アニメ「pet」特集 山本幸治プロデューサー×TK from 凛として時雨×眩暈SIREN│とがったものを作り続けるクリエイターたちの共鳴

アニメ業界はとにかく激動

──7年前にTKさんと山本さんが対談をされたときは、山本さんは「売れる要素は内包しつつもほかとは似ないように」、TKさんは「カッコいいものを作っていれば届くはず」というようなことをおっしゃっていて。あれから7年が経ち、特に山本さんは独立されて環境も変わったと思うのですが、ここからはおふたりがどんなことを大切にして作品と向き合われてきたのかをお聞きしたいなと。

山本 当時はいろんなものを勝手に背負い込んでしまっていたので、それらを降ろしてみた今となっては……変な意味じゃなくだいぶ忘れてしまっていて。自分で絵を描くわけでもないですから、僕のやっていることはあまり変わっていないですし、とがったものをやろうというクリエイティブへの姿勢もそうですね。ただ戦う相手は変わりました。昔のアニメは放送局でかかってなんぼでしたけど、今はネットの時代になったので、種みたいなものでも一定の花を開くところまで持っていけるようになっていると思います。そういう意味では、フジテレビ時代はいろんな縛りがあったので、その戦いにだいぶ力を削がれていたんですけど、そこからは解放されました。ただせいせいしたというより、どうでもよくなったと言えるくらい時代が変わった感じはします。

──この7年の変化をどのように感じていますか?

アニメ「pet」より。

山本 アニメ業界は相当変わったと思いますよ。これまでにも何度かバブルはあったんですけど、アニメ業界はある意味今もバブルが続いている状態なんです。日本経済と一緒で、足元はわからないけど株価は上がっていますから。そういうときはいいことも悪いこともあるんですけど、アニメ業界はとにかく激動だと思います。僕個人の状況がどうこうでなく、世の中全体が変わった。アニメをテレビじゃなく、Amazonプライム・ビデオやNetflixで観ている人が増えたのは明確ですよね。音楽もCDを売る時代ではなくなって、今はSpotifyとかで聴いてる人が多いんですか?

TK 多いんじゃないですかね。まだ日本はCDが売れてると思いますけど、それもどこまで続くか。

山本 接触の仕方が変わった。そこが劇的に違うなと思っていて。とはいえ、まだまだ深夜アニメは多いし、それはこれからもきっと続くと思うんです。なぜかというと、「無料である」という保証がされているのは地上波の放送だけで、ほかはまだまだ有料への誘導がありますから。でも単価が安くなれば、習慣的にAmazonプライムに入る人とかが増えてくる。音楽もCDを買う習慣がない世代は全然感覚が違うと思うし、アーティストも変わっていくんだろうなって。

アニメ「pet」より。

TK いろんな音楽が手に取りやすくなって、自分に合った音楽を薦められるようになって。その中で、自分が何を好きでその楽曲を聴いているのかとか、誰の何を聴いているのかっていう意識が、どんどん希薄になっていくのかなっていうのはすごくありますね。僕はSpotifyでは歌のないピアノの音楽ばかり聴いているんですが、プレイリストで音楽を流していて「すごくいいな」と思った曲でも、それが誰の曲かは知らないものもあるんですよね。それを新しい出会いだと思えばいい面もあるんですけど、例えばそうやって僕の曲と出会ってくれた人が、「これはTKという人がやっていて、凛として時雨というバンドがあって、来週Zeppでライブやるらしい」というところまで来るのかな?とは思っていて。じゃあ、楽曲だけ聴いた人をそこまで引っ張るにはどうしたらいいかとか、そういう時代に突入するのかなと。

山本 なるほど。

TK なんでも手に取れる便利さと出会いの多さが、ある種の匿名性につながっていたりするんじゃないかっていうことは最近よく考えていて。そういう部分はこの7年でかなり変わってきたと思います。反面教師として、自分自身も誰の曲だか知らないまま聴いている。そこに音楽としての情熱というのが、昔CDを買っていた頃と同じものを持っているのか?と自分に問いただしている部分もありますね。

クリエイティブとビジネスの拮抗こそがよいものを生む

──2019年にメジャーデビューを果たした眩暈SIRENのおふたりは、音楽業界の現状をどう感じていますか?

ウル 僕はCDだとか配信だとかということに関してはどっちでもよく、聴きたい音楽がすぐ聴けたり、気になる音楽があればすぐ調べて試聴したりできるのはとてもいい時代だと思います。ただ、メジャーデビューするタイミングで、タイアップのために曲を作ってはそれがボツになってということが何度かあったんです。それが悲しいとかつらいとか言いたいのではなく(笑)、でも「いい音楽と売れる音楽ってなんなんだろう?」っていうことを考えて悩んだりはしたんですよ。ちょうどその時期にTKさんとお仕事をさせていただいたので、思い切ってTKさんにそれを聞いてみたら、「タイアップがあろうがなかろうが、カッコいい音楽が売れると思ってる」とお返事をくださって。それはそうだなって納得したんです。なので、まずは眩暈SIRENとしてできるベストな音楽を作れたらいいのかなと。

京寺 私はもともとバンドをやりたくてバンドを始めただけなので、今も音楽をやれていて幸せです。これが続けばいいなって思うので、そのためにやることがあるなら全力でやりますっていう、それだけですね。

アニメ「pet」より。

──TKさんと山本さんから、これからの眩暈SIRENに何かアドバイスをするとしたら?

TK 僕がアドバイス受けたいくらいですけど(笑)。まあ、僕はとにかく自分がカッコいいと思うものを作れてて、それが人に伝わるのが一番いいなとずっと思っています。だからこそ、カッコいいものを作る自信はあるとして、「じゃあ、それをどう人に伝えるのか?」っていうところまで考えなきゃいけない時代になってきたなというのはありますね。

山本 僕はあくまでビジネスをやっている意識が強いというか、そうでなきゃいけない立場です。ただ、ビジネスのためにクリエイティブが抑えられてうまくいくことってないんですよ。なので、クリエイティブとビジネスの拮抗こそがよいものを生んでいくというのは信じています。アーティストの世界観と映像の世界観を一緒に伸ばしていくみたいなことが美味しい時代だとも思っているので、お二方とはぜひまたご一緒できればと思っております。

話が噛み合ってくると面白さが倍増します

──最後に、アニメの前半をいち早くご覧になったという皆さんに、本作の見どころを教えていただけたらと思うのですが。

アニメ「pet」より。

TK 「アニメにできるのかな」と心配に思っていたくらいだったんですが、1巻を読んだときと同じ感情が、アニメを観ていても湧いてきたので、原作の世界観がきちんと再現されているんだと思います。アニメになったことでカラフルになり、音も付いて、わかりやすくなってはいるんですけど、そのお陰でより狂気を感じられるし、より深くその世界に入っていける。そして難解さも失われていないので、マンガを読まずにいきなりアニメを観てもしっかり入り込めると思います。

ウル 原作を知らない人が1話だけ観たら、「……ん?」ってなるかもしれません。でも1話の最後にはいい意味での疑問が残りますし、「どういうこと?」と次を観たくなると思います。話が噛み合ってくると面白さが倍増する、スロースタータータイプの作品なので、その辺りも含めて楽しんでもらえたら。

京寺 SFとかサスペンスとか好きな人には、ぜひ観てもらいたいですね。マンガだと、特に古い作品は「絵柄が合わないから」って敬遠しちゃう人もいると思うんですけど、アニメだとそういう部分もある程度は払拭されますし。

アニメ「pet」より。

ウル 絵柄も、原作からすごく変わってる感じじゃないよね。

京寺 でもヒロキ、ちょっとイケメンになってない?(笑)

ウル そうかも(笑)。原作の絵の風味はしっかりありつつ、現代のアニメファンにもとっつきやすいキャラクターデザインだと思います。

山本 ありがとうございます。悟がイケメンになってたら、みんな反発したと思うんですけどね(笑)。

TK 幼少期の悟が、そのままのイメージだったのでうれしかったです。物語の後半、原作でいうと5巻なんかの展開がどう表現されるのかは、すごく楽しみにしていて。ちゃんと最後までやるんですよね?

山本 まだ絶賛色塗り中ですけど、尺としては最後までやります。

京寺 先に観ちゃうのズルいなって自分で思ったので、そこはオンエアでみんなと一緒にリアルタイムで楽しみます!


2020年1月7日更新