マンガ家・イラストレーター・アニメーターが、お気に入りの1曲をセレクトし、1枚のイラストに描き出す様子を動画で届けるYouTubeチャンネル「EGAKU -draw the song-」。同チャンネル初の展覧会「『EGAKU -draw the song-』展」が11月18日から26日まで東京・新宿マルイ本館8階で開催される。
コミックナタリーは「『EGAKU -draw the song-』展」の開催に合わせ、過去に「EGAKU -draw the song-」にも出演し、展覧会のキービジュアルを執筆した白浜鴎にインタビューを実施。「EGAKU」に参加した際の裏話や、展覧会用キービジュアルを執筆するうえでのこだわり、白浜にとっての音楽とイラスト・マンガの関係性や、イラスト・マンガを描く人への思いを語ってもらった。なお「EGAKU -draw the song-」プロデューサーの田坂健太氏に、「EGAKU」立ち上げの経緯や展覧会の見どころについて聞いたメールインタビューも掲載しているので、こちらも合わせて確認してほしい。
マンガ家・イラストレーター・アニメーターなど“絵のプロフェッショナル”たちが、お気に入りの1曲をセレクトし、1枚のイラストに描き出す様子を、その楽曲とともにお届けするYouTubeチャンネル。2023年10月にチャンネル開設2周年を迎え、11月18日から26日まで東京・新宿マルイ本館8階で初の展覧会となる「『EGAKU -draw the song-』展」が開催される。
展覧会ではこれまで動画のために描き下ろされたイラストの原画やアートプリントを展示。さらに動画内で未公開のラフスケッチ、作家陣が「EGAKU展」に寄せた色紙などの展示に加え、オリジナルグッズの販売も行われる。
「『EGAKU -draw the song-』展」参加作家
相原実貴、山崎かのり、白浜鴎、高橋沙妃、石川雅之、しまざきジョゼ、鹿子、たらちねジョン、凪、げみ、山口つばさ、雪下まゆ、板垣巴留、吉河美希、はらだ、ためこう、北川みゆき、久米田康治、依田瑞稀、黒ねこ意匠、江川あきら、おかざき真里、ときわた、多田由美、松浦健人、萩原ダイスケ、ヨコイジュウ、ひうらさとる、けろりら
EGAKU -draw the song- | YouTube
EGAKU -draw the song- (@EGAKU_official) | X
EGAKU -draw the song- (@egaku_official) | Instagram
取材・文 / ナカニシキュウ
いちファンとしてすごく喜んじゃいました
──「EGAKU -draw the song-」は、マンガ家さんやイラストレーターさんが好きな楽曲をもとに1枚の絵を描き上げていく様子を収めた動画コンテンツです。これまでに27本(※インタビュー実施時点)の動画が公開されていて、個人的にも楽しく観させてもらっていますが、すごくいい企画ですよね。
とても面白い試みだと思います。これまでにも作家さんが個人でメイキング動画を発信するようなことは多々ありましたけど、アナログで描かれている先生とかが主にやられているイメージだったので、私は特にデジタルで描く方の画面外の手元を見られるのがすごく新鮮でした。
──確かにそうですね。しかもアナログとデジタルを使い分けている作家さんの場合は「どこまでアナログでどこからデジタルなのか」の線引きも人によって全然違っていて、そのあたりも非常に興味深かったです。
そうそう。あとは、お部屋のインテリアとかがチラッと見られるのも楽しかった! その作家さんの“生活してる感”が垣間見えるのはやっぱりうれしいですよね。いちファンとしてすごく喜んじゃいました。
──白浜先生ご自身も、約2年前にこの企画に参加されています。当時のことをちょっと思い出していただきたいんですが……。
はい。
──先生はmiletさんの「Grab the Air」を題材に描かれていました。この曲を選んだ理由は?
もともとmiletさんの曲がすごく好きでいろいろ聴いていたんですが、その中でもアニメなどのタイアップが付いていないものを選ぼうと。アニメ主題歌とかになると、どうしてもその作品の印象が自分の中でも強くなっちゃうので、そういったイメージがあまり付いていない曲として「Grab the Air」を選ばせていただきました。
──なるほど。他作品のイメージが付いていないものの中で、ご自身の好きな楽曲を選ばれたと。
そうですね。まあ、全曲好きなんですけど。
──(笑)。
どの曲でも喜んで描ける(笑)。あと、「Grab the Air」はミュージックビデオの中にカモメが飛んでいるシーンがあったので、そこにちょっと親近感もあったりして。
──鴎つながりで(笑)。ちなみに、miletさん以外だとどんなアーティストがお好きですか?
最近だとYOASOBIとか、amazarashi、King Gnu、Eve、米津玄師、ヨルシカ、FantasticYouth……あとは女王蜂も好きですね。アヴちゃんがカッコよくて、よく聴いています。
──なるほど。けっこうカルチャー寄りのアーティストが多い?
そうですね。アニメ寄り、ポップカルチャー寄り……アニメソングは昔から好きで、学生時代は通学中に聴いていたり、ラジオを録音したりしてプレイリスト作ったりしてました(笑)。あとはゲームや映画のサウンドトラック、ミュージカルソングもめちゃめちゃ好きなのでそういうものも聴きますし、ヒットチャートのランキングや今流行ってる曲なんかをひたすらラジオみたいに流しっぱなしにしていることも多いです。けっこう選ばずにいろいろ聴いていますね。
音楽のイメージを絵にすることは日常的なもの
──実際に「Grab the Air」のイメージを絵にしていくにあたっては、どういうところから考えていったんでしょうか。
私はそういう、音楽を聴いてイラストのイメージを作るみたいなことは普段からけっこうやっているんですよ。例えば、緊迫した状況のマンガを描くときは深刻なムードのゲーム音楽を選んで流したりとか。聴いた音のイメージを絵に昇華することは私にとって割と日常的なものなので、特別意識してやっていることでもないんですよね。
──でも、「描きたいシーンのために音楽の力を借りる」と「音楽のイメージを絵として具現化する」では、思考の道筋としては順序が逆なのかなという気もしますが……。
なるほど、確かにそうですね。でも私の場合、「どっちが先」という感覚はあまりなくて。音楽から受けるイメージと絵を描くときのイメージとが、自分の中であまり切り離されていない。「ニワトリが先かタマゴが先か」みたいな話なんですけど、起点となるものがどちらであろうが、同じように自然に創作に入っていける部分は大いにありますね。
──ということは、モチーフの選定などに迷うこともなく?
はい、自然と「こういう感じがいいなあ」みたいになりましたね。
──枠から飛び出していく人物が描かれていますが、理屈ではなく「当然こういう絵が描かれるものだろう」くらいの感じで?
そういう感じかな。曲からはどちらかというと前向きなムードを感じたので、少なくとも“暗い顔をして1人で物思いにふけっている”みたいなイメージは一切浮かばなかったです。「これから会社だけど、もうスーツ脱いでやめちゃおっかな」とか(笑)、「今日は休みだー!」とかいうような、開放的でポジティブな感情のイメージを強く受け取ったので、こういう絵になったんだと思います。
──作画の面でこだわったポイントは?
動画で観ていただくということもあるので、ペンでハッチングを入れる部分などの“観て楽しいであろう要素”をなるべく入れるように心がけました。背景の雲とかも、あえて細かく描くように意識したりとか。
──なるほど。画作りについての回答を予想していたんですが、まさか動画コンテンツとしての見せ方の話が出てくるとは(笑)。サービス精神が旺盛でいらっしゃるんですね。
いえいえ。でも逆に、動画を撮影しているということで失敗できない緊張感はありましたね。普段だったら「ちょっとうまくいかなかったな」と思ったら紙を替えて新しく描き始めたりもするんですけど、そういうことができないので。印刷物の場合は最終的に出たものさえなんとかなってればいいんですけど(笑)、見られていると思うと「描いている過程もきちんと見せなきゃ」という意識がどうしても働いてしまう。
──それはそれでライブ感がありますよね。そこでしか生まれない何かもありそうです。
そうかもしれない。音楽で言えば「レコーディングなら何回でもやり直せるけど、ステージは一発勝負」みたいな感じに近いのかもしれないですね。
──その中で、「ここはうまくできたな」と思うポイントなどはありますか?
そうだなあ……構図はけっこうキレイに決まったかなと思いますね。中央構図で、下が重くて、上に抜けていて……バランスよく描けたと思います。
──完成した絵の発表当時、miletさんから「モノクロなのに色付いて見える」というコメントが寄せられていましたね(参照:milet、白浜鴎が描いた「Grab the air」に「モノクロなのに色付いて見える、魔法のような素敵な絵」)。
とても感性の豊かな方なんだなというのが、そのひと言だけで伝わりますよね。モノクロの絵から色をイメージするというのは、つまり描かれていないものを読み取っているということで……それはまさに「音楽を聴いてイラストを描く」という、この企画の趣旨とも重なるところだなと。1つの表現を受け取って、それとは違う形の表現が浮かぶみたいなことって実際よくあることなので、そこにちょっとした親近感じゃないですけど……。
──同じ表現者同士だからわかる、通じ合う何かがある?
そうですね。それを感じられてすごくうれしかったです。
アップされている動画は全部観てほしい
──この企画に参加してみて、総じていかがでした?
楽しかったし、うれしかったですね。普段描いているものは印刷された状態でしかお届けできないので、その過程を動画という形で残せることもうれしいですし、観てくれた人が「ここはこんなふうに描いてるんだ」みたいに言ってくださることもうれしかった。
──「その過程を見られたくない」という思いはない?
見られたくない方も中にはいるかもしれないですけど、私は見てもらえることがうれしいと感じるタイプでしたね。自分でメイキングを撮ったりもするようになりましたし。
──そこには後進を育てたい気持ちもありますか? 絵を描く過程を見せることで興味を持ってもらいたい、みたいな。
それはありますね。「ここの線はどうやって描いてるのかわからなかったけど、こういうふうに描いてるのか」みたいに、完成した絵を見るだけでは学べないものが動画だとめちゃめちゃ学べますし。私もけっこう料理とかは動画を観てやったりするんですけど、それと同じような意味合いで使えるんじゃないかなと。アカデミックな資料にもなり得るコンテンツだと思います。
──今の人は特に、動画で何かを学ぶことにはすごく慣れていますしね。
特に画期的だなと思ったのは……デジタルの作画風景って、ドローイングソフトの画面だけしか見られないパターンが多かったと思うんですけど、「EGAKU」ではペンを持つ手元が見られるんですよね。そういう動画は今までほとんどなかったと思うので、すごく新鮮に感じました。
──確かにそうですね。個人的には、タブレット端末を使っている作家さんが左手でキャンバスを回転させたり拡大縮小させたりしながら描いていく光景がすごく興味深かったです。
そうそう、面白いですよね。皆さんが左手をどう使っているかとか、私も全然知らなかったので。
──これまでにアップされている動画の中で、特に印象に残っているものや読者にオススメしたいものなどはありますか?
いやもう、全部観てほしい(笑)。やっぱり作家さんによって描き方が全然違うというのが一番面白いところだと思うし、おそらく「EGAKU」さん側も意図的に違うスタイルの方を起用していらっしゃると思いますので。
──確かにおっしゃる通りですね。「この1本」という見方をしてしまうと、むしろこのコンテンツの醍醐味は味わえないというか。
「自分ではこうはならないなあ」みたいな違いを見るのが私は何より面白かったので、皆さんにもそういうふうに観ていただけたらうれしいです。
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マンガとイラストの違い