劇場アニメーション作品「君の膵臓をたべたい」が、9月1日より全国で公開される。住野よるのベストセラー小説を牛嶋新一郎監督がアニメ化した本作は、膵臓の病気を抱えた高校生・山内桜良と同級生“僕”の関係を描いた物語。“僕”が桜良の闘病日記を見つけたところから物語が展開していく。
本作の公開を記念して、ナタリーではジャンルを横断して全3回の特集を展開中。音楽ナタリーでは、主題歌、オープニングテーマ、劇中歌を担当したsumikaと、原作者・住野よるの対談をお届けする。作品や楽曲に対する思い、創作活動のこだわりなどについて、たっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / ヤオタケシ
ひさびさに手に取った小説がキミスイでよかった
──住野さんがsumikaを知ったきっかけから教えてもらえますか?
住野よる 2、3年前になりますが、Twitterでバンドが好きとめちゃくちゃ言っていたら、読者さんが「すごいバンドがいますよ」と教えてくれて。それがsumikaだったんです。
片岡健太(Vo, G) すごい。その読者さん、強心臓ですね(笑)。
住野 (笑)。以前からsumikaの名前は存じ上げていたのですが、そのことがきっかけで曲を聴いたり、ライブを観させてもらうようになって。去年のツアーのライブのチケットを取った頃に「アニメ版の『君の膵臓をたべたい』の楽曲をsumikaさんにお願いすることになりました」という連絡をいただたいんですよ。
小川貴之(Key, Cho) すごいタイミングですね!
片岡 僕らが今回のお話をいただいたのはちょうど1年くらい前だったんですが、その時点ですでに原作はベストセラーになっていて、実写版の映画の公開も決まっていて。テレビやインターネットの中で目にする機会も多かったし、僕たちもすごく興味を持っていたんです。
──sumikaの皆さんは原作を読んで楽曲の制作に取り組んだんですよね。
片岡 はい!
小川 ひさびさに小説を手に取ったんですけど、それが“キミスイ”で本当によかったなと思いましたね。この作品を読んでいる間、人の感情というものをしっかり感じることができて、その時間がとてもうれしかったんです。せわしない日々が続くと、誰かの感情に向き合うことが少なくなると思うんですよ。そんな中、キミスイを読むことで登場人物たちの気持ちを汲み取ることができたし、自分の心がきれいになっていく感覚もあって。
黒田隼之介(G, Cho) 友達に「面白いから読んでみたら」と勧められたのがきっかけだったんですが、読み終わったときに「よし、自分もがんばるぞ」と思えたんですよね。仕事で知り合った方に連絡先を聞いたり、「ごはんでも行きませんか」と自分から声をかけたり。そういうことができたのもキミスイのおかげだなって。
荒井智之(Dr, Cho) キミスイは悲しさと希望のバランスがすごく自然なんですよね。物語の中でとてつもなく悲しいことが起きるんだけど、最後は清々しく読み終えることができると言うか。“悲劇を乗り越えて、しっかり前を向く”ということが自然に描かれているし、さわやかな涙を流させてもらえる作品だと思います。
「君の膵臓をたべたい」も「ファンファーレ」もタイトル先行
片岡 そう、悲しい涙ではなくて、スポーツを観ているときのような爽快感があるんですよね。僕はまず、「君の膵臓をたべたい」というタイトルに惹かれたんです。sumikaの曲を制作するときもそうなんですが、フックと言うか、「ん?」と思わせることはすごく大事だと思っているので。
住野 このタイトルについては、「誰かに注目してもらいたい」という一心だったんですよね。道を歩いているときに「君の膵臓をたべたい」という言葉を思い付いて、「このタイトルで、人を感動させられるようなストーリーを作ろう」と思って。
小川 すごい。タイトルが先にあったんですね。
片岡 実はオープニングテーマを作らせていただくにあたって、僕らもタイトルを先に決めたんですよ。
住野 そうなんですか?
片岡 はい。普段は歌詞を書き終わってからタイトルを決めるので、今回のパターンはsumikaにとっても初めての作り方だったんですけど。
──どうして曲名を先に決めようと思ったんですか?
片岡 sumikaは結成5年目になるんですが、今回のお話は、僕らにとって最大規模のプロジェクトだったんです。関わってくれる人の数も多いし、チームも大きいから、音楽を任せていただいた以上、誰の目にもわかるような旗をしっかり振ることが大事だなと思って。僕らがブレたり、紆余曲折していると「結局、何を伝えたかったんだっけ?」という曲になりかねない。そうならないためには「ここに向かって進みます」という決意表明が必要だと思ったんですよね。
住野 なるほど。制作の参考になります。
片岡 オープニングテーマの「ファンファーレ」に関しては、事前に住野先生からの要望もいただいていて。それも素晴らしい言葉だったんですよ。
住野 メンバーの皆さんに宛てて手紙を書かせていただいたんですが、「恋愛でも友情でもない、二人だけの関係を描いていただけたらうれしいです」と書いたことは覚えています。主人公の“僕”と桜良の関係は、表面的には恋愛や友情に見えるかもしれないですが、僕としては「そうじゃない関係があるはずだ」ということを描こうとしたんです。それは今回の劇場アニメ、sumikaの楽曲でも表現してもらいたいと思っていましたし、そういう楽曲を聴きたいという、1人のsumikaファンとしての気持ちもありました。
片岡 ありがとうございます。アニメのスタッフさんからは「オープニングの映像は、楽曲を基にして作ります」と言ってもらって。そういうことも含めて、いい掛け算ができたと思いますね。住野先生の熱量のある言葉、アニメのスタッフチームの思い、僕らの気持ちを“足し算“ではなく“掛け算“することで、さらに素晴らしいものになるっていう。
住野 アニメサイドからの要望は初めて伺いました!
片岡 何よりも住野先生の中で、キミスイの登場人物に対する愛情が色褪せていなくて、作品に対する気持ちがまったく擦り切れていなかったことが大きかったと思います。今回の劇場アニメはキミスイにとって最後のメディアミックスになるかもとお伺いし、住野先生の気持ちを受け取って、関わる人たちもしっかり愛情を持って新しい作品を作り上げなくてはいけないなって。そのことは牛嶋新一郎監督も話していたし、僕らもしっかり作品に寄り添って曲を作りたいなと思っていました。必死でしたが、心地いいプレッシャーの中で制作できましたね。
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ポップなものに1滴の毒を
- 「君の膵臓をたべたい」
- 2018年9月1日(土)全国公開
- ストーリー
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高校生の“僕”は、ある日病院で「共病文庫」と題された文庫本を拾う。それは手書きで日々の出来事がつづられた日記帳で、持ち主はクラスメイトの山内桜良だった。桜良から膵臓の病気で余命いくばくもないことを告げられた“僕”は、次第に彼女と一緒に過ごすように。桜良の奔放な行動に振り回されながらも“僕”の心は少しずつ変化していき……。
- スタッフ
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監督・脚本:牛嶋新一郎
原作:住野よる「君の膵臓をたべたい」(双葉社刊)
キャラクターデザイン・総作画監督:岡勇一
音楽:世武裕子
アニメーション制作:スタジオヴォルン
オープニングテーマ・劇中歌・主題歌:sumika
- キャスト
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“僕”:高杉真宙
山内桜良:Lynn
恭子:藤井ゆきよ
隆弘:内田雄馬
ガム君:福島潤
“僕”の母:田中敦子
“僕”の父:三木眞一郎
桜良の母:和久井映見
- 「君の膵臓をたべたい」公式サイト
- 劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」(@kimisui_anime) | Twitter
- 劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」(@kimisui_anime) | Instagram
- 劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」作品情報
©住野よる/双葉社 ©君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
- sumika「ファンファーレ / 春夏秋冬」
- 2018年8月29日発売 / Sony Music Records
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初回限定盤 [CD+DVD]
1728円 / SRCL-9900~1 -
通常盤 [CD]
1080円 / SRCL-9902
- CD収録曲
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- ファンファーレ
- 春夏秋冬
- ファンファーレ(Instrumental)
- 春夏秋冬(Instrumental)
- 初回限定盤DVD収録内容
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sumika Film #4
- ファンファーレ MUSIC VIDEO
- Documentary
- 初回限定盤特典
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三方背BOX仕様+原作者・住野よる書き下ろしショートストーリー「日々の透き通るもたれ合い」封入
- 初回生産限定盤・初回仕様限定盤封入特典
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sumika「ファンファーレ / 春夏秋冬」Release Tourチケット先行応募券封入
受付期間:8月31日(金)20:00~9月3日(月)23:59
- sumika 公演情報
「ファンファーレ / 春夏秋冬」Release Tour -
- 2018年10月28日(日) 宮城県 SENDAI GIGS
- 2018年11月4日(日) 北海道 Zepp Sapporo
- 2018年11月7日(水) 愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年11月8日(木) 愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年11月14日(水) 東京都 Zepp Tokyo
- 2018年11月15日(木) 東京都 Zepp Tokyo
- 2018年11月25日(日) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2018年11月26日(月) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2018年11月30日(金) 広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2018年12月4日(火) 福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年12月5日(水) 福岡県 DRUM LOGOS
- sumika(スミカ)
- 片岡健太(Vo, G)、荒井智之(Dr, Cho)、黒田隼之介(G, Cho)により2013年5月に結成されたバンドで、sumika[camp session]名義のアコースティック編成でも活動している。同年10月に1stミニアルバム「新世界オリハルコン」をリリース。2014年11月にはmurffin discs内レーベル・[NOiD]の第2弾アーティストとして2ndミニアルバム「I co Y」を発売する。2015年2月にサポートメンバーの小川貴之(Key, Cho)がバンドに正式加入し、6月に3rdミニアルバム「Vital Apartment.」をリリースした。8月には片岡の体調不良によりライブ活動を休止。その後11月に東京・shibuya eggmanで行ったワンマンライブをもって活動を再開させる。2016年3月には活動再開後初の作品として両A面シングル「Lovers / 『伝言歌』」を、2017年7月には初のフルアルバム「Familia」をリリース。2018年4月に新作CD「Fiction e.p」を発売し、バンド結成5周年イヤーに突入する5月から東京・日本武道館公演2DAYSを含むバンド史上最大規模のホールツアー「sumika Live Tour 2018 "Starting Caravan"」を開催した。8月に劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」のオープニングテーマと主題歌を収録した両A面シングル「ファンファーレ / 春夏秋冬」をリリース。
- 住野よる(スミノヨル)
- 小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で映画化され、2017年7月に全国公開された。2018年3月に最新小説「青くて痛くて脆い」を発表した。
2018年9月7日更新