「SERVAMP-サーヴァンプ-」|連載10周年記念!著者・田中ストライクに10年分の思いを聞いたロングインタビュー

“C3編”は後悔や反省が多い

──次に“C3編”についてお聞きします。C3はそれまでも謎多き感じでしたし、どこかで掘り下げられるのだろうとは感じていましたが、吊戯や塔間らを中心に6巻にわたって繰り広げられる長編になるとは、8巻の頃は思っておりませんでした。“C3編”はどういう構想で始められたのか、また一段落がついた今、振り返ってどんなことを感じていらっしゃるか、伺えますか。

第51話より。吊戯を道具同然に扱う塔真に対し、怒りをあらわにする真昼。

ここは……長すぎました。一応、この章は憤怒の章のつもりで怒りの感情を中心に描いたのですが、それが章の冒頭で明確に示せておらず、読者さんも今何をしてるのかがわからなくなってしまっただろうと思います。この時期は全然余裕がなくて、構成をまとめきらないまま走り出してしまい、反省ばかりです。

──怒りがテーマの1つだったのは、読者にも伝わっていると思いますよ! ただ、アニメ展開と並行しての作業で、とてもお忙しかっただろうと推察します。

「サーヴァンプ」の読者さんは“真昼とクロの物語”が見たいんだという、当たり前のことを見失ってしまったんだと思います。キャラクター数が多くて群像劇的になってしまい、エピソードの取捨選択もできていなかったです。もっと小さく、いくつかに章を分けたり、真昼・クロと対立する吊戯・塔間を中心にコンパクトに構成できたらよかったのですが……。“C3編”は真昼にとっては重要なエピソードだったんですが、クロとうまく絡められていなくて。この章の中心にあった吊戯と塔間の話が、“真昼とクロの物語”ではなく“真昼の物語”になってしまったのは、この作品においてはあまりよくなかったように思います。それぞれの葛藤やエピソードは気に入っていただけに、もっとクロも物語の中心に据えたかった。それが悔やまれます。

椿は敵だけど、誰かを救ってもいる

第57話より、露木修平とシャムロックが対峙するシーン。

──この期間で記憶に残っているエピソードというと?

露木修平とシャムロックのエピソードは、2巻と3巻で2人が初めて登場したときからずっと描きたいと思い続けていたので、それを描き切れたことはうれしかったです。でも思い入れがあった分、つい長く尺を取りすぎてしまったことは反省しています。個人的には好きなエピソードだったのですが、雑誌連載当時の反応としてはあまり手応えがなかったので……。キャラの華やかさやキャッチーさが足りなかったかなとも思います。あとあまり暗くなるのはよくないなと。それから14巻冒頭の、“C3編”のエピローグも印象深いです。終われてよかったとホッとしました。修平や吊戯には特に大きな変化もありましたし、あとここで発覚する真昼と塔間のことは……どうだったんでしょうか?(笑) 意外な事実の判明として演出したシーンは、読者さんの反応が気になります。驚いてもらえたかとか、がっかりさせていないかとか。

──このインタビューを読まれた皆さんが反応をくださるといいですね。続いて先ほどと同じように、“C3編”での印象的なセリフもお聞きできますか?

第67話より。

椿の「僕が代わりに殴ってやろう」は、これもファンレターで多くの方が好きなシーンに挙げてくれていたので印象深いです。椿は確かに主人公である真昼とクロの敵なのですが、別の誰かを救ってもいて、その椿というキャラクターをよく示しているセリフなのかなと思います。「真昼の言葉に救われた」と言ってくれる方がいて、一方で「椿の言葉に救われた」と言ってくれる方もいて。それがすごく真昼と椿らしいというか、うまく言えないんですが、椿というキャラクターでやりたかったことをできたのかなと感じました。個人的には塔間のセリフもけっこう好きなものが多いです。嫌味な言い回しの中に、たまに全然意味のわからない冗談を混ぜるなど、独特なおしゃべりをする人なので。

つらい時期、偶然出会ったジーン読者に励まされた

──C3関係者のキャラクター造形についても教えてください。共通して持たせているイメージや、デザイン時に意識されたことなどはありますか。

C3の魔術師たちはタロットカードをモチーフの1つにしています。各話のサブタイトルにもキャラクターの名前と一緒につけていたり、各キャラクターのテーマや絵のモチーフとして含めたりしました。例えば狼谷吊戯は「吊るされた男」で、このカードは人の絵が逆さまになっているのが正位置なので、吊戯は扉イラストなどでもよく逆さまに描いています。露木修平の父・露木“義正”は「正義」の逆位置なのでそういうニュアンスを含めたり、「教皇」と「悪魔」のカードは対になっているそうなのでそれぞれを露木修平とシャムロックのモチーフにして対立させたり。「塔」は正位置でも逆位置でも悪い意味を持つ唯一のカードだそうなのですが、この章で敵対する塔間泰士はこれをモチーフにしています。

──「塔間泰士 -THE TOWER-」など、各話のサブタイトルで示されていましたね。

第50話と第69話の扉ページ。

あと、C3のキャラクターは真昼から見ると“大人”という立ち位置で出てきますが、実際には大人になりきれていないイメージで描いています。吊戯のモチーフのひとつにピーターパンを含めたり、魔術師が使う呪文にマザーグースなど童謡をモチーフにしているものが多かったりするのもそのあたりを意識しています。

──先ほど余裕がなかったともおっしゃっていましたが、この時期の出来事で覚えていることはありますか?

画集を出していただけたのはとてもうれしかったです。ずっと先でもいいので、絵を描き続けられたらいつか出したいと思っていたものなので。あっ、あとこの頃にすごく驚いたことがありました! あるお店でお昼ごはんを食べていたときに、近くの席に座った方がその日発売のコミックジーンを取り出して読み始めたんです……! その号は巻頭カラーだったので、「サーヴァンプ」を読んでくれているのがすぐわかって。そういう場面に遭遇するのは初めてだったので、すごいビックリしました。「今日発売の雑誌だ! 本当に読んでくれてる!」って思って。1ページ1ページすごく大事に、ゆっくり読んでくれていて、もう、感動しました。こんなこと本当にあるんだなって。けっこうつらい時期だったので、がんばろうってすごく強く思いました。あのときのジーン読者の方、ありがとうございます。勝手に励まされました。まだ読んでくれてるといいなあ……(笑)。