「食戟のソーマ」附田祐斗×松岡禎丞対談|原作の6年半、アニメの4年半を1万字超えのボリュームで徹底総括

実は想像の産物だった「なんちゃってローストポーク」

──「食戟のソーマ」は飯テロアニメとも呼ばれていますよね。つい食べに行ってしまったものもあったりしますか?

左から松岡禎丞、附田祐斗。

附田 僕は原作担当なので、描く前にいろいろ食べに行っています。毎回のテーマによって昼・夜と中華が続いたり、いろいろフランス料理を食べに行ったり……。特に連載初期は僕が全然料理に詳しくなかったので、担当編集者さんが打ち合わせのたびにいろんなお店に連れて行ってくれました。創真の料理は創作系も多いので、なかなか食べに行くことはできませんが、敵になる相手の料理はだいたい食べていますね。創真の料理もベースになる料理を食べながら考えています。松岡さんはどうですか?

松岡 僕は自炊するんですけど、家で作っているとどうしても偏ってくるじゃないですか。だから、「ソーマ」のレシピブックが出たときはテリーヌ以外は全部作りましたよ。テリーヌはさすがに工程が複雑すぎて(笑)。

「ゆきひら流ビーフシチュー 秋の選抜スペシャル」。アニメでは第2期第6話「朝はまた来る」で登場している。

附田 すごい! (レシピなどの協力をしている料理研究家の)森崎友紀さんが聞いたらすごい喜びますよ。

松岡 一時期ビーフシチューにガルニチュール(付け合わせ)を入れるのにめっちゃハマりましたよ。

附田 ガルニチュール入れると一気に本格的になりますよね。

松岡 でも、これ読むまでガルニチュールって知らなかったです。

附田 わかります。僕も最初はまったく知らなかったです。

第1話に登場した「なんちゃってローストポーク」。繊維質のキノコ類を練り込んだふかしたじゃがいもに、厚切りベーコンを巻いて作られている。

松岡 でも、一番作りやすくておいしかったのは、原点回帰じゃないですが、創真が第1話で出した「なんちゃってローストポーク」ですね。

附田 あれ、おいしいですよね。

松岡 しかも簡単なんですよ。今まで食べたことのない感じの味なんですよね。

──豚のかたまり肉じゃなく、じゃがいもをベーコンで巻いてローストポーク風にした料理なんですよね。

附田 実は「なんちゃってローストポーク」は僕も食べたことも作ったこともないまま描いたんです。初期はそんな料理も多かったので、途中から森崎先生にご協力いただくようになったんですが。

松岡 そうなんですか。

附田 料理マンガをやるためにプロの料理人が買う専門誌なんかを集めて読んだりしてはいて、それで「じゃがいもとベーコンで成立するんじゃないかな」って描いちゃったんです。ベーコンの脂を中のじゃがいもが吸うというコンセプトなんですけど、その後イタリアンのお店に行ったとき、鮎の下に茄子を置いて焼いて、茄子に鮎の脂を吸わせるという料理が出てきたんです。意外と理にかなってたんだって、うれしかったです。

子供がいつか「ソーマ」の料理に出会ったら

松岡 もう頭の中で配合を考えられるってことですよね。

附田 資料さえ……資料さえあればですよ!

──「ジャンプフェスタ」やイベントで食戟をしてもらいたいですね。声優チームと原作チームとかで。

附田 えー、声優さんには諏訪部(順一)さんっていう料理の猛者がいるから無理ですよ。勝てませんよ! あ、でもこっちは森崎先生がいるのか。

松岡禎丞

松岡 それはチートじゃないですか(笑)。

附田 ああ、さすがにプロはダメか。諏訪部さんはすごいけど一応セミプロですもんね。

──でも、本当に食べたくなる料理は多いです。知らないものもたくさん出てきますし。知識としても料理を楽しめるようになる。

附田 連載初期からこうなると面白いなと思ってたことはあるんです。例えば、子供って知らない料理とかだと頼み方の作法ってなかなか知らないじゃないですか。コース料理でも「前菜」ってそもそも何かわからないだろうし、「テリーヌは食事の後半に頼むようなものじゃない」とか。もっといえば、居酒屋に行ってもわからない料理も多いし、「とりあえず生」の「生」がそもそもわからなかったりする。料理の世界ってひとつのカルチャーショックがあると思うんです。そういう子供が「ソーマ」を読んで、いつかいろんな料理に触れたときに「あ、これ『ソーマ』で見たやつだ! 知ってる」ってなったらいいなって。「これがブッフ・ブルギニョンか!」とか(笑)。それも少年マンガの魅力だと思います。

松岡 でも、「ビーフシチューにガルニチュール付けてよ」って言う子供がいたとしたら「えっ?」ってなりますよ(笑)。

一同 (笑)。

「アニメで膨らませてもらおう」と思っている場面も

──原作はもうすぐ最終巻とファンブックが発売、そしてアニメも第4期「神ノ皿」が始まります。

極星寮が潰されることとなってしまい、父親との会話を思い返す創真。

附田 アニメからはキャラクターの内面的な部分でもフィードバックがありましたが、実はストーリー的な部分でもいろいろ取り込んできた部分はあるんです。米たに監督が本当に作品を愛してくれていて、オリジナルの描写なんかもいろいろ加えてくれているので。例えば、創真の親父が帰ってきて創真に昔の極星寮がどうだったかを語るシーンがあるんですね。アニメでそれを聞いている創真の顔がすごくいいんです。子供のような、キラキラした表情をしている。あれを観て「ああ、ソーマって子供なんだ」って改めて思ったりしました。そこはアニメのオリジナルで、マンガの読者は知らないシーンなんです。

松岡 でも原作で極星寮が壊されるとなったとき、回想でその要素が入っているんですよね。

附田 あれはアニメを観たときから入れようって決めていました。そういうふうに、アニメを観ていなくても混乱しない形でアニメの要素を原作にも反映させた部分はたくさんあります。

附田祐斗

──マンガだけ読んでいても楽しいけど、原作、アニメ両方観るとより楽しめますね。

附田 4期の脚本もチェックさせてもらっているんですが、今回も監督が原作では膨らませなかったところをガンガン膨らませてくれていてすごくうれしいです。原作ではページの関係でどうしてもあっさり描かなきゃいけなかったエピソードもたくさんある。今までも、そういう部分をアニメで膨らませてもらったりもしていましたから。なので、実は原作の最終回近くでも「ここはカットするけど、アニメで膨らませてもらお!」って勝手に妄想している部分もあります(笑)。その辺りも楽しみですね。

えりな、友達できてよかったね……

松岡 僕自身もアニメで観るのが楽しみな場面はいろいろありますね。

附田 僕は叡山対タクミの一戦とか楽しみですね。これまでの因縁が晴らされる戦いでもあるし、「ドッピオ・メッザルーナ・ピッツァ」っていうタクミの料理のネーミングも気に入っているんです。ジャンプのアンケートもよかった話なので、これはアニメでどうなるか楽しみにしてます。叡山先輩を演じる杉田(智和)さんにも大暴れしてほしいですね。

松岡 タクミの豹変も見どころですよね。

附田 ももとえりなの戦いも楽しみですね。もも先輩って淡々とかわいい感じで、お人形さんみたいにしゃべるんですけど、えりなとの戦いでは叫んだりする場面もある。そこを釘宮(理恵)さんがどう料理するかとか……。それとやっぱりえりな。今回はえりなの物語でもあって、料理をする場面もたくさんありますから。「えりな……友達できて本当によかったね」っていう親目線もあります(笑)。

松岡 言おうと思ってた楽しみなところをどんどん言われていく(笑)。あとは、薊がどうなるかですよね。

附田 あー! あそこね! 観てえー!

──アニメで「食戟のソーマ」に触れている人は薊の「あのシーン」も楽しみにしておいてもらいたいですね。

附田 リアクションの部分でも、原作27、28巻の「脱出不可のイリュージョン」の部分とか、楽しみなんですよね。あそこのリアクションはすごくこだわっていて、僕も原作ネームの段階でかなり描き込んだんです(笑)。本当に、今は読者の方と同じ立ち位置で楽しんでいます。本編が終わったのにアニメをこうして盛り上げてもらえるというのは本当に光栄ですし、「食戟のソーマ」という看板は本当に幸せな看板になったと思います。これからも「ソーマ」を愛してもらえたらと思います。

松岡 そうですね。僕は今アフレコをやっている最中ですが、皆さんに毎度のごとく食テロと、全力のえちえちな感じをお届けできればと思っています。J.C.STAFF、附田先生、佐伯先生、森崎先生、キャストの力を結集して最高においしいアニメーションを作りあげたいと思っていますので、期待して待っていてください。

左から附田祐斗、松岡禎丞。

2019年10月4日更新