コミックナタリー Power Push - 原作:ゆきもり 作画:ロドリゲス井之介「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」

国民的イケメン俳優の裏の顔は……?「作りたくなる」ガンプラマンガ生み出す、ゆきもりの“愛”溢れる制作秘話

自分が作ったという満足感

──ゆきもりさんはガンプラブームを経験されてきた世代ということで、周りにいた男性の多くもガンプラに触れてきた方が多いと思います。ただ歳を重ねるにつれて離れてしまう人ももちろんいらっしゃるのかと。それでも今、ここまでゆきもりさんを夢中にさせているガンプラの魅力って、なんだと感じますか?

“オレ設定”による機体のイメージ図を手に、思わず笑みが溢れる桜庭。

なんなんでしょうね……。今もガチでハマってる最中なので、ちょっと客観的に見られないんですけど(笑)。

──(笑)。

でも、例えば「ガンダム」のフィギュアって、完成品でも売ってるわけですよ。そこそこカッコいいものが、1体1万5000円くらいのいい値段で。けど僕はそこにはまったくノーリアクションで。パッと見て「カッコいいですね」とは言いますけど、「欲しい?」と聞かれたら「別にいいです」と答える。その違いは何かと言ったら、やっぱり自分が作ったという満足感が重要なんじゃないかと思っています。それこそ、できあがったプラモデルを綿を詰めた箱に入れて、「完成!」ってやりがいを感じられることがうれしいんです。

寝る間も惜しんでヤスったガンプラを公開

──あとは「プラモ男子」でも「ジャブスカ」でも、作品の中で大きな役割を果たしている“オレ設定”。これもプラモデルを作る上で魅力の1つなのかと。

そうですね、自分の知識をどれだけ詰め込めるか、“オレ設定”にはそういう楽しさがあるんです。あえて語りはしないけど、「このザクを見たら俺がどれぐらい詳しいかわかるよね?」って感じてもらえるというか。ただ色を変えて作ったりしてるわけではなく、1つひとつにちゃんとした理由を持って作っているので、わかる人にはわかってもらえるんですよ。「理にかなってますね」って言われると「わかってるな」って、うれしくなります(笑)。

桜庭の脳内にて展開される「ジャブローズ・スカイ」より。

──「ジャブスカ」では水中用ザクなどの“if”を描いた“オレ設定”が展開されています。

ジオン軍のモビルスーツって最初は武装として実弾兵器を使っていたのが、後にレーザー兵器を使用できるようになってるんですよ。その“どうしてレーザー兵器を使うようになったのか”という過程を、桜庭が想像する“オレ設定”の中で描いています。全部妄想なので恥ずかしいというか、あまり人に言うものではないなとも思っているんですけど、打ち合わせで“オレ設定”について話しだすと、担当さんも同世代のガンダムファンなので、ついつい盛り上がっちゃいますね。

──そんなゆきもりさんが原稿の合間に制作しているガンプラを、今日はお持ちいただいたんですよね。見せていただいてもよろしいでしょうか。

はい。ちょっと準備しますね。

──あっ、タッパーに入れてらっしゃるんですね。ガンプラを持ち歩くときは皆さんこうされるんですか?

ゆきもりの私物のタッパー。 パーツごとに分けて収納されている。

タッパー派の人と、ガンプラの箱の中にいっぱいスポンジを入れるという人もいますね。ただやっぱりこれが一番安全だと言ってる人が多いです。これは今、「ジャブスカ」の作中にエースパイロットとして出てくる、シバァの搭乗しているザク。“オレンジの破壊神”と呼ばれる、オレンジ色のモビルスーツですね。

シバァが搭乗している「MS-06R1A」。
シバァが搭乗している「MS-06R1A」。
シバァが搭乗している「MS-06R1A」。

──わっ、すごい! ツルツルですね! すみません、初心者丸出しな感想になってしまいますが……。

いえいえ、ツルツルと言っていただけるのが一番うれしいです(笑)。もともとプラスチック感の強い表面なんですけど、それをひたすらヤスリがけして、極力殺していくんです。

──これだけ滑らかになるものなんですね。ヤスリがけの重要さが伝わってきました。こちらの赤色の機体は……。

これはジョニー・ライデンの専用機をイメージしたドムです。ジョニー・ライデンはMSV(モビルスーツバリエーション。アニメ「ガンダム」シリーズに登場したモビルスーツを下敷きに、そのバリエーションを創造・商品化していく企画)に設定だけ登場するキャラクターだったんですが、その人が乗っていた機体を想像して作りました。

ジョニー・ライデンをイメージした「MS-09R リック・ドム」。
ジョニー・ライデンをイメージした「MS-09R リック・ドム」。
「シバァ専用ザク」と「ジョニー・ライデン専用リック・ドム」。

──そこも“オレ設定”により変化が生まれる場所なんですね。実物はやっぱりカッコいいですね!

やっぱり女性の方でも、実際に見たら「すごいな」って感じられるものだと思うんですよね。きっかけがあるかないかの少しの差といいますか、今日この場で見てなかったら全然印象が違うだろうし。やっぱり知ってもらえたら変わることもあると思うので、たくさんの人に認知してもらいたいですね。

コレクションしたくなるような表紙に

──はい。ますますガンプラに対して興味が湧いてきました。あ、こちらは……。

「ジャブローズ・スカイ」バージョンの「MS-06M」水中型ザク。

これは1巻の表紙にも出てきてる、「ジャブローズ・スカイ」バージョンの水中用ザクです。単行本1巻の表紙ではプロモデラーのフクダカズヤさんに作っていただいたんですが、やっぱり自分の手でも再現したくて(笑)。桜庭と同じように寝る間も惜しんでヤスってます。

──単行本の表紙にはイラストを使用せず、フクダさん作の水ザクがそびえ立っています。

単行本の表紙もガンプラを好きな人がコレクションしたくなるようなものにしたいなと思ったんです。ガンプラの箱があったら、そこの横に並べたくなるような。今回デザインを担当してくれた方も、ガンプラの撮影をしてくれたカメラマンの方も皆さんガンダム好きで。だから「何がカッコいいか」の共通認識があったので、制作中も話が早かったですね(笑)。

──表紙のデザインを使用したポスターを見て思ったんですが、拡大されても粗が見えないのがさすがですね。

そうそう、やっぱりそこがプロのすごいところですよね。プロモデラーの方が作ったガンプラって、線対称なんですよ。半分のところでパカっと割って重ねても、肩の位置もパーツの位置もズレない。完全に同じものを2つ作るってすごいスキルなんです。フクダさんのを見たときに、やっぱりプロはさすがだなと思いました。

──でもこだわりをお持ちのゆきもりさんですから、いつかはゆきもりさん自身の作品も表紙になんて……。

いやあ、ヤスリがけどんだけやるんだよっていう話になりますね。今でさえヤスる時間が足りないと思ってるのに。

──作品のための作業が全部ヤスリがけに使われてしまう(笑)。

中身そっちのけで、単行本の表紙のためにひたすらヤスリがけをがんばることになります(笑)。でもいつかは実現できたらいいですね。

「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」1巻を手にするゆきもり。
原作:ゆきもり 作画:ロドリゲス井之介「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」 / 2015年11月12日発売 / 680円 / 小学館
「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」

今をときめく人気俳優・桜庭陸人。
金も地位も名声も、すべてを手にしたスーパースターには、1つだけ──秘密があった。

絢爛豪華なマンションの一室で、防塵マスクに身を固め、ニッパー片手に彼が夜な夜な耽るのは……ガンプラ作り!
彼の脳内に広がるは「機動戦士ガンダム」のもう1つの(?)物語、「ジャブローズ・スカイ」!
いつかこの手で完成させるぜ、“オレ設定”のモビルスーツ!
読めばきっと作りたくなる、ゲッサン×ガンプラストーリー!!

ゆきもり
ゆきもり

2012年から2013年にかけて、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載されていた「プラモ男子とプリチー女子」の原作を担当。ガンプラ好きな40歳の男と、20歳の天然美女との恋を描いた。現在はゲッサン(小学館)にてガンプラを題材にしたマンガ「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」を連載中。