LaLa45周年特集第3回「学園ベビーシッターズ」時計野はり|私の思う「かわいい」が伝えられる絵になっていたらいいな

温かい気持ちを描くのが好きなんです

──中学生の桜と、血の繋がらない4人の兄との生活を描いた「お兄ちゃんと一緒」は、時計野先生の初めての連載作です。どんな思いで本作を描こうと思ったのでしょうか?

そろそろ読み切りではなく、続編を描かせてもらえるような作品を描きたいと思って、なるべくキャッチーな題材にしようと考えました。カッコいいお兄ちゃんがいきなりたくさんできたらうれしいだろうと、設定は安直に思い付きと勢いで決めた感じです。当時の担当さんにもたくさんアドバイスをもらってネームを直したりがんばりました。なので連載させてもらえることになって本当にうれしかったです。

「お兄ちゃんと一緒」より、剛と桜。

──「お兄ちゃんと一緒」には、4人の兄を筆頭に個性的なキャラクターがたくさん登場します。キャラクターを考えるうえで、特に心がけていることや意識していることはありますか?

私は楽しいキャラクターマンガが描きたい派なので、ヤンチャ、真面目、とかわかりやすく分類できるような性格づけをしている気がします。でも日常マンガが好きなので、突飛過ぎないようにしたかったり。あとはどういう立場にどういう人がいたらマンガ的においしいかなとか、見た目も中身もわかりやすく、それぞれ見分けられるようにしたいなとか……。いろいろ考えつつ、基本的にはこういう人がいたら楽しい!というなんとなくの思い付き重視ですね。

──以前、LaLa誌面のインタビューでお気に入りのキャラクターは武と答えていらっしゃいましたが、今改めて選ぶとしたらどのキャラクターでしょうか。

自分で考えて動かしているので、特にメインキャラクターは全員に愛着があってお気に入りの差はほぼないんですけど、武は一番私の好みを反映したキャラクターなので、そういう意味では今も好みのタイプは武です。無口で真面目で天然なキャラクターが大好きなもので。ただ一番気合を入れて描いていたのは正だなあと思います。

──ちなみに読者から人気のあったキャラクターは誰ですか?

正お兄ちゃんが一番人気があったと思います。一番キャラが濃いのと、なんだかんだでメインヒーロー的立ち位置なのでカッコよく、かわいく、面白い人にしたいと思ってがんばって描いていたので、少しでもそう見えていたらうれしいですね。あ、「かわいい」は桜が一番だとうれしいですが(笑)。

──今振り返って、特に印象に残っているシーンやエピソードを3つ挙げるとしたらどれでしょう。

まずは桜と正のキスシーンですね。最終話の1つ前のお話で、細かいことは置いといて幸せになって!!とがんばって描いたので思い出深いです。2つ目は、3話の小さい桜が神社の階段をよちよち登っている後ろ姿ですね。私の父がめちゃくちゃ深読みして気に入ってくれているシーンなんです。自分でも気に入っています。最後は、「武くんの観察日記」という番外編です。武がメインのみんなが子供の頃のお話で、武の性格も見た目も虎太郎に近いです。私はこういう話が一番描きやすいんだろうなと再確認したので選んでみました。

──「お兄ちゃんと一緒」を描くうえで悩んだこと、連載中に難しいと感じたことはありましたか。

桜の見た目がだいぶ幼く、実際歳の差がすごいので桜と正をいい感じにすると、「犯罪だよ……」とついツッコミを入れたくなる自分が邪魔でしたね。全部自分で考えて描いているわけなので、ただの照れなんですけど。あとはなるべく毎回お兄ちゃん達の誰かのカッコいい見せ場を作るようにしたかったので、そこも照れやらネタ切れやらいろいろ大変でした。でもそういうサービス精神の大事さを当時の担当さんに教えてもらって勉強になったし、ありがたかったなと思っています。

──本作は大きく括ると「家族もの」「ホームコメディ」というジャンルになると思いますが、その後描かれる「学園ベビーシッターズ」も家族という共通するテーマがあると思います。家族を描くことへのこだわりがあるのでしょうか?

特にこだわっているつもりはなかったんですが、思えばデビューが決まった受賞作も家族のお話と言えるものだったし、描きやすいのかもしれないです。一番身近な題材な気がするので、そのせいかな。なるべく共感してもらえるような、温かい気持ちを描くのが好きなんです。

いろんな人に助けてもらって描いている「学園ベビーシッターズ」

──現在、LaLaで連載中の「学園ベビーシッターズ」は今年で12年目になります。本作を描くに至った経緯を聞かせてください。

当時の編集長と元編集長のおふたりに新連載の設定やネームの相談に乗ってもらったんですが、「お兄ちゃんと一緒」の中での小さい子の描写がよかったから、子供がメインのお話にしましょうと提案していただいて。私も描きたかったので、学園もので子供のお世話をする話にしようと決めました。舞台が学校なのは少女誌なので学生を主人公にしたかったからで、題名だけは一発で決まりました。ただ最初は兄弟ではなく、ベビーシッターとして接することになった子供たちとのお話にしていて、それだとドラマが弱いということで今の竜一と虎太郎のキャラ設定になった感じです。当時の編集長にはお子さんのお名前を貸していただいたりもして、一番大事な基盤作りの作業で本当にお世話になりました。

──本作の魅力と言えば、やはり保育ルームの子供たちのかわいらしさとリアリティではないかなと思います。小さい子供を描くうえで、取材などたくさんされているのでしょうか。

「学園ベビーシッターズ」より。

姪っ子、甥っ子、友人の子供たちとよく遊ばせてもらっていたので、そのあたりがだいぶ参考になっています。直接体験していないことでも姉や友人がこんなことがあったよと教えてくれたり、担当さんやいろんな人に子供の頃の楽しい体験はないか無茶振りして聞いてみたり、読者さんが手紙などでかわいいエピソードを教えてくれたり。いろんな人に助けてもらって描いているので、それがなければこんなに長く続けられていないと改めて思いますね。あと私が小中学生の頃、長期休みに祖母の家で10歳くらい下の親戚の子供たちとよく遊んでいたんです。小さい子のかわいさとパワフルさはその頃から実感しているので、そのときのことも思い出して描いたりしています。祖母の家の急な階段をよちよち登って私についてきたりとか、寒い冬に抱っこするとポカポカして離したくなくなったりとか。

──きっとご自身の経験や思い出が反映されていることも、リアルな描写に繋がるんでしょうね。「学ベビ」は1話完結ものなので、毎回エピソードを考える苦労も多いかと思うのですが、1話完結もののいい点と悪い点はなんだと思いますか?

いい点はそのとき思いついた描きたいネタがすぐに最後まで描ける、というところでしょうか。私はけっこうせっかちなので性格的に向いてるのかなと思ってます。悪い点は毎回新たなネタが思いつかないとどうしようもない、というところですね。ほぼ毎回「ネタがない」と半分泣きながら絞り出しています。

──連載を10年以上続けているのもすごいと思います。では描いていて楽しいキャラクターを教えてください。

子供たちを描くのは基本的に楽しいです。ただなるべく仲間外れにならないようにコマの中にみんな詰め込もうとして大変になったりすることはあります。時間さえあればそれも楽しいんですけど。

「学園ベビーシッターズ」14巻より、象潟くん。

──逆に描くのが難しいと感じるキャラクターは?

高校生組や大人たちはそれぞれのいいところを見せたいという私の気負いがあるので、楽しいけど難しいと感じる部分も多いです。それから私はチャラい人をよくわかってないので、象潟くんとかのセリフを考えるときはけっこう困りますね。チャラさは時代も色濃く出ちゃう気がするので、いろいろ難しいです。でもキャラクターとしては、象潟くんはだいぶ気に入ってます。

──「学ベビ」は2018年にTVアニメ化もされました(参照:アニメ「学園ベビーシッターズ」西山宏太朗&梅原裕一郎のベビーシッター体験レポート)。アニメになったことで、影響を受けたことなどはありますか。

一番大きいのはアニメから作品を知ってくれる方がたくさんいることですね。ひたすら「ありがとうございます!」という気持ちです。もともと絵が動く、絵を動かすということに憧れとか魅力を感じていたんですけど、自分の考えたキャラクターが自然に動いてしゃべっているのを見て、改めてアニメってすごいと感動して、自分も趣味でいろいろ勉強したいなと思ったり、いい刺激をたくさんもらいました。

──もし「学ベビ」の登場人物の中で、メインキャラクター以外を主人公にしたスピンオフを描いてほしい、と言われたら誰を主人公にしたお話を描いてみたいですか?

私の脳みそでは絶対に描けないただの妄想でよければ、本編とは別軸の世界で理事長先生と犀川さんの本格謎解きものとかやりたいです。


2021年9月24日更新