“僕”と桜良ちゃんの関係みたいな曲、昔歌ってました
──“僕”と桜良がお互いへの気持ちを表現した「君の膵臓をたべたい」という言葉。志磨さんが実際に誰かから言われたらどう思いますか?
僕、目がすごい悪くって。好感度を上げたいわけじゃないんですけど、相手の外見はあまり重要ではないんですよ。相手がどんな言葉で話すかのほうが気になってしまうんです。そうなると、僕が「えーっ!?」っとなるようなことを言われたいわけです。
──では「君の膵臓をたべたい」って言われたらグッとくるのでは?
いや、まずは1回引きますよね(笑)。「なぜに?」って思いますけど。その理由が納得してしまうものであれば、どうぞ差し上げます……って降伏するかもしれないです。
──志磨さんから見て、どうして“僕”と桜良はこの言葉を選んだと思いますか? 劇中ではどこかの国の言い伝えにちなんでると言ってましたけど……。
ありきたりじゃない言葉を選んだのは、自分たちの関係が何かに回収されてしまわないようにじゃないですかね。「君たち男女でしょう。毎日一緒にいるの? ああ、じゃあもう恋愛だね、それは」みたいな。みんなそうだから、って当てはめられるのって嫌ですもん。桜良ちゃんが“僕”に「私を彼女にしたいと思う?」と聞いて、「まったく思わないよ」と返されるシーンがあったじゃないですか。それを聞いて彼女は「安心した」と言うんです。あれは強がりとかじゃなくて、陳腐な関係じゃなくてよかったってことですよね。しかも2人の関係には終わりが定められてますから、「この先ずっと友達でいよう」とか「何十年経っても一緒にいよう」なんてセリフは言えない。恋愛でも友情でもない関係の人に伝える、ぱーっと見通しのいいひと言。それが「君の膵臓をたべたい」になるんじゃないでしょうか。
──なるほど。
昔、「恋をこえろ」って曲を書いたんですけど、「僕の気持ちは恋ではない、恋以上のなにかだ、きみを知らない人が書いた辞書にはこんな気持ちは載ってないだろう」という歌でして。それは非常に近いテーマなんじゃないかしら、と思います。
「ごめんなさい、やり直します、だから認めてください」
──では「君の膵臓をたべたい」というセリフから連想して、志磨さんが大切な人に思いを伝えるとしたらどんな言葉になるでしょう。
難しいなあ……。得意なはずなんですけどね、そういう仕事してますから。
──ロマンチックな歌詞を書くという。
そう、サラサラーっと書けるはずなんですが。でも実際に口にしたことはないっていう。
──ははは(笑)。
なんでしょうねえ。でも恋愛って、理解できない相手と出会ってしまった場合に発生する気がするんです。「この人といたらダメになる」って思ってしまうような相手というか。ドラマチックっていうのは、自分を否定されることだと思うので。まあ何言ってんだという感じなのは、たぶん僕が人間より芸術のほうが好きだからなんですけど。
──え、そうなんですか?
ええ。本や音楽でも勉強してると、それだけで満足してしまいます。たぶん、恋愛と芸術は同じ構造なんです。僕は「わかる、わかる」を積み重ねるんじゃなく、「なんだよコイツ! 意味わかんねえ!」っていう新鮮なものに出会いたいんですよね。例えば、今ここに素晴らしい絵が飾ってあったとします。僕は「こんなスゴいものには敵わんなあ。よし、音楽やめよ!」と思い立って絵描きになるかもしれない。それが映画だったら「もう毎日映画3本観よう。音楽なんか聴くのやめよう」となるかもしれない。僕にとって好きになるというのは、今の自分を否定されるほどの衝撃を受けることから始まって、その憧れるものと同化を求めることなんじゃないかと。だから「君の膵臓をたべたい」を僕なりに言ってみるとすると、「ごめんなさい、今すぐやめます」。あ、やめますじゃないな……。「ごめんなさい、やり直します、だから認めてください」ですかね。……言われてもまったくうれしくないですよね(笑)。
──少しわかりにくい表現ではありますね……(笑)。
これだから嫌ですよね、アートかぶれの男って!(笑) まあ、恋愛ってそういうことかなあって思います。僕は。
アニメを作るなら、「サザエさん」みたいなやつがいい
──最後に、原作者の住野よるさんから預かってきたメッセージと質問を。
おお!
──住野さんは人生で特別な影響を受けたアーティストとして、志磨さんのお名前を挙げていらっしゃって。まずメッセージからお読みください。
志磨遼平さんという人を青春時代に知って以来、いつも心をかき乱されてきました。志磨さんの存在や音楽に殴られたり抱きしめられたり、勝手に恋に落ちたり、勝手に理解できないと悩みぬいたり、してきました。今回志磨さんが拙作から派生したアニメ作品をご覧になられると伺い、また心かき乱されています。ようやく知ってもらえる喜びと、少しでも面白いと思ってもらえるのか怖いという気持ちがあります。いつも平常心でいられなくしてくださり、本当にありがとうございます。
……うれしいです。ありがとうございます。さすがの文章ですね。
──ご面識はあるのでしょうか?
直接お会いしたことはないんですけど、Twitterをお互いにフォローしています。確か2、3年ぐらい前からだと思います。住野さんのお名前は本屋さんでお見かけしていたので、フォローしてくださったときに「おお、あの人だ!」という。
──そうだったんですね。
物を作る人同士だと、本人より先に作品のほうと出会うってことも多いんですよ。まず作品自体の好みもありますし、そこから人間性を想像されてしまうこともある。僕が住野さんを「膵臓食べたい人だ!」と思う可能性もなきにしもあらずなわけです(笑)。だからメッセージにある「少しでも面白いと思ってもらえるのか怖い」という気持ちはよくわかります。僕としても、先に音楽を聴いてもらっている立場として、実際に会ったらどう思われるんだろうという不安もありつつ、でも会いたいです。
──実現するといいですね。では質問に移りますね。
ファンとしてやはり志磨さんの作品に興味があるのですが、もしご自身でアニメ作品の物語を作られるとしたら、どのようなジャンルの物語にされますか?
……アニメかー。だったら「サザエさん」みたいなやつがいい(笑)。日常系で、しかもめっちゃご長寿の。
──どうしてですか?
自分のアニメがワンクールで終わるのってつらいじゃないですか。それに「今どきの作画じゃない」とか「今期は豊作で、中でも一番面白いのはこれで……」というような競争から無関係でいられる。だから夕方とかに帯でやってる15分くらいのアニメを作りたいです。
──なるほど。
住野さんはこういう答えを求めてたのかわかんないんですけど(笑)。でも僕はたぶん、音楽でもそういうことをやってる気がします。
──と言いますと……。
今流行ってるからこれをやります、っていうタイプではないってことですかね。時流みたいなものにあんまり翻弄されたくないというか。今はこれ、次はあれって消費されるものじゃなくて、ずうっと変わらないものをやりたいと望んでる気がします。
- 劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」特集
- 映画ナタリー
高杉真宙 × Lynnインタビュー - 音楽ナタリー
sumika × 住野よるインタビュー
- 「君の膵臓をたべたい」
- 2018年9月1日(土)全国公開
- ストーリー
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高校生の“僕”は、ある日病院で「共病文庫」と題された文庫本を拾う。それは手書きで日々の出来事がつづられた日記帳で、持ち主はクラスメイトの山内桜良だった。桜良から膵臓の病気で余命いくばくもないことを告げられた“僕”は、次第に彼女と一緒に過ごすように。桜良の奔放な行動に振り回されながらも“僕”の心は少しずつ変化していき……。
- スタッフ
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監督・脚本:牛嶋新一郎
原作:住野よる「君の膵臓をたべたい」(双葉社刊)
キャラクターデザイン・総作画監督:岡勇一
音楽:世武裕子
アニメーション制作:スタジオヴォルン
オープニングテーマ・劇中歌・主題歌:sumika
- キャスト
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“僕”:高杉真宙
山内桜良:Lynn
恭子:藤井ゆきよ
隆弘:内田雄馬
ガム君:福島潤
“僕”の母:田中敦子
“僕”の父:三木眞一郎
桜良の母:和久井映見
- 「君の膵臓をたべたい」公式サイト
- 劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」(@kimisui_anime) | Twitter
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- 劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」作品情報
©住野よる/双葉社 ©君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
- ドレスコーズ「どろぼう ~dresscodes plays the dresscodes~」
- 2018年10月17日発売 / KING RECORDS
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通常盤 [Blu-ray]
5616円 / KIXM-341 -
通常盤 [DVD]
4104円 / KIBM-747 -
グラン・ブーケ盤 [Blu-ray]
8640円 / NXD-1034
- 志磨遼平(シマリョウヘイ)
- 1982年和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。2006年に毛皮のマリーズとしてデビューし、2011年まで活動。翌2012年にドレスコーズを結成する。2014年にバンドを解体し、現在ドレスコーズは志磨のソロプロジェクトとして、メンバーが流動的に出入りする形態で活動中。2016年には俳優として、映画「溺れるナイフ」、WOWOW 連続ドラマW「グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」に出演した。また2018年1月から2月にかけて上演された舞台「三文オペラ」では音楽監督を担当。9月下旬からは前野健太との対バンライブ「ざくろ ~歌をくわえた犬たち~」をスタートさせる。また10月17日には、ライブBlu-ray / DVD「どろぼう ~dresscodes plays the dresscodes~」のリリースを控えている。