LaLa45周年特集第1回「赤髪の白雪姫」あきづき空太|「物語を届けるべき人たちがここにいる、自分のキャラクターが世の中に旅立っている」

読者の皆さんの存在がとても大きい

──リリアス編での、本当は白雪には側にいてほしいのに、無理には引き留めたりはしないゼンの姿もそうですし、常に以心伝心でお互いの背中を預けるミツヒデと木々の姿を見ていると、作品全体を通じて「人を信じる」ということが大きなテーマとしてあるように感じます。

誰にでも強い面と弱い面があるとは思うんですけど、基本的に他人に見せるのは強い面が多いのだろうと。その強さの部分で人とつながっていって、さらにそれが自然とその人の人となりになる、という様子を描いていきたいんです。

──先生ご自身も人を信じたいと願いますか?

私の場合は描き手の感情になってしまうんですが、ガクッとくじけそうになるときに信じるのだと思います。何かの物語や、そこに生きるキャラクターが力になっている人がいるということを知っているので。「赤髪」も読者の方の存在がとても大きいです。

──読者の方がどう受け取ってくれるかをかなり意識していらっしゃるんですね。

描いている間は当然わからないのですが、お手紙をもらって、物語やキャラクターからなんらかのパワーを受け取ってくれた人がいるんだとわかると、ほっとします。

──お手紙というのは手書きのファンレターですか?

そうなんですよ! わざわざ便箋を買って、文章を書いて、ポストに投函してくれるんです。「赤髪の白雪姫」の世界観に合わせて封蝋までしてくれたり。とてもうれしいですね。

──それはすごい!

お手紙はすべて間違いなく読んでいます。読者の方と交流できる機会があまりないので、しみじみ感謝してます。

「赤髪の白雪姫」の世界ができるまで

──今は時節柄、ちょっと厳しいように思うのですが、コミックスの欄外を拝見すると、たびたび海外旅行に行ってらっしゃいますよね。

「赤髪の白雪姫」のカラーカット。

観光もしますが、主に資料写真を撮りためています。今の時代、ネットでも資料を集められますが、やっぱり現地で見るものとは全然違うんですよね。細かいところ、例えば扉の蝶番とか箱の裏側とか……そういうのも見られるのは、現地に行く醍醐味です。

──ディテールを大切にしていらっしゃる。

できる限りは。どうやって動くのかわからないと作画で不安になります。資料館や博物館にもっとちゃんと行きたいですね。

──ファンタジーだからこそリアリティが必要ですよね。

そう思います。だけど「赤髪の白雪姫」に関してはかなり自由度を持たせて描いています。例えばランプの光源がろうそくなのか電気なのか燃料なのかはあまり細かくは描きません。

──「赤髪の白雪姫」では人名が“白雪”“木々”と漢字だったり、“ミツヒデ”と日本の名前のようだったり、“ゼン”“イザナ”など無国籍風だったりしますが、独特の世界観はどこから生まれてきたのでしょうか?

名前に関しては「白雪姫」がモチーフなので、主人公の名前は「白雪」だろうと。最初、「シラユキ」とカタカナにしたらピンと来なくて、でも漢字にしたら1人だけ浮いてしまったので、ほかにも日本語っぽい字面、響きの名前を入れたくて、できるだけ漢字変換できる名前を付けるようにしていきました。ネーム全体でも外来語よりはできるだけ日本語を使うようにしています。

──これが何か不思議な効果を生んでいますよね。

よくお手紙でも質問されるんですけど、自分の感覚としてはクラリネスの人々はあくまでもクラリネスの言語で生活していて、漢字もカタカナもあるわけではないから、それを日本語に訳して読んでいる感覚なので、そう言われることがすごく不思議でした(笑)。

食べものが美味しそうに描かれている作品は印象的

──登場する食べものがどれもすごく美味しそうで、「赤髪の白雪姫」の読みどころの1つにもなっているように感じます。

「赤髪の白雪姫」第100話より。

ジブリ作品がまさにそうなんですけど、食べものが美味しそうに描かれている作品って、とても印象に残るんですよね。食べものを描くと暮らしている気配が強くなりますし、食事のシーンでは緩い空気感も出せます。描くのはめちゃめちゃ楽しいですね。

──参考資料などはありますか?

料理本はよく見ます。スキレットで作る料理や、モロッコ料理はよく参考にしています。モロッコは食器もかわいいんですよね。「赤髪の白雪姫」の作中では、意外と和食がまだ出ていないんじゃないでしょうか。

──ジブリ作品がお好きなんですか?

宮崎駿監督の映画が自分にとって鮮烈です。こういう人間を描けたらいいなという憧れがありますし、絵とか風とか、画面から伝わってくるものがとても好きです。

──宮崎作品のどういった表現がお好きなんでしょうか。

マンガとか映画って人が作るものだから、当然「演出」があり、それが魅力の1つなのですが、宮崎監督の作品は、そこにあるものをたまたまカメラで撮っていて、自分がそれをたまたま見ているというくらいの自然な感覚があるんですよね。

──ご自身のフェイバリットは?

「風の谷のナウシカ」です。いちばん好きなキャラクターはミト爺です(笑)。ナウシカの生き様だけでなく、敵役の存在感、セリフも心に残るものが多くて、見るたびに同じシーンで胸打たれます。

──食べもののシーンではどれがお好きですか?

「天空の城ラピュタ」の目玉焼きトーストですね。目玉焼きに吸い込まれそうになります。ジブリ作品は一見なんだかよくわからないものまで美味しそう! すごいと思います。


2021年9月24日更新