「SERVAMP-サーヴァンプ-」|連載10周年記念!著者・田中ストライクに10年分の思いを聞いたロングインタビュー

真昼が手を差し伸べたのは、クロだけじゃないんだ

──ここからは巻数ごとに時期を区切り、物語や当時の出来事を振り返っていければと思います。8巻で“C3編”に突入するまでをひとつの区切りと考えて、まずは1~7巻のエピソードについて聞かせてください。記憶に残っている回などはありますか?

第1話より、ベルキア。かなりの目立ちたがり屋で、手品師のような風貌をしている。人間を殺すことにためらいがない、残虐な面の強い吸血鬼。
第31話より。

第1話は長い時間をかけて考えたので、やっぱり一番印象深いです。連載が決まってから創刊まで、半年以上こね回していたような気がします。ギリギリまでなんだか決まらないと思っていたんですが、べルキアのキャラクターができたことで形になりました。べルキアの派手な演出が1話目を華やかにしてくれたように思いますし、賑やかなキャラクター中心のマンガだということもわかりやすくなったかなと。

──ベルキアがきっかけだったんですね。ハイテンションなベルキアは、怠惰なクロとのコントラストという意味でも印象的だったのではないでしょうか。ほかにはいかがですか。

ほかには、6巻で真昼が有栖院御国の骨董品屋「the Land of Nod」に行く場面。それほど大きなシーンではないですが、こういう小さなお店が好きなので、舞台としてこの御国のお店がけっこう気に入っています。御国は「鏡の国のアリス」などをモチーフの1つにしているので、その要素をいろいろと入れながらヨハンと真昼のシーンを作れたのも楽しかったです。それから、7巻のロウレスとオフィーリアの回は、思い切って長い回想で描き切れてよかったなと思っているエピソード。リヒトとロウレスの対立、ぶつかり合いは描いていても楽しかったです。思いっきりぶつかって、思いっきり和解して。この直後の強欲VSヒガン戦も、気に入っているバトルです。

──「サーヴァンプ」はセリフが印象に残る作品でもありますよね。同じく7巻までで、特に印象的なセリフを挙げるとしたら?

6巻の真昼の「向き合おう、一人じゃないんだ。できることは、ある」は、いただいたファンレターの中で多くの方が好きなセリフとして書いてくれていたので印象深いです。真昼の言葉で救われましたというお手紙もいただけたりして、感動しました。真昼が手を差し伸べたのはクロだけじゃないんだなあと。あと個人的には、7巻頭のリヒトのセリフ、「努力する気のねえ奴ほど、自分は自分だとかよく吠える…」。リヒトのセリフは全体的になんというか、自戒を込めて……(笑)。

振り返ると、ドラマCD化した5巻が節目だった

──連載当初はどんなことを考え、目標とされていたんでしょうか。コミックジーン100号(2019年10月号)の記念冊子に掲載された描き下ろしマンガでは、「(1号で)この時点ではこんなに続くとは誰も思っていなかったやつだな…」「(100号で)正直ここまで連載を続けることができるなんて当初誰一人として想像してなかったと思うよ…」と書いていらっしゃいましたが……。

コミックジーン2019年10月号の付録冊子に掲載された特別描き下ろしマンガ「ジーン100号記念クエスト」より。

連載が決まってから、何年頃までにグッズ化して、アニメ化して……というような、おおよそみんな考えるであろうことは考えて(笑)、具体的な目標と計画を立てて当時は壁に貼っていました。メディアミックスは運だと思うので、それらができたことは運がよかったと思います。でも、こんなに続けられるとは本当に思っていなかったです。正直な話をしてしまうと、1巻が出てすぐの頃に「これはもう打ち切りだろうな」と思っていました。でも幸い、連載は打ち切りにならずに済んで、こんなに長く続けさせていただくことができました。本当に、コミックスを買って作品を支え続けてくださった読者の皆さまのおかげです。

──ご自身で手応えを感じられたのはいつ頃だったんでしょう。

手応えという意味では、今でもあまり……ないです。10年も経ったことも信じられない気持ちです。4巻頃までは、いつ「次巻で終わらせてください」と言われるかわからなかったので、エピソードを短めに区切っていましたが、5巻からは「続けて発刊できそうだから少し長めのエピソードでもいいよ」と編集部側に言ってもらえたので、このあたりが一つの節目だったのかなと今では思います。その5巻発売の頃にドラマCD化して、そこからいろんな形に作品が広がっていったので。このあたりはほとんど初代の担当さんのおかげです。この作品を見限らずに、最初のドラマCDを形にするために奔走してくれて、アニメ化を目指しましょうと言ってくれて、本当に感謝しかないです。

──ドラマCDが作られた5巻頃が転機だったと。田中ストライクさんにとってもうれしいニュースが続いた時期だったでしょうか。

初めてグッズ化のお声をかけていただけたときはうれしかったですね。「サーヴァンプ」はアニメ化の前から本当にいろんなグッズや、キャラクターソングまで出していただけたり、コラボカフェも開催していただけたりして、どれもすごく楽しくてうれしかったです。それから、ドイツのコミックイベントに招待していただいたことも印象深いです。海外にもこの作品を読んで楽しんでくれている方がこんなにたくさんいるんだなあと実感できてうれしかったです。「サーヴァンプ」は日本以外でもたくさんの国で翻訳して発売していただけていて、そのこともすごくうれしく思っています。

クロって実際にしゃべるとこんな感じなんだなあ

──アニメ化の発表は8巻の発売直前でしたね(参照:田中ストライク「サーヴァンプ」アニメ化、吸血鬼のバトルファンタジー)。ドラマCDも含め、声がついたことで印象が変化したり、新しい発見があったりしたキャラクターはいましたか。

描いている時点ではキャラクターの声は想像できていない場合がほとんどで。中でも特にクロが、考えてみてもどんな声でしゃべるのかが想像できなかったんです。「低め……かなあ……」くらいのイメージしかなく、さらに猫のときはどうなるんだろう?とかも全然わからなくて(笑)。CD制作の方々がキャスティングしてくださって、そこでクロ役に梶裕貴さんをご提案いただいて。当時、個人的には梶さんはもっと王道の主人公的な……少年ぽい役柄というか、クロよりは真昼っぽいというイメージがあったので、意外でびっくりしました。でも役者さんというのはすごいですね。人型のときはカッコよく、猫のときはかわいく、声の演技の幅が本当にすごい! クロって実際にしゃべるとこんな感じなんだなあ、すごくゆっくりしゃべるんだなあと、クロに対して新鮮な発見がありました。

※このCMは2017年3月に公開されたもの。

──いち視聴者としても、クロの普段の声と猫モードの声のギャップは印象的でした。

ほかのキャラクターについても、いつもこちらが驚くほどぴったりな方をご提案いただけるので、キャスティングに関しては信頼してお任せしています。でもさすがに「ジェジェ役に津田健次郎さん」と言われたときは、「ジェジェにはもったいなさすぎでは!?」となりました(笑)。全然しゃべらないジェジェにまでそんないいお声をつけてもらえるなんて。

──無口キャラですもんね(笑)。

アニメ化が発表された月刊コミックジーン2015年8月号の表紙。

ジェジェにはもっとしゃべってほしいですね(笑)。それから松岡禎丞さんのベルキアも、セリフの語尾に“★”がたくさん付いていそうなしゃべり方で演じていただけて、とてもうれしかったです。マンガでは文字の表記の仕方やフキダシの描き方などでキャラクターを演出できるのですが、それがないアニメでもまるでそのまま、いえそれ以上で、本当にすごい!と感激しました。特殊な抑揚でしゃべるキャラクターというと、ロウレスもそうですね。木村良平さんのセリフの抑揚によるキャラクター表現が素晴らしかったです。こうして挙げていくとキリがないくらい、どのキャラクターも素晴らしく演じていただけたと思っています。

──アニメーションで観られてうれしかったシーンを挙げるなら?

アニメでは特に椿が、原作よりずっと強そうでよかったです。強敵らしいオーラがあるというか、この人は動きが付くとより一層怖いな、と思いました。オープニングの椿が特にすごく強そうでしたね。

──ちなみに8巻からの新章は“C3編”と銘打たれていますが、同じように7巻までを“○○編”と表現するとしたらどんな呼び方になりますか?

うーん、難しいですね……なんだろう? このあたりは連載を続けることに必死で、1巻ごとになんとか引きを作っている状態で、全体の構成までは考えられていなかったので。自分では2巻までを“桜哉編”、4巻を“有栖院家編”、5~8巻を“強欲編”と分けて呼んでいます。7巻までをまとめて呼ぶとしたら、“仲間集め編”や“サーヴァンプ集合編”といった方向でしょうか。味方となるサーヴァンプたちを集めている段階かなあと思うので。ここまでを振り返ると、リヒトとロウレスの登場がやっぱりひとつの転機だったのかなと感じます。ロウレスはクロに対してかなり嫌な感じというか、敵対する様子で登場したので、こんなに人気が出るとは思わず意外でした。4巻の“有栖院家編”でこの作品の形みたいなものを方向付けることができて、その直後の強欲組の2人が「サーヴァンプ」の連載を安定させてくれたように思います。