会はあまりなかったんですよね。今回改めて読み返してみて「あれ、このマンガけっこう面白いな」と思えるようになった感じです(笑)。ファンブックではキャラクターの個人情報や今まで出してなかった裏設定を全部出すので、自分のスケッチとか(作画担当の)佐伯俊先生と共有している資料をあさってます。

松岡 じゃあ、どんどんお宝が発掘されてるんですね。実際にご自分で描かれていても、「あれ、こんなんあったっけ!?」みたいな設定も……?

附田 あります(笑)。資料を読み返してると「あれ? もともとはこんな奴じゃなかったんだけどな」とか。

松岡 うわ、それ見てみたいですね。

附田 できる限りファンブックに入れます。あと、今アニメの公式Twitterで過去シリーズのエピソードを振り返るツイートをしてくれているじゃないですか。そこに便乗するわけではないですが、僕の方でもいろいろ出していけたらなと思ってます。

遠月十傑評議会のメンバー。

──附田先生は原作担当ですが、スケッチなんかも描いたりしていたんですね。

附田 佐伯先生からも「キャライメージがわかったほうがいいので、粗いものでいいから描いてくれると助かる」と言われていたんです。だから、思い付いたときはなるべく描くようにしていました。でも、描いていないキャラクターも多いですし、初期イメージとは全然違う形になったキャラクターの方が多いです。叡山(枝津也)なんかは「こいつは金に汚い奴なんです」とだけ伝えていたら、最初ヒョウ柄の服で出てきて(笑)。「あ、その感じ!?」って思いましたが、ビジュアル的にそれまでいないタイプだったので「これはいいな」って。

松岡 あいつ、あれでまだ高校生なんですもんね(笑)。

遠月十傑評議会の元第三席・女木島冬輔。十傑の3年生の中では唯一、薙切薊の方針に同意しなかった。

附田 風格と目力がどう見ても高校2年生ではない(笑)。アニメ3期(「餐ノ皿」)から出てきたキャラクターなんて、どう見ても40代って奴らも多いですからね。

松岡 本当ですよ(笑)。女木島(冬輔)なんかもそうですもんね。

附田 あいつも演出によってはすごい肩幅になってたりして、明らかに体格がおかしかったりしますからね(笑)。それも少年マンガのハッタリですね。

新しいテンポをもたらした創真対アリス戦

薙切アリスとの戦いに向け、「弁当」というお題に沿った料理を思案する創真。

──「食戟のソーマ」はジャンルについては最初からグルメバトルマンガとハッキリしていましたが、キャラクターについては連載しながら掴んでいく部分もあったんでしょうか。それとも先生の中では、各登場人物のキャラクター性が初期からはっきりと固まっていたんですか?

附田 3巻あたりまでは毎週キャラクターの方向性をチューニングしているようなフェーズでした。あと料理マンガって「ミスター味っ子」をはじめとしたヒット作が数多くある少年マンガの王道ジャンルの1つですが、そのなかでどの程度本格的に料理をやるのかという調整もあるわけです。それと、展開の演出も試行錯誤がありました。個人的によく覚えているのは秋の選抜の本戦第1回戦、創真とアリスの戦いですね。

松岡 「弁当」をテーマに対決した回ですね。

附田祐斗

附田 そうです。アニメだと第2期(「弐ノ皿」)第1話。料理マンガにはフォーマットのひとつとして、試作フェーズというのがあるんです。対戦が決まったら「よーし、じゃあどんな料理にするか考えるぜ!」って感じで家に帰って試作するという。

松岡 「味っ子」とかもまさにそうですね。

附田 はい。「将太の寿司」なんかでもありますね。でも、このときは予選が思ったよりも長くなってしまっていたので、早く勝負に入りたかった。それで、「試作フェーズを回想でできないか」って担当と相談してできたのがこのエピソードなんです。こういう構成はそれまで「ソーマ」でやったことがなくて、「こういうやり方もできるんだ」って気付くきっかけになりました。この辺りから往年の料理マンガの枠組みに、「ソーマ」という作品だからできるテンポが加わっていったと思います。

松岡 演技の面でも創真が成長して幅が広がるにつれて、こちらがやりたいことが増えていきました。だから、話が進めば進むほど創真から要求されることも多くなっていく。一方で、割とやりたい放題やらせていただいた部分もあって、それが意外と通っちゃったりしているとも感じているんですが(笑)。

附田 アドリブ的な部分もたくさんありますよね。僕もときどきアフレコに立ち会わせてもらうんですが、そういうのが出たとき、音響監督さんとかがいるブースのほうは爆笑してますよ。「またあのファンタジスタがやってくれたぜ!」って感じで(笑)。「ふっろだ風呂だ! ざっぶざぶ~~~」っていう歌は衝撃でしたよ。

アニメ第1期10話「至上のルセット」より。合宿1日目を終え、大浴場でくつろぐ創真。

──アニメ第1期の10話で出てくるシーンですね。合宿中、えりなと別れて風呂に向かう創真が歌うという。

松岡 あれはですね、記憶が正しければ、現場で「このセリフ、どうしよう」ってなったときに、(丸井善二役の小林)裕介と(青木大吾役の河西)健吾さんが考えてくれたんですよ。

附田 マジすか?

松岡 「いいんですね? 本当にこれでいきますからね?」って言って本番でやったら、それが通っちゃって(笑)。

附田 いやあ、あれ最高でしたよ。最後「石けん! シャンプー! コンディショナー!」って言いながらキレイにフェードアウトしていくんですけど、その尺も完璧で。

松岡 想像以上にハマったんですよね。

アニメの創真が広げた創真というキャラクターの幅

附田 そういう声優さんたちのイマジネーションが発揮された部分は、原作にもフィードバックされてます。「あ、創真ってこんな歌を歌ったりするんだ」って感じで、自分の中の創真像の幅が広がっていった。松岡さんの声も大きな要素ですね。原作を描いていて、セリフで詰まってしまったときなんかに「松岡さんの声で言いそうなことってどんなセリフだろう」って考えるようになりました。自分の中で引き出しがひとつ増えた感じです。たとえば創真が怒って、さらっと軽やかに、だけどざらりと相手を諫める言葉とか、そういう絶妙な創真の温度感を考えるときに、「松岡さんが言いそうかどうか」というのが決断の後押しになってました。

アニメ第1期10話「至上のルセット」より。創真は理不尽な理由で田所を退学にしようとする四宮に食戟を申し込む。

松岡 創真って怒ったときが怖いんですよね。ガチギレするとスッと感情が消えたようになる。

附田 さすが松岡さん、わかっていらっしゃる! 僕、アニメの監督さんとかにはオーディションの前にそれを伝えていたんです。「創真は怒れば怒るほど感情の温度が下がっていくキャラクターです」って。ほかのキャラクターなら「クリリンのことかーーーっ!!!!!」ってなるところで、創真はどんどん目が死んでいく。

松岡 そういう意味で、演じながら創真のことをがっつり掴めたのは四宮先輩に啖呵を切る場面ですね。

──原作3巻、アニメでは1期第10話の「至上のルセット」ですね。この話は附田先生や担当編集者さんもベストエピソードによく挙げています。

附田もお気に入りのエピソードして挙げている「至上のルセット」。

附田 これは我々もインタビューのたびに言い過ぎて、毎回「このエピソードの話はもうしない方がいいかな? 言ったほうがいいかな?」ってなります(笑)。でも、このシーンも松岡さんが完璧に演じてくれましたね。アフレコに立ち会ったとき、僕も「先生、どうですか?」って聞かれたりすることもあるんですけど、その前に米たに(ヨシトモ)監督が「ここはもっとこう」っていうのを的確に指示してくれているので、いつも「僕からは何もありません」ってなるんですよね(笑)。それくらい「創真はこう!」というイメージを、松岡さんはもちろん監督やスタッフの方も共通認識として持っていると思います。

松岡 ありがとうございます! その言葉に驕らずにもう1回ふんどしを締めていかないと……。

附田 何かいらぬプレッシャーをかけた感じが……(笑)。今のままでいいんですよ!


2019年10月4日更新