丸尾末広 画業40周年記念 Web原画展|ひと目で引き込まれ、のぞき込むと奥が深い。丸尾ワールドの40年を、40枚の原画で巡る

3.丸尾末広と江戸川乱歩(1) ~「パノラマ島綺譚」

2000年代に入ると、丸尾は一時沈黙を保つ。その後、2007年に満を持してスタートしたのが、江戸川乱歩原作による「パノラマ島綺譚」だった。月刊コミックビーム(当時エンターブレイン、現KADOKAWA)で連載された同作は、2009年に第13回手塚治虫文化賞で新生賞を受賞。丸尾は受賞に際して、「24歳でマンガ家になってからずっと描きたかった」「江戸川乱歩の世界を視覚化するのに自分が一番適任者であるという自負はあります」と述べている(※)。
ここでは丸尾が再び熱い注目を浴びるきっかけとなった「パノラマ島綺譚」と、キャリア初期の作品から乱歩を題材としたものを取り上げる。
※第13回手塚治虫文化賞のコメントより。

「新英名二十八衆句より」(「無惨絵 新英名二十八衆句」「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

「新英名二十八衆句より」
(「無惨絵 新英名二十八衆句」「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

子ども時代から、本当に江戸川乱歩には影響を受けています。
でも、乱歩ってポピュラー過ぎるでしょう? だから、もう少しマニアックというか、そこまでは知られていない夢野久作のイメージで、初期にはいろいろ描いたりしていました。
でも、やはり乱歩が好きなんですよね。この絵は花輪和一さんと共作した「無惨絵」の一枚。

映画「D坂の殺人事件」宣伝用イラスト(「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

映画「D坂の殺人事件」宣伝用イラスト
(「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

実相寺昭雄さんの映画『D坂の殺人事件』用に描いたものです。自分としても、とても好きな絵ですよね。
この仕事は嬉しかった記憶があります。ウルトラマンのシリーズも乱歩も、子ども時代から本当に好きでしたから。
後に、新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』カバーにも使われました(編集者注:現在流通している版は別ヴィジュアル)。それも嬉しかったですね。自分の絵が乱歩の本のカバーになったんだから。

「パノラマ島綺譚」掲載誌カバー用イラスト(「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

「パノラマ島綺譚」掲載誌カバー用イラスト
(「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

「パノラマ島綺譚」巻頭カラー用イラスト(「パノラマ島綺譚」「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

「パノラマ島綺譚」巻頭カラー用イラスト
(「パノラマ島綺譚」「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

乱歩原作の『パノラマ島綺譚』は、三年以上かかって描いた作品です。
前作の『笑う吸血鬼』から間が空いたので、「丸尾は行方不明になった」とか言われたようですが、イラスト仕事はしていましたし、とにかく、ずっと『パノラマ島』を描いていたんですよ。

「パノラマ島綺譚」(「パノラマ島綺譚」収録)

「パノラマ島綺譚」
(「パノラマ島綺譚」収録)

乱歩を漫画化するなら、とにかく映画ではできないだろうと思える作品をしたかったんです。例えば『陰獣』は映画されているじゃないですか。でも『パノラマ島』は、本当にあの世界を映画化するには、お金がかかりすぎて、ハリウッドならともかく、日本では無理でしょう? とにかく、私は映画がライバルだとずっと思っているんです。映画ではできないことを、漫画でやりたい。

「パノラマ島綺譚」(「パノラマ島綺譚」収録)

「パノラマ島綺譚」
(「パノラマ島綺譚」収録)

「パノラマ島綺譚」(「パノラマ島綺譚」収録)

「パノラマ島綺譚」
(「パノラマ島綺譚」収録)

この作品は手塚治虫文化賞をいただきました。ここから、「丸尾末広、復活」みたいな感じになったので、そういう意味でも思い出深いです。唯一の心残りは、実相寺監督に読んでもらえなかったことですね。それだけが残念でした。

未使用原画下描き(「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

未使用原画下描き
(「乱歩パノラマ 丸尾末広画集」収録)

これは、『パノラマ島綺譚』用に描いていた下描きなんですが、ペン入れせずにボツにしたものです。なんかちょっと良くないな…と思ってやめました。「これだけ下描きをしているのにもったいない」と編集者に言われるんですが、良くないと思っちゃったんだから、しかたない(笑)。そういうのは、今でも結構あるんですよ。描き上げなかった下絵がかなりあります。