ピッコマ主催による「ピッコマノベルズ大賞」は、ピッコマユーザーに愛される作品を募集するノベルコンテスト。2022年より開催されており、1年で4シーズン、都度新たなテーマで募集が行われる。ピッコマユーザーによる一次審査通過でノベル連載が確約。ユーザー評価を加味したうえで、運営事務局による二次審査を通過し年間最優秀賞に輝くと、賞金1000万円が贈呈されるほか、第3回からは副賞として新しくSMARTOON化が確約される。現在、同コンテストの第3回シーズン1が開催中で、作品は2025年2月28日まで募集されている。
では「ピッコマノベルズ大賞」応募にあたり、どのようなポイントを押さえるべきなのだろうか。コミックナタリーでは「第1回ピッコマノベルズ大賞」で年間最優秀賞を獲得したノベルを原作とするSMARTOON「年下夫の未来のために、離婚状を置いて出ていった結果」より、作画・maronpie(マロンパイ)と、同作を手がけるシェルパスタジオの担当者・近藤氏にインタビューを実施。ノベルのSMARTOON化に手を挙げた制作スタジオと作画家が考える、ノベルをSMARTOON化する醍醐味や、SMARTOON化を見据えた作品を書く際に心がけてほしいポイントなどについて語ってもらった。なおmaronpieが韓国在住のため、取材は通訳を挟み、リモートで行った。
取材・文 / ナカニシキュウ
2022年よりピッコマが開催するノベルコンテスト。作品は1年の中で第1シーズンから第4シーズンまでの4つの期間に分けて募集される。年間最優秀賞作品には賞金1000万円を贈呈。第3回からは副賞としてSMARTOON化が確約される。
一次審査では、ピッコマの利用データをもとに選ばれたユーザーが「読者審査員」として審査を実施。ユーザー評価を加味したうえで、運営事務局による2次審査を経て、年間大賞が決定する。なお受賞の有無にかかわらず、一次審査通過作品はすべてピッコマで連載される。
応募作品のテーマはシーズンごとに2つラインナップ。2024年11月から募集している第3回では、よりSMARTOON化向きのノベル作品にフォーカスするべく、SMARTOON読者から人気の“サブテーマ”も新たに設けられた。
「第3回ピッコマノベルズ大賞」
一次審査
シーズン1
- 募集期間
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2024年11月28日~2025年2月28日
- 結果発表
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2025年4月末頃
- 募集テーマ
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- 西洋風ファンタジー×最強主人公のやり直し
- 西洋風ロマンスファンタジー×貴族女性の離婚
シーズン2
- 募集期間
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2025年3月3日~5月7日
- 結果発表
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2025年7月末頃
- 募集テーマ
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- 現代ダンジョン×最強主人公の快進撃
- 西洋風ロマンスファンタジー×貴族女性の結婚
シーズン3
- 募集期間
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2025年5月14日~7月7日
- 結果発表
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2025年9月末頃
- 募集テーマ
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- ゲーム世界×実力者主人公の成り上がり
- 西洋風ロマンスファンタジー×悲劇の悪女のやり直し
シーズン4
- 募集期間
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2025年7月14日~9月8日
- 結果発表
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2025年11月末頃
- 募集テーマ
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- 現代×ヒエラルキー逆転の爽快バトル
- 現代ロマンス×成人女性の恋愛ドラマ
二次審査
- 結果発表
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2026年5月末頃を予定
賞金と副賞
- 年間最優秀賞:1000万円+SMARTOON化確約
- 年間優秀賞:300万円
- 佳作:100万円
※受賞作に限らず人気作は積極的にSMARTOON化が検討される。
※一次審査通過でピッコマでの連載確約。
「年下夫の未来のために、離婚状を置いて出ていった結果」
主人公は恋愛小説好きの日本人少女が転生した令嬢・イザベラ。ここが前世で愛読していた小説の世界だと気づいた彼女は、推しキャラクター・アレクシスを“闇落ち”から救うため、彼が成人するまでの3年間限定で彼と契約結婚をする。私生児ゆえに家族から虐げられ、心に深い傷を抱えたアレクシスに、惜しみない愛情を注ぐイザベラ。互いに惹かれ合っていくものの、イザベラは契約通り3年後に離婚状を置き、ひっそりと姿を消してしまう。それから8年後、彼女はアレクシスと運命の再会を果たすが、彼は冷徹無慈悲な皇帝になっていたうえに、イザベラについての記憶も失っていて……。お互いを思いながらもすれ違いを繰り返す、大人の“じれキュンラブストーリー”が展開される。
同作は2022年から2023年にかけて開催された「第1回ピッコマノベルズ大賞」で、年間最優秀賞を受賞した朧月あきのノベルが原作。maronpieが作画、カカオピッコマグループのSMARTOON制作スタジオ・シェルパスタジオが制作を担当し、ピッコマのSMARTOON総合ランキングで1位にも輝いた。
キャラクター
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イザベラ
ルーベル公爵家の長女として生まれた令嬢。前世は日本の恋愛小説好きな少女で、ひょんなことから自分のいる世界が前世でお気に入りだった小説「白魔導士シャルロット」の中であることに気づく。植物と会話することができるが、その風変わりな能力は家族には受け入れられず、父からも兄からも虐げられてきた。そんな中、兄の友人とのお茶会で当時10歳だったアレクシスと出会った彼女は、孤独で居場所がない彼と自分を重ね、彼の支えになろうと動き出す。
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アレクシス
小説「白魔導士シャルロット」の世界の闇魔導士。イザベラと出会い、契約結婚ながらも彼女と思いを通じ合わせていく。小説の中では孤独な幼少期を過ごした彼は、ヒロインのシャルロットに一目惚れし、ヒーローとシャルロットを巡る戦いに身を投じていくことになるが、イザベラとの出会いによってその筋書きは変化していって……。イザベラの推しキャラクターでもある。
プロフィール
maronpie(マロンパイ)
韓国在住のマンガ家。主な作画担当作に「悪役皇女様はお菓子の家に住みたい」「皇帝の伴侶」など。楽しく描くことを目標に、日々努力を重ねている。
近藤氏(コンドウ)
カカオピッコマグループのSMARTOON制作スタジオ・シェルパスタジオのSMARTOONクリエイティブ室プロデュースチームに所属する編集者。主な担当作に「私が悪女を目指したらなぜか執着されました」「年下夫の未来のために、離婚状を置いて出ていった結果」など。
トレンドを押さえつつ独自要素も備えている
──「第1回ピッコマノベルズ大賞」で年間最優秀賞を獲得した「年下夫の未来のために、離婚状を置いて出ていった結果」。SMARTOON化を担当されているおふたりから見て、この原作の魅力はどういうところにあると感じていますか?
近藤 初見で読んでみたときにSMARTOON読者に人気の要素をいくつも押さえていてすごく面白いなと思いました。離婚や契約結婚、シークレットベビーなどですね。なんですけど、そういったSMARTOONの要素がいっぱい詰まっているにもかかわらず、話があちこちに飛ぶわけでもなく、キャラクター属性も適切ですし、構成もしっかりしていて、よくまとまっている作品だなと
maronpie まさに近藤さんがおっしゃったとおり、すべてのトレンドを盛り込んでいながらも1つのストーリーとしてキレイにまとめられているところが最大の魅力だと感じています。さまざまな要素の1つひとつがとても個性的であるにもかかわらず、どれかが変に突出することなく、全体が混然となってひとつの美しい形をなしている。しかもテンポよくお話が進みますし、次のエピソードがどういう展開になるのかがとても気になるような仕掛けが至るところにちりばめられた作品です。
近藤 いろんな面でトレンドを押さえつつも、ほかにない独自の要素もしっかり含まれているのがこの作品のすごいところです。中でも特徴的なのは、ヒーローが年下だというところですね。タイトルにも「年下夫」というワードが含まれているとおり、ヒーローのアレクシスは主人公・イザベラよりも年齢が下なのです。一般的には暴君のようなコワモテのヒーローだと年上の設定にすることが多いと思うのですが、この作品ではヒーローのかわいらしい部分も描きつつ、時折強さや頼りがいのある一面をギャップとして見せていく。そこがほかの作品にはない、「年下夫」ならではのポイントだと思います。
maronpie ヒーローが年下だというのは、私もすごく気に入っているポイントです(笑)。
──確かに物語の序盤なんかは、ある種の育成要素もありますよね。アレクシスが成人したときに独り立ちできるようイザベラがあれこれ尽力する描写がありますが、これも年下設定ならではというか。
近藤 そうですね。子供の頃に出会った時点ではイザベラに恋心のような感情はなかったと思うんですけど、お互いに成長していく中で、少しずつアレクシスに男性としての魅力を見いだしていくので。そういったところも読者に刺さったんじゃないかなと思います。
“ロマンスが伝わるような画面づくり”を意識
──この原作をSMARTOON化する作業というのは、ざっくりどんなふうに進むのでしょうか。
近藤 まず原作ノベルをシェルパスタジオがシナリオ化して、それをネーム作家の嶌野さんにお願いしてネームに起こしてもらいます。その後シェルパスタジオで2人体制でネームを確認し、そのネームをもとにmaronpie先生に作画をしていただきます。最後にデジタル職人さんというスタジオで着彩と仕上げ……色を載せ、エフェクトや写植を入れる作業を行っていただき、完成という流れになります。
──maronpie先生が作画の際に心がけているポイントはどういうところですか?
maronpie まず、衣装にはとてもこだわっています。イザベラの髪が紫色なので、その髪色に似合う色がけっこう限定されてくるんですね。なので、色味にはかなり細心の注意を払って選ぶようにしています。
──着彩作業自体はデジタル職人さんが担当されているということですが、衣装の色彩についてはmaronpie先生が決めているということですか?
maronpie 衣装やアクセサリー類などの色味についてはそうですね。色以外では、イザベラとアレクシスが一緒にいるシーンでドキドキ感を出すために、お互いの気持ちやロマンスがちゃんと伝わるような画面作りを心がけています。また、ネームを余すところなく絵に落とし込むことも意識していますね。近藤プロデューサーからのからのアドバイスも参考にしながら、原作の魅力的な部分を表現しきれているかどうかを常に考えながら作業しています。
──描いていて特に手応えのあったシーンを教えてください。
maronpie アレクシスがイザベラをお姫様抱っこするシーンがあるのですが、それがロマンスの始まりだというふうに私は思っていまして、とても気に入っています。アレクシスのカッコよさも引き立たせつつ、強引で怖い人という印象にはならないように気をつけました。描いていて自然と力が入ったシーンですし、周りからの評価もすごくよくてとてもうれしいです。
──キャラクターでいうと、描いていて楽しいキャラクターなどはいますか?
maronpie 個人的に、シャルロットを描いているときが一番楽しいです(笑)。とても華やかさのあるキャラクターなので。イザベラとの対比を表現しなければいけないところも描いていて楽しいポイントです。あとは、グレイソンも好きですね。アレクシスの騎士というポジションなのですが、まず眼帯をしているというのがすごくグッと来るポイントでして(笑)。とても慎重な性格でありながら若干ギャグキャラっぽいところもあって、お気に入りのキャラクターです。
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ヒーローの成長過程に合わせたカッコよさを表現