創真は負けても大丈夫という信頼
松岡 秋の選抜もそうですが、創真って意外と負けてるんですよね。
附田 負けますね。勝ち負けは話を考えている間にもけっこう変わったりするんですが、創真は負けても大丈夫という作者としての信頼があるんです。失敗を愛していて、敗北しても立ち直れる、という。
松岡 そうなんですよね。負けても経験値になると思っている。負けたときの場面でも印象的なところがありますよ。たとえば、四宮との食戟に負けて壁を殴るところとか。あそこ、いいですよね。本気で勝ちに行ってたのかっていう。
──「至上のルセット」で仕掛けた食戟が決着した回ですね。
附田 「負けた…! ちくしょうっ…」って。あそこ、演技もよかったんだよなあ。
──勝ったときはカタルシスがあるからいいですが、少年マンガで負けるというのを面白くするのは難しいし、それができると魅力を感じますね。
附田 それと、料理マンガの場合、先攻後攻という要素があるじゃないですか。先攻が勝つのか、後攻が勝つのか、先攻が勝つとしたらどうするのか。おそらく古今東西の料理マンガを描いている人がぶち当たった問題だと思うんです。「美味しんぼ」は「後攻が勝つ」というのをフォーマットとして決めた作品ですよね。ひとつの古典芸能のような様式として。作劇としてもそれが正しいんです。でも、我々後発で出てくる人間は、そこにどうカウンターしていくかを考えないといけない。
松岡 料理マンガ好きの人ならマンガでもアニメでも先攻後攻というのはチェックしますもんね。「あ、先攻こっちか。負けだな」みたいな(笑)。(後攻が勝つという)先入観がある。
附田 絶対ありますよね(笑)。作者としては、そこでいい意味で裏をかけたら気持ちいいですし、狙ってもきました。
「おあがりよ!」の正解って?
──「食戟のソーマ」には決めゼリフや名物演出もいろいろありますよね。
松岡 (創真の決めゼリフのひとつ)「おあがりよ!」は、最初僕がイメージしてたものと全然イントネーションが違ってたんですよね。
附田 最初はどうだったんですか?
松岡 今は「おあがり(↑)よ!」って「り」でイントネーションが上がりますが、最初は丁寧というか、優しく「おあがりよ(→)」って皿を出してる感じだったんです。「おあがり(↑)よ!」ってちょっと上から差し出してるニュアンスもあるんですけど、創真のキャラクターを考えると確かにこうなんですよね。でも、最初は全然うまくできなくて何度もやり直しました。音響監督さんにも「なんで一言だけなのに言えないの?」って言われながら(笑)。
附田 でも、確かに僕もアニメになるまで「おあがりよ!」の発音ってちゃんとイメージできてなかったんですよね。PVで観て初めて「あ、『おあがりよ!』ってこうだったんだ!」って(笑)。ぼんやりとしたイメージでは、けだるそうに言っている感じが頭にあったんですが、PVを観たら「なるほど、これだよな! こっちの方が決めゼリフっぽい!」って納得しました。
松岡 「おあがりよ!」のバリエーションも増やしていかないとな、と思ってます。状況や創真の感情によってもトーンが変わりますから。美作戦の「おあがりよ!」なんかはけっこう毛色が違いますしね。
──創真も明るい表情ではなく、ちょっとテンション低めの顔をしています。
松岡 僕はこの表情に合わせて言ったんですが、何回もディレクションされました。
附田 うわあ、難しいですね。迷路にハマりそうな……。
松岡 ニュアンスが難しくて、針の穴に糸を通すような感じでしたね。
附田 いやあ、声優さんって本当にすごいな……。
我々は裸に麻痺している
──料理を食べたときのリアクションも名物のひとつです。特に連載が始まった当初は、おいしさで女性キャラの服がはだける演出が話題になりました。おふたりのお気に入りはありますか?
附田 いろんなところで言ってるのはやっぱり「マジカル☆キャベツ」ですね。
松岡 あれは……(笑)。
──創真と四宮の食戟で、四宮の料理を食べたあとのリアクションですね。「野菜料理(レギュム)の魔術師」という異名を持つ四宮の料理を食べて、「味の魔力が漲るようだ…!」という感想から審査員が魔法少女「マジカル☆キャベツ」に変身してしまうという。
附田 アニメで観るとさらにヤバかったじゃないですか。
松岡 「マジカル☆キャベツ」はヤバい(笑)。
附田 アニメではキャベツピンクになる堂島を子安武人さんが演じているんですけど、Blu-rayのオーディオコメンタリーで四宮役の中村悠一さんが子安さんの「キャベツ~~~!!! ピンク!!!」ってセリフについて、「『キャ』の時点からこんなにトップスピードに入れるんだ」っていうようなコメントをしてて(笑)。怪演ですよ。しかも、そのままエンディングになるっていう(笑)。
松岡 僕も男性キャラのリアクションになっちゃうんですけど、美作のキューティクルですかね。秋の選抜本戦準決勝で美作が創真のビーフシチューを食べて心を解きほぐされる。
附田 ドレッドヘアーが乙女のようなキューティクルを持つストレートヘアーになるシーン。
松岡 あれ、単行本で読んだときも爆笑しましたもん(笑)。
附田 あれは打ち合わせで「美作のドレッドがさらさらロングになったら面白いんじゃない?」って話になったのがきっかけですね。でも、どうやってなるんだろうって考えて、「コーヒーカップに乗ったら、その遠心力でドレッドが解けるんだ!」って。
──「ドーナッツは穴が空いてるから0カロリー」みたいな謎理論ですね。
松岡 あれ、ガチムチなのがまたヤバいですよね。
附田 もう完全に振り・落ちですよね。連載当初の「料理で女の子の服が脱げるよ」っていうのが振りになってる。
松岡 うなぎ料理対決のときの「マジでごめん」とかももう……(笑)。
──連隊食戟編での一色先輩対白津のリアクションですね。一色先輩のうなぎ料理を食べた白津がその味に屈して半裸でうなぎに絡みつかれながら、イタリア語で「マジでごめん」と叫ぶという。
附田 あれは「キタ」と思いましたね。マンガって「それいる?」という面白さも大事だと思うんですよね。ここまで話していて、女性のリアクションが全然あがらない(笑)。
松岡 僕ら「ソーマ」で女性の裸は見過ぎていて、それは普通だって麻痺してるんですよ(笑)。
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実は想像の産物だった「なんちゃってローストポーク」
2019年10月4日更新