月刊コミックビームで付録の手ぬぐい用に描いたイラストです。
今回、ビームの創刊二十五周年もあるということで、私の絵柄でいろいろとTシャツやグッズができます(参考:ビーム×RE:SHAZAM、コラボ企画のお知らせ)。
実は、Tシャツを作ってもらうのはありがたいんですよ。人にプレゼントするのに、そういうグッズは良いんでね。本はあまり喜ばれない。もう持っているからでしょうが(笑)。
美しい楽園がやがて地獄に変わり果てたように、奈落の底のような環境の先に人は天国を見出すのか。“地獄”を描き続けた丸尾が、40年目に送り出す新作のタイトルからは、ふとそんなことを考えさせられる。「天國 パライゾ」には5つの短編が収められているが、描かれているのはいずれも戦中や戦後、劣悪な環境下で生きる人々の姿だ。そしてそれは、「トミノの地獄」の終盤で描かれたテーマでもあった。画業40周年を迎えた現在、丸尾末広の興味は、“戦争と祈り”にある。
ここでは「天國 パライゾ」収録の作品と、近年の主な作品発表の場となっている月刊コミックビーム(KADOKAWA)関連グッズの元イラストを紹介し、40年を巡る旅の終わりとする。言うまでもなく、見てきた40枚のイラストは丸尾の画業のほんの一部。これらの作品を入り口に、40年にわたる丸尾末広の世界と、そして50周年に向け彼がこれから描き出す新たな地平を、ぜひ深く楽しんでもらいたい。
「瓶詰の地獄」発売記念手ぬぐい用イラスト
(月刊コミックビーム2012年8月号付録)
「天國 パライゾ」イラスト
(「天國 パライゾ」カバー)
ひとつの物語を描くことが、次の作品のヒントになるということがあるのでしょうか。『トミノの地獄』では、長崎が舞台になり神父が出てきます。
それが、次の作品である最新刊『天國 パライゾ』に繋がっている。
この連作集の始めに描いた作品は「オランダさん」なんですが、描きながら、「ああ、また自分は故郷の長崎を舞台にした漫画を描いているな」と思っていました。
「オランダさん」扉絵
(「天國 パライゾ」収録)
「オランダさん」は、講談社のモーニングに初めて描いた漫画です。これまでと比べると、より一般的というか、多くの読者が読む雑誌でしたから、かなり意識的に「ヒューマニズム」をやりました。
小崎登明さんという、もう九十歳を過ぎている長崎のカトリック修道士だったかたがいらっしゃるんですが、「オランダさん」が掲載されたモーニングを誰かがお見せしたそうです。どんな感想を持たれたでしょうか。小崎さんが館長を務められていた聖コルベ記念館は、ぜひ執筆中に訪れたかったんですが、新型コロナ禍もあって、長崎に行くことはかないませんでした。
「童貞マリア」
(「天國 パライゾ」収録)
「ディアボリク」
(「天國 パライゾ」収録)
ずっとアウシュヴィッツは描きたかったんですよ。マキシミリアノ・コルベ神父についてもいろいろ調べていて、それが長崎の物語と結びついた。
ゼノ修道士も実在した人ですが、彼が貧民救済活動をしていた「アリの町」と呼ばれていた場所は、浅草の花川戸です。『蟻の街のマリア』として映画化されていますね。実はここは、私が以前住んでいたところなんです。そういう縁も感じながら、物語を描いていました。
とにかく『天國 パライゾ』がやっと本にできて、ホッとしました。
これは、丸尾末広の新境地だ、と編集部が単行本の文字で書いていますが、私はいつだって新境地をやりたいんです。常に新しいものをやりたい。
終わりに
最新作となる『天國 パライゾ』は連作短篇集なので、次は、また長篇にするつもりです。もう描き始めているんですが、こちらもまた新境地といえるでしょう。
描きたいネタは結構あるんですよ。かなり溜めてある。でも、どこまでできるかわかりませんよね。七十歳まではマンガを描き続けたいし、なんとか描こうと思っています。
そのためには、新刊である『天國 パライゾ』をぜひ読んでいただきたい。
今という時代に、丸尾末広の健在を示さないといけませんから。
2020年初冬 丸尾末広談