次に夢野久作の漫画化をやろうと思って、『瓶詰の地獄』を選んだのは、世間の夢野についてのイメージに逆らいたかったからです。
夢野って、もっと派手というか、狂気みたいな印象があるでしょう? でも、ちゃんとこういう技巧的に優れたものが書けるというのを証明した短篇が『瓶詰の地獄』だと思うんですよ。文体と構成できっちりと作られた小説で、夢野久作の中でもよくできたものでしょう。
2012年には作品集「瓶詰の地獄」を上梓。表題作は夢野久作の代表作を“完全マンガ化”した作品で、無人島に漂着した兄妹がやがて欲望に苛まれていく姿を、シュルレアリスム的なだまし絵の技法も交えて描いている。同書に収められた短編「かわいそうな姉」は、チャップリンの映画「キッド」を意識したというオリジナル作品。単行本のカバーイラストも、同映画にオマージュを捧げたものにされた。
2014年2月に月刊コミックビームで幕を開けた「トミノの地獄」は、西條八十の詩に着想を得ながら、最大の長編作として構想されたオリジナル長編。同作はその後およそ5年にわたり連載され、目論み通りキャリア最長作品となったばかりか、双生児や奇形の子供、昭和初期の浅草、見世物小屋、幻視など、丸尾末広のエッセンスがふんだんにちりばめられた集大成的作品となった。
「瓶詰の地獄」イラスト
(「瓶詰の地獄」収録)
「かわいそうな姉」イラスト
(「瓶詰の地獄」カバー)
単行本『瓶詰の地獄』用のカバーイラストですが、この絵自体は収録作の「かわいそうな姉」です。
やっぱり『瓶詰』をカバーにすれば良かったかな。暗い感じになっちゃったかも(笑)。
「かわいそうな姉」は、もちろん渡辺温の小説「可哀相な姉」をモチーフにしています。
「トミノの地獄」イラスト
(「トミノの地獄」1巻カバー)
「トミノの地獄」イラスト
(「トミノの地獄」2巻カバー)
『トミノの地獄』は、私のキャリアにおいて、最大の長篇になりますね。五年くらいかかりましたが、途中で投げ出さなくて良かった。
見世物小屋が設定で出てくるので、よく『少女椿』との関連性を言われるんですが、私は『トミノの地獄』で『少女椿』では描けなかったことを描きたかったんです。
「トミノの地獄」イラスト
(「トミノの地獄」3巻収録)
「トミノの地獄」イラスト
(「トミノの地獄」2巻収録)
基本的な物語は「安寿と厨子王」ですね。だから、汪というキャラクターは山椒大夫なんです。
私は、独創的なストーリーというのが好きじゃないんですよ。誰でも知っているような話を、パロディではなく、大真面目にやりたいんですね。そういう点で『トミノの地獄』は、ずっと描きたかったものをできたと思います。
「トミノの地獄」
(「トミノの地獄」1巻収録)
「トミノの地獄」
(「トミノの地獄」1巻収録)
「トミノの地獄」
(「トミノの地獄」1巻収録)
「トミノの地獄」
(「トミノの地獄」1巻収録)
連載当初は全三巻くらいと思っていたんですが、ページ数ってどうしても膨らんでしまうものなんですよ。結果的に全四巻、五年以上かかってしまった。
『鉄腕アトム』について手塚治虫は後年、「失敗作だ」って言ってますよね。『少女椿』に対する私の気持ちも同じで、要するに、いつまで経っても昔描いたものを言われたって、しようがないじゃないですか。私は今も現役で、新しい作品を描いているんだから。
その意味で、より大きな物語で描き終えることができた『トミノの地獄』が、現時点での自分の代表作だと思っています。
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Web原画展
6.丸尾末広の興味の現在地 ~「天國 パライゾ」