「SERVAMP-サーヴァンプ-」|連載10周年記念!著者・田中ストライクに10年分の思いを聞いたロングインタビュー

椿は純粋な悪ではなく、親近感のある人物になれば

──そんな真昼やクロたちと敵対することになる、“招かれざる8番目”の大罪、椿の設定やデザインについても教えてください。

第2話より、椿の登場シーン。

七つの大罪について調べていくうちに、「古くは罪は8つあって……」という話を見つけて、これをモチーフにしたら面白いかなと、8番目の大罪として“憂鬱”を登場させました。吸血鬼といえば洋風なものが定番だと思うので、敵対する吸血鬼である椿は、主人公サイドのクロとは明らかに違うものだとわかりやすくなるよう、和風に。刀で戦う敵は絶対カッコいいだろうな、という気持ちもありました。椿の動物姿はキツネにしようと思っていたので、晴れた空に雨が降り出す「狐の嫁入り」を演出に取り入れたり、「狐火」や「九尾」などのキツネに関連するモチーフからイメージを膨らませました。椿のキツネ姿は九尾じゃなくて二尾なんですが、14巻以降、7人の兄弟たちの力を取り込むたびに1つずつ増えているので、足して九尾に近付いていっているという設定です。椿が登場するときの下駄の音も「コン」と毎回大きく描いているんですが、これもキツネの鳴き声とかけてます。

──効果音まで……! 恥ずかしながら、それには気が付いていませんでした。

以前、ドイツ語版か英語版だったかな? 外国語版の「サーヴァンプ」1巻を献本でいただいたときに、この「コン」という描き文字の横に「※この音は日本語ではキツネの鳴き声も示しています」というような注意書きを添えてくださっているのを見て、細かいニュアンスまで伝わるように配慮してもらえてうれしい!という気持ちと同時に、目の前でこのダジャレのどこが面白いかを解説されたような気恥ずかしさも感じたことが記憶に残っています(笑)。でもこういう言葉遊びのようなことをよくやっているので、丁寧に扱っていただけて本当にありがたいです。

──本編の展開がシリアスなときに、椿が巻末でコメディリリーフ的な役割を果たしているのも、一読者として楽しんでいます。この、ある意味では“ラスボス”らしからぬ親しみやすさも椿の魅力ですよね。

第2話より、大笑いする椿。

椿はなんだかんだノリがいいので、コメディに使いやすくてついやってしまいます(笑)。極悪非道な敵キャラを主人公が打ち倒すのもカタルシスがあっていいと思うのですが、この作品はハッキリした勧善懲悪の物語からは少しずれると思っているので、椿は純粋な悪ではなくどこか親近感を持ってもらえるような人物になればいいなと思う部分もあります。

──椿の「面白くない」、クロの「向き合えねー」など、「サーヴァンプ」のキャラクターは口癖も印象的です。

読んでもらえたときに、なんでもいいから記憶に引っかかってほしいと考えていたんだと思います。キャラクターがわかりやすくなって覚えてもらえるかなと思って、できるだけ全員に付けていました。でも、雑誌のアンケートか何かで、やりすぎでしつこいというご意見もいただいたことがあって、あまり上手なやり方ではなかったんだと思います(笑)。何度も繰り返すより、一度でバシッと覚えてもらえるのが理想ですよね。椿の大笑いする癖も、最初からあったわけではないんですが……。当時は作品を読んでもらえているのかも、連載が続くかもわからなかったので、とにかく何か印象に残るものにしたくて足掻いたんだと思います。

14人は……多すぎました!(笑)

──七つの大罪を冠したサーヴァンプたちに、それぞれのイヴを合わせて14人。さらに椿を始めとする敵勢力、それぞれの家族やサブクラス、第三勢力の“C3”と、「サーヴァンプ」は登場キャラクターが多いですよね。

14人は……多すぎました!(笑) なんで最初に気付かなかったんでしょうか……。“メインキャラクター”と何名かをくくるにも、絞りにくくていつも苦労することにもなってしまい、大きな反省点です。最初に中心となるキャラクターを4~5人程度に絞っておければよかったんですが……。

──そうなんですね! 連載開始前のインタビューで「とにかくたくさんキャラが出せたらなあと思います」とお話しされていたので(参照:覚醒前夜祭☆連載作家インタビュー⑦ 田中ストライク先生)、キャラクターをたくさん出すことにはこだわりがあるのかと思っていました。

キャラクター作りに自信がなかったんだと思います。この作品は読者さんに「キャラクターを好きになってもらうこと」が一番大事だと思っていながら、自分がどんなキャラを描くのが得意なのか、逆に描くのが下手なのか、全然わかっていませんでした。なので数撃てばどれかは当たる的な考えで(笑)、たくさん出そうとしたんだと思います。クロというキャラクターが核になると思いながらも、クロだけでは作品を引っ張っていけないだろうと、どこか自信を持てていなかったんです。でも結局クロと真昼が一番人気があったので、この2人を最初からもっと信じてよかったんだなと反省しています。

──真昼とクロ以外で、お気に入りのキャラクターを挙げるとしたら?

11巻の表紙を飾ったのが露木修平。中立機関“C3”に所属する青年で、年齢を偽って真昼の通う高校に潜入していた。アニメでは石川界人が演じている。

露木修平です。ただ、あまりうまく描けているとは思っていなくて……頭の中ではもっといい感じで存在しているんですけど(笑)。完全な技術不足で悔しいキャラクターでもあります。好きなものと描くのが得意なものは違うというか、“好きだけど描くのは苦手なキャラ”だったのかなと……。

──好きだからこそ、葛藤もあるんですね。キャラクター同士の組み合わせだといかがでしょう?

組み合わせだと、露木修平と有栖院御国が個人的には気に入っています。高校時代の先輩・後輩ですが、すごく仲がいいわけでもなく、特別気が合うわけでもなく、互いの状況をある程度知ってはいながらもあまり詮索せず、でもなんとなく相手がどう考えているかわかるような気もする……というような、絶妙な距離感が好きです。あとは真昼と塔間の組み合わせもちょっと面白いですね。真昼は基本的に怒りが長続きしないタイプなので、誰かに対して強い敵対心を持ち続けることはほとんどないんですが、塔間に対してだけは割とずっと敵意が剥き出しというか。真昼は自分と塔間の関係性にはまったく気付いていないのですが、心のどこかで“なんとなく気に食わない奴”だとずっと感じています。塔間が真昼のことを大人げなくストレートに嫌っているので、それを感じ取ってのことかもしれません。この2人の間に吊戯と城田徹が入るとどことなく家族っぽくなり、その4人+クロで新生・城田家という感じに……なんて言ったら、真昼も塔間も嫌がると思いますが。