コミックナタリー Power Push - 「魔法使いの嫁」

プロデューサー・和田丈嗣(WIT STUDIO)インタビュー

アニメ化プロジェクト始動! ヤマザキコレの思いが詰まった“みんなで育てていく物語”

「ヤマザキ先生の考えてることをどんどん引き出そう」が合言葉

──OADでは本編の前日譚のようなエピソードが描かれるとのことですが。

「魔法使いの嫁」2巻より。

本編の内容は、いつかテレビアニメが決まったときに取っておきたいという気持ちがあったんです。そこでどういったアニメを作っていくか、まずはヤマザキ先生と直接お話をするために北海道まで会いに行きました。「何かやりたいことはありますか」というヒアリングから、「そもそも『魔法使いの嫁』というのは」……という発端のところまで聞かせていただいて。その中で「OADでは本編とは別のオリジナルのストーリーを描きたいと思っている」ということをお伝えしたら、「実は本編でも描いていない、チセの過去の話を1つ考えているんですけど」と教えてくださったので、「ぜひそれをやりましょう」と、お話していく中でどんどん決まっていきました。

──今回はヤマザキ先生が原案ということで、脚本の高羽彩さんとはどのようなやり取りでお話を固めていったのでしょうか。

ヤマザキ先生は情景描写をイメージしながらお話を作られる方なんです。「暗いところを1人でポツポツと歩いてるチセがいて……」といったような、先生の頭の中にあるイメージの断片をひとつずつ聞かせていただいて、それを高羽がまとめて改めてヤマザキ先生に確認を取ってもらう。またそれを戻していただいて、というキャッチボールを繰り返して進めていきました。

──先生の頭の中のイメージと齟齬がないか確認を取りながら。

「魔法使いの嫁」カット

そうですね。ヤマザキ先生の世界はとても豊かで、細かい設定とかもいっぱい考えられているんですよ。だからこちらからもガンガン聞いちゃいました。ヤマザキ先生って本当に知識と、物事の奥底にあるものへの好奇心がものすごくある方で。生きている中で、出会ったいろんなものをどんどん取り込んでいって、それがすべて「魔法使いの嫁」の世界観の土台になっていってるんだなと。お話を聞いていると、ヤマザキ先生の考えていることがとにかく面白かったので、今回のドラマCDとOADの制作に関しては「ヤマザキ先生の考えていることをどんどん引き出そうぜ」というのが現場の合言葉でした。

“魔法使いの嫁っぽさ”をどう描くか

──ヤマザキ先生からたくさんアイデアをもらって作ることができたんですね。

はい。そのアイデアやイメージをどうやって映像的に汲み上げるかというところに僕らも集中できました。一番考えたのは“魔法使いの嫁っぽさ”とはどういうことなのか。OADで描くこの前日譚はチセがイギリスに行く前の話なので、舞台は日本なんです。日本だけど、そこは妖精たちが住んでいるような世界の地続きにある場所。「魔法使いの嫁」という世界観の中で、日本をどう描くか。そこの調整が一番大変でした。

エリアスとチセの家で一緒に暮らしているルツと、銀の君ことシルキー。

──チセの過去の話ということは、エリアスたちの出番はあまりないんでしょうか?

もちろんエリアスをはじめとするお馴染みのメンバーも出てきます。やっぱりみんな見たいですし、僕らとしても描きたくなっちゃいますからね(笑)。エリアスたちも出していただけるようにこちらからもお願いしました。構成としてはイギリスでの生活の中で、とあることをきっかけに図書館で過ごしていた幼少期の思い出をチセちゃんが語り出す……といった、過去と現在がリンクする展開になる予定です。

──舞台が図書館というのも、ヤマザキ先生のアイデアで?

そうですね。その図書館がどんな場所かというのも、ヤマザキ先生の頭の中には細かく設定があって。舞台作りの参考として、実際に先生が子供の頃に利用していた図書館のラフスケッチをいただきました。その頃感じられた気持ちとかが、かわいい絵で表現されていまして。そういう感情の1つひとつを拾っているので、先生の原体験が生かされた映像になっていると思います。

「魔法使いの嫁」グランドPVより。

──本日公開されたアニメのPVでは本編の内容が描かれていましたが、これはOADに収録される映像とは別のものということですね。

はい。まずは「魔法使いの嫁」の世界観を表す映像を作ろうと思って完成したのがこのPVなんです。われわれは“グランドPV”と呼んでいます。

──劇場版のようなクオリティで驚きました。

自分たちが思う「魔法使いの嫁」を、一度バーンとぶつけてみようと思いまして。PVだし、少しくらい派手にやってみようと。「魔法使いの嫁」のいいシーンを抜粋するような形で作ってみました。

──冒頭が日本のコンクリートジャングルから始まるというのは、「魔法使いの嫁」のPVとしては意外と言いますか。

和田丈嗣

“その世界は私たちのそばに息づいている”ことを意識していたので、自分たちの生活の延長線上にあるということを表現しようと、現代の日本らしい描写からスタートさせました。「ハリーポッター」の冒頭もそうじゃないですか。

──ああ、魔法学校に入学する前の日常のシーンから始まりますもんね。

そうそう。自分たちが描いているのは、あくまでも現代から地続きのところに“あるかもしれない”世界。そこの表現はこだわりを持ってやっていますね。

目を引く“赤”

──美術を手がけるのは「鬼灯の冷徹」などのBambooです。美術や色彩の部分にもこだわりを感じました。

「魔法使いの嫁」1巻

世界観をいかに表現していくかというのは、美術監督の竹田悠介さん、色彩設計の小針裕子さん、長沼監督とキャラクターデザインの加藤寛崇さんを中心としたスタッフで何度も話し合いをしながら詰めていきました。これはほかの作品を作るときにもやっていることなんですが、出版社の方にカラー原稿を全部貸していただくんですよ。それをバーッと並べてみるんです。「魔法使いの嫁」を表現する色が一面になったところを俯瞰で見てみて、その作品が持っている色のバランスや印象を確認してみる。それでいうと、「魔法使いの嫁」は独特なんですよね、赤がすごく目立つというか。

──確かに。和田さんが表紙の絵を見て単行本を手にとったように、目を引くものがあるのかもしれません。

その独特な印象をアニメでどう落とし込んだらいいのかと試行錯誤しました。チセの持っている赤色はやっぱり難しくて。森の中を走るときの緑色とか、ドラゴンに乗って空を飛んでいるときの青色とか、ほかのものとどうバランスを取っていくかの調整が大変でした。

ヤマザキコレ「魔法使いの嫁(5)」 / 2016年3月10日発売 / マッグガーデン
ヤマザキコレ「魔法使いの嫁(5)」
ドラマCD付初回限定版 / 2000円
通常版 / 617円
ドラマCDキャスト

羽鳥チセ:種﨑敦美

エリアス:竹内良太

ルツ:内山昂輝

シルキー:遠藤綾

サイモン:森川智之

チセの母:井上喜久子

妖精:Lynn

妖精:重松千晴

妖精:河野茉莉

「魔法使いの嫁」あらすじ

羽鳥チセ15歳。

身寄りも、生きる希望も、術も、何一つ持たぬ彼女を金で買ったのは、悠久の時と寄添うヒト為らざる魔法使いだった──。

彼に「弟子」として、そして「花嫁」として招き入れられた時、少女の中で停まっていた針がゆっくりと動き始めてゆく……。

和田丈嗣(ワダジョウジ)
和田丈嗣

1978年生まれ。Production I.Gに入社後、「RD 潜脳調査」「ギルティクラウン」「PSYCHO-PASS サイコパス」などのヒット作を手がけ、2012年にWIT STUDIOを設立。2013年には「進撃の巨人」をプロデュース。同作は社会現象とも言える大ヒットとなった。

ヤマザキコレ
ヤマザキコレ

北海道生まれ。2013年、月刊コミックブレイド(マッグガーデン)で「魔法使いの嫁」の連載をスタートし、現在はオンライン雑誌・MAGCOMI(マグコミ)と、月刊コミックガーデン(マッグガーデン)にて同時連載中。


2016年3月10日更新