劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」を志磨遼平が語る|恋愛じゃない、“価値観”をテーマにした青春譚

「君の膵臓をたべたい」は本好きで地味な高校生の“僕”と、膵臓の病で余命1年のクラスメイト・山内桜良を主人公にした青春ストーリー。2015年6月に刊行された住野よるの小説はベストセラーとなり、以降コミカライズや実写映画化を果たした。

そんな本作を原作とする劇場アニメーションが、9月1日より全国公開された。これを記念しコミックナタリーでは、住野が“人生で特別な影響を受けたアーティスト”として挙げる志磨遼平(ドレスコーズ)にインタビューを実施。彼が考える、「君の膵臓をたべたい」という言葉の意味とは? そこから派生する自身の恋愛観についても語ってもらった。

取材・文 / 西村萌 撮影 / moco.(kilioffice)

“僕”と同じコミュ障なので……

──志磨さんは、恋愛ものや青春ものの映画がお好きだそうですね。

志磨遼平

だって、恋愛の話なんてみんな好きでしょう(笑)。

──(笑)。

映画にしても、音楽や文学にしても、名作や名曲と言われる作品に恋愛をテーマにしたものが多いのは、どの時代のどこの国でもみんな恋だけはうまくいかないからなわけですよ。ただ、僕の場合は作品至上主義というか、たまたま好きな映画にボーイ・ミーツ・ガールものが多かったというだけで。ラブストーリーならなんでもいいってわけではないです。男女が出てくる作品でも、恋愛ものとまでは呼べないものもありますし。まさしく「君の膵臓をたべたい」もそうじゃないですか。

──と、言いますと?

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」より、桜良と出会うきっかけとなる「共病文庫」を拾った“僕”。

僕は、恋愛というより“価値観”がこの作品のテーマなのかなと思いました。主人公の“僕”は頑固な性格で、他人と深く関わりたくないというような、俗に言うコミュ障がちの少年じゃないですか。自分もコミュニケーションは下手なので、彼の気持ちがよくわかるなあと共感しながら観てたんです。物語もずっと“僕”の主観をメインに進んでいきます。周りのクラスメイトからは「桜良ちゃんのこと好きなの? 彼女なんでしょ」って言われますけど、「好きなら彼女にしないといけないのかよ」とまったく聞く耳を持たない。むしろ最初は、桜良ちゃんにすら興味ない。

──そうでしたね。話しかけられるたびに鬱陶しそうでした。

そんな“僕”が桜良ちゃんという特別な人と毎日を過ごすことで、少しずつ世界を受け入れ始める。とにかく誰にも干渉されたくない、という気持ちが、少しだけ変わるという。そのテーマだけで男女の関係を描き切ったところが面白いと思いました。

“真実と日常”をお互いにくれるって、バッチリなわけですよ

──ちなみに主人公2人の距離感は、どのシーンで変化したと思いますか? 最初は“僕”が桜良の死ぬまでにやりたいことに無理やり付き合わされていましたが……。

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」より、“僕”は桜良に連れられて福岡へと向かう。

うーん、福岡に行った帰りの電車あたりですかね。“僕”がデレデレしだしたのは。「君、そのタイプか。急にデレるタイプか!」っていう(笑)。

──あはは(笑)。“僕”みたいに急にデレるタイプの男性って実際にもいるものでしょうか。

あそこまでいかんでも、あるタイミングでいきなり態度が変わる男性はいますよね。相手からの好意を確信できたら、自分の感情も預けられるようになるというか。“僕”は恋愛経験がそんなにないはずなので、あのシーンでようやく桜良ちゃんに対してのデレ方がわかってきたんだと思います(笑)。

──なるほど。印象に残ったセリフなどはありましたか?

桜良ちゃんが“僕”に言う、「君は真実と日常の両方をくれる」って言葉はすごく素敵やなあと思いました。

──「お医者さんは真実しか与えてくれないし、家族は日常を取り繕うのに必死なのに」とも言ってましたね。

“僕”は桜良ちゃんの「もうすぐ私、死ぬんだよ」というショッキングな告白にも、「へー」みたいなリアクションしか返さないじゃないですか。でも桜良ちゃんにとっては、それがすごく心地よかったというか。余命わずかという状況の中で、ほかの人たちが過ごしているのと変わらない“日常”を与えてくれる唯一の相手だったということですよね。

──逆に、“僕”にとって桜良はどういう存在だったと思いますか?

志磨遼平

“自分のことを理解してくれた人”なんじゃないでしょうか。今まで“僕”は「友達なんかいらない」というスタンスで生きてきて、周りからは「いやいや、嘘やん。そんなん強がりでしょ」みたいに言われてきたと思うんです。だけど桜良ちゃんはみんなのように価値観を押し付けない。その代わり、「私はグイグイいっちゃうけどね」という感じで、ケーキバイキングに誘ったり、福岡まで旅行に付き合わせたり。“僕”を変わり者扱いしないじゃないですか。ある意味、彼にしても“真実と日常”をくれる存在ですよね。だからまあ、お互いにバッチリなわけです。

──本当ですね。

そういう相手ってね、なかなか出会えないものでしょうし。だいたいは“真実”をくれる人のほうがなかなか見つからないんです。「こんな常識も知らないの?」みたいな世間一般の真実とかじゃなく、自分だけにとっての真実。それがつまり価値観、ってことになるわけですが。「自分はこういうふうに思っていて、それを信じて生きている」っていうのを、そっくりそのまま認めてくれる人。そりゃ、あの2人は一緒にいられるなと思います。

──隣にいても苦じゃないというか。

うん、苦じゃない。まあ全然気が合わないとは言ってましたけど。気は合わないが、価値観は合っている。

「君の膵臓をたべたい」
2018年9月1日(土)全国公開
「君の膵臓をたべたい」
ストーリー

高校生の“僕”は、ある日病院で「共病文庫」と題された文庫本を拾う。それは手書きで日々の出来事がつづられた日記帳で、持ち主はクラスメイトの山内桜良だった。桜良から膵臓の病気で余命いくばくもないことを告げられた“僕”は、次第に彼女と一緒に過ごすように。桜良の奔放な行動に振り回されながらも“僕”の心は少しずつ変化していき……。

スタッフ

監督・脚本:牛嶋新一郎

原作:住野よる「君の膵臓をたべたい」(双葉社刊)

キャラクターデザイン・総作画監督:岡勇一

音楽:世武裕子

アニメーション制作:スタジオヴォルン

オープニングテーマ・劇中歌・主題歌:sumika

キャスト

“僕”:高杉真宙

山内桜良:Lynn

恭子:藤井ゆきよ

隆弘:内田雄馬

ガム君:福島潤

“僕”の母:田中敦子

“僕”の父:三木眞一郎

桜良の母:和久井映見

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志磨遼平(シマリョウヘイ)
志磨遼平
1982年和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。2006年に毛皮のマリーズとしてデビューし、2011年まで活動。翌2012年にドレスコーズを結成する。2014年にバンドを解体し、現在ドレスコーズは志磨のソロプロジェクトとして、メンバーが流動的に出入りする形態で活動中。2016年には俳優として、映画「溺れるナイフ」、WOWOW 連続ドラマW「グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」に出演した。また2018年1月から2月にかけて上演された舞台「三文オペラ」では音楽監督を担当。9月下旬からは前野健太との対バンライブ「ざくろ ~歌をくわえた犬たち~」をスタートさせる。また10月17日には、ライブBlu-ray / DVD「どろぼう ~dresscodes plays the dresscodes~」のリリースを控えている。