イタリア発のロックバンド・マネスキンと「BEASTARS」板垣巴留との異色のコラボが実現! その全貌を徹底解剖

異色のコラボが誕生した。それはイタリア発の新進気鋭のロックバンド・マネスキンを、「BEASTARS」の板垣巴留が描き下ろすというもの。完成したコラボイラストには、「BEASTARS」の世界観に溶け込んだマネスキンのメンバーと「BEASTARS」のキャラクターたちが描かれている。なぜマネスキンと「BEASTARS」のコラボが実現したのか。コミックナタリーではその経緯に迫るべく、マネスキンのメンバー・ダミアーノ(Vo)のリモートインタビューと板垣への単独インタビューを決行。板垣にはコラボについてはもちろん、「BEASTARS」での思い出のエピソードなどを語ってもらった。

取材・文 / カニミソ撮影 / 石橋雅人(板垣巴留インタビュー)

Måneskin×BEASTARSについて

What is Måneskin~マネスキンとは~

マネスキンはダミアーノ・デイヴィッド(Vo)、ヴィクトリア・デ・アンジェリス(B)、トーマス・ラッジ(G)、イーサン・トルキオ(Dr)からなるイタリアはローマ出身のZ世代4人組バンド。バンド名はデンマーク語で「月光」を意味する。メンバーは小学校からの幼なじみで、高校生となった2015年から音楽活動を開始。2018年に初のスタジオアルバム「Il ballo della vita(イル・バッロ・デッラ・ヴィータ)」、2021年3月に代表曲「Zitti E Buoni(ジッティ・エ・ブオーニ)」「I Wanna Be Your Slave」を収録した2ndアルバム「Teatro d'ira Vol.I (テアトロ・ディーラ Vol.I)」を発表。ヨーロッパ最大の音楽の祭典「ユーロビジョン・ソング・コンテスト2021」で「Zitti E Buoni」を披露し、イタリアのアーティストとして31年ぶりに優勝を飾る。フォー・シーズンズのカバー曲「Beggin'」は、ストリーミングサイト・Spotifyのグローバルトップ50のチャートで堂々の1位を獲得。全世界で10億回を超える再生回数を記録している。

左からヴィクトリア・デ・アンジェリス(B)、トーマス・ラッジ(G)、ダミアーノ・デイヴィッド(Vo)、イーサン・トルキオ(Dr)。©Francis_Delacroix_

左からヴィクトリア・デ・アンジェリス(B)、トーマス・ラッジ(G)、ダミアーノ・デイヴィッド(Vo)、イーサン・トルキオ(Dr)。©Francis_Delacroix_

2021年10月13日に「Teatro d'ira Vol.I」の日本盤CDを発売。同時期に初となる全米プロモーションツアーを行い、ローリング・ストーンズのラスベガス公演のオープニングアクトに抜擢される。その後ヨーロッパ最大級の音楽授賞式「2021 MTV EMA」に出演し、最優秀ロック賞を受賞。また2021年にアメリカ最大の音楽祭の1つである「アメリカン・ミュージック・アワード」、2022年4月に世界最大のフェスの1つ「コーチェラフェスティバル」に初出演を果たす。2022年5月にシングル「SUPERMODEL」をリリース。「ビルボード・ミュージック・アワード2022」では、「ロック・ソング」と「ロック・アーティスト」の最優秀賞にダブルノミネートされる。2022年8月に音楽フェスティバル「SUMMER SONIC 2022」に出演するため初来日。それに先がけ、東京・チームスマイル 豊洲PITで初単独公演が開催された。同公演のチケットは即日ソールドアウト。単独公演および「SUMMER SONIC 2022」のステージでは、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了し、SNSでも注目を集めた。さらに日本テレビ系列の朝の情報番組「スッキリ」、日本テレビ系の音楽番組「バズリズム02」にも登場。彼らは「SUPERMODEL」を披露し、話題を振りまいた。10月7日には待望の新曲「THE LONELIEST」がリリースされる。

Why Måneskin×BEASTARS?~なぜマネスキンとビースターズがコラボ?~

「BEASTARS」は肉食動物と草食動物が共生する世界を描いた“動物版ヒューマンドラマ”。2016年から2020年まで週刊少年チャンピオン(秋田書店)で連載され、2018年には第11回マンガ大賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞など数々の賞を受賞した人気作だ。2019年にTVアニメ化。2期まで制作され、その最終章となる「BEASTARS FINAL SEASON」が、2024年にNetflixにて配信されることが決定している。そんな「BEASTARS」とイタリア発の新進気鋭のロックバンド・マネスキンは、どのようにして出会ったのだろうか。すべてはメンバーのダミアーノ(Vo)が、日本のアニメに関心を持つようになったことから始まる。

「パンデミック中にイタリアで『進撃の巨人』がすごく話題になったことがあって。アクションフィギュアやマンガが好きな友達といろいろ話していたときに、オススメされて観てみたんだ。アニメーションのクオリティや技術はもちろんなんだけど、その何層にも重なる物語の構造と複雑な構成力に驚いたよ。回想シーンや時間軸が交錯して、いろんなものにちゃんと意識を配っていないと展開についていけなくなってしまう。ひょっとしたら、実写映画よりもすごいんじゃないかって。日本のアニメには限界がない……どんなものでも説得力のあるビジュアルを作れるんじゃないかと思ったし、すごく人間味のある物語が立ち上がってくる。『進撃の巨人』をきっかけに、Netflixなどの配信サービスを通してアニメを観るようになって、1年間くらいひたすらアニメばかり観続けていた時期があって。『BEASTARS』とはそのときに、配信サービス内のレコメンドで挙がってきたのがきっかけで出会ったんだ」

ダミアーノ(Vo)

ダミアーノ(Vo)

アニメ「BEASTARS」のビジュアルに目が留まり、興味をかきたてられて観始めたというダミアーノ。物語を追っていくうちに深い感銘を受け、大好きな作品の1つになったという。彼は「BEASTARS」のどんなところに惹かれたのだろう。

「キャラクターは動物なんだけど、人間以上に人間くさく描かれていて、そのキャラクターたちが織り成す世界観を思いついたのが本当にすごいと思うし、見ていると彼らが動物として描かれていることを忘れてしまうくらい、人として共感することがたくさんあるんだ。今まで見てきた作品の中で、たぶん一番深い意味が込められている物語だと思う。それに感情の深み……というようなものも、かなり捉えて表現されている。特にハイイロオオカミ・レゴシとドワーフウサギ・ハルの恋愛がすごく複雑に描かれていて、肉食獣と草食獣という関係性はわかるけど、でも応援したくなる、なかなかうまくいかないけど、どうにか結ばれてほしいと思うような気持ちで、ハラハラしながら観ているんだ」

彼が人として共感した部分は、レゴシとルイとの関係性にも及ぶ。

「彼らの間には愛憎両方の感情があって、でもお互いのことを見守っている。それを表には見せないんだけど、でもなんとなく支えあっているというか。そういうところがすごいと思うんだ。高校生くらいのときって、そういう関係性がけっこうあったと思うんだよね。学校にいると、周囲にイケてると思われたいんだけど、自分よりイケてる人なんて絶対いて、なんというかうらやましさとか憧れとかがないまぜの、ちょっと絆が生まれるような。うまく言えないんだけど、そういう関係性に共感ができた気がするんだ」

さらに好きなキャラクターについて聞いてみると、アカシカのルイという答えが返ってきた。ダミアーノもルイのように周囲のプレッシャーに悩んでいた時期があり、自分と重なる部分を感じたようだ。

「ルイが好きな理由は、彼が誤解されているキャラクターだからなんだ。彼はカッコいい存在だけど、本人はそういう存在でいたいわけじゃないというか、自分がカッコいいと思われていることにあまり興味がないハズなんだ。人気者になると、周囲からの期待とかそういうものが集まって、プレッシャーになってくる。僕も高校生のときに、そういうのに悩んだ時期があったというか。今はもう少し人間的にも成長して、他人から注目されるってことに対してある程度慣れ……いや、自分の中の覚悟みたいなものができたと思う」

ダミアーノ(Vo)

ダミアーノ(Vo)

こうしたダミアーノの熱い思いを背景に、マネスキンの初来日を記念して何かメンバーと日本のファンの思い出に残るような企画ができないかと考えたソニーミュージックのスタッフから、板垣に打診したのがきっかけとなり、マネスキンのメンバーを「BEASTARS」の世界観に落とし込んでイラスト化するという、稀有なコラボに至った。なお東京・チームスマイル 豊洲PITで行われた日本での初単独公演では、メンバーと板垣の対面も実現。その模様はYouTubeにて公開中だ。

板垣巴留インタビュー

ロックバンドに対する考え方が変わった

──今回、マネスキンと「BEASTARS」とのコラボイラストのお話をいただいたときはどう思われましたか?

音楽関係の方との仕事が意外に多かったりするんですけど、ロックバンドとは今回が初めてで。自分の作風とロックバンドって相反するように感じていたんですけど、だからこそ面白いのかなって、すごく興味がわきました。

板垣巴留

板垣巴留

──いろんな音楽を聴いているイメージがあったので、ロックバンドとのコラボが初っていうのが意外でした。初単独公演が行われた豊洲PITの会場で、メンバーとお会いしたときの印象は。

古いイメージで申し訳ないんですが、ロックバンドというだけでちょっとイカついイメージがあったので、とにかく緊張しました。海外の方とっていうのもあって、どういうふうにコミュニケーションを取ればいいのかわからないし、言葉も通じないしというヒヤヒヤ感があったんですけど、実際にお会いしたらずっとニコニコしてくれて。ヴィクトリアさんが特に気遣って、優しく声をかけてくれました。迫力はもちろんすごいんですけど、しっかりした人たちだなって。ロックバンドに対する考え方が変わったというか。これまでどんだけなじみがなかったんだって感じですけど。

──ダミアーノは板垣先生とお会いしたとき、その若さに驚いたそうです。というのも、マンガの先生って熟年の方が多いイメージがあったみたいで。

手塚治虫みたいな。お互い、一昔前を想定している(笑)。

──ライブ前にラフを広げてミーティングを行っていましたが、どんなことを話されたんですか?

私、雌鳥のマスクをかぶっているじゃないですか。最初に「どこから見えんの?」「暑くない?」って聞かれて(笑)。

──さっそく、異種族交流が(笑)。

ファーストコンタクトはそんな感じでしたね。それからダミアーノさんが、ヴィクトリアさん、トーマスさん、イーサンさんに「このオオカミとこのウサギが……」って、あらすじを説明してくれて、私もそのあらすじを一緒に聞いたり、私のほうからラフについて「縦と横、どっちの構図がいいですか?」「この段階で、こうしてほしいというリクエストはありますか?」と確認したりしました。みんな、構図は横がいいって意見が一致して。そのまま進めてくれていいよと言ってくれて。

ミーティングの様子。

ミーティングの様子。

──イラストについてもお聞きしたいのですが、ラフに描かれていたダミアーノとルイ、ヴィクトリアとハル、トーマスとジュノ、イーサンとレゴシという組み合わせは、バンドサイドからの希望だったと伺いました。先生的にこの組み合わせはどうですか?

いいかもって思いました。ラフを描くときに、けっこうな数のメンバーの画像をネットで検索したんです。いただいたマネスキンの資料のほかにもいろいろ調べて、YouTubeでも彼らのミュージックビデオをたくさん観て、なんとなくですけど、メンバーのキャラクター性みたいなものは掴めていたので、トーマスさんがジュノと一緒っていうのは彼っぽいなって感じましたし、イメージ通りだなって。

コラボイラストのラフは、iPadで描かれた。

コラボイラストのラフは、iPadで描かれた。

──個人的にはヴィクトリアとイナリ組のボス・テンの組み合わせもありかもと思いました。メスギツネは欲望むき出しな男たちの目にさらされている、そのイメージを変えたい、自分らしくありたいっていうマインドが似ているなって。

あー! 確かに。

──完成したイラストではどんなところにこだわりましたか?

ヒト科も動物もカリスマ性は目に表れるので、そこに魂込めました! マネスキンさんたちの音楽でレゴシの野生が目覚めてしまいそうなので心配です。

完成したコラボイラスト。

完成したコラボイラスト。

「SUPERMODEL」は初期のレゴシの感じに近い

──「マネスキンの楽曲の中で『BEASTARS』のイメージソングを選ぶとしたら、どの曲になりますか」という質問をダミアーノに投げかけたところ、「Le parole lontane(レ・パローレ・ロンターネ)」(※)を挙げていました。理由としては「自分ともう1人の相手との間の関係性の距離というか、好きなのに遠くなってしまうっていう内容で、なんとなくレゴシとハルの関係に近いような気がしたから」とのことです。

(日本語訳の歌詞を見ながら)いいですね。

※マネスキンの1stフルアルバム「Il ballo della vita(イル・バッロ・デッラ・ヴィータ)」に収録されたバラード。近年のライブではアンコールで披露されることもある人気の高い楽曲で、“お前が遠くに感じるから 俺から遠くに”というフレーズが作品の感情と重なったようだ。

──板垣先生がマネスキンの楽曲を聴いたり、ライブを観たりしたときに、「BEASTARS」の世界観に近いと思った楽曲がありましたら、お聞きしたいです。

「SUPERMODEL」ですね。なんだろう。「BEASTARS」初期のハルに対するレゴシの気持ち……なんかもう彼女は手に負えないみたいな(笑)。ハルの生き方もロックじゃないですか。そういう奔放な生き方をしている女性に振り回されて、思わず「はあーっ」ってため息をついてしまうような男性目線からの歌詞が、初期のレゴシの感じに近いなあって思っていて。私は浜田省吾が好きなんですが、ハマショーも男性が一人称で女性の自由さを歌っている曲ばっかりで(笑)。解釈が違うかもしれないですけど、「SUPERMODEL」はそういうふうに聴こえて好きなんですよね。そういう男性こそ、男っぽくていいなって思うんですけど。

──そういういいなって部分が、レゴシにも反映されたのでしょうか。

そうですね、そうかもしれない。

──ダミアーノと「BEASTARS」との出会いは、パンデミック中に観たアニメ版がきっかけだったそうです。「BEASTARS」は海外からの評価も非常に高い作品ですが、そういった海外での反響をどう受け止めていますか?

動物というのもあって、あちらではおそらく受け入れやすい物語だったのかなと思いつつ、私も海外作品からけっこう要素をいただいて生きてきたので、不思議だし、すごくうれしいです。

──海外作品に影響を受けてきたと。

そうですね、フランスのバンドデシネとか。高校生くらいからフランスのマンガ家のニコラ・ド・クレシーさんという方がすごく好きでしたし、今見ると「BEASTARS」の初期、1巻あたりなんてもう、もろにバンドデシネの雰囲気で描いているなって思います。

板垣巴留

板垣巴留

──フランスといえば、板垣先生は2019年に開催された、アングレーム国際漫画祭に招待されていましたね。

海外旅行が好きなので、仕事で行けるの最高だなって思いながら楽しみました(笑)。その年、スペインにも招待していただいたんですけど、行った後に外国の方に接触することの楽しさ、みたいなものを描きたくなって。そこで世界を海に広げて、海洋生物のキャラクターを「BEASTARS」に登場させることにしたんです。サグワンっていう太ったゴマアザラシがいるんですけど、彼は海洋生物を日本人から見た外国人みたいに扱おうと思って描いたキャラクターです。