コミックナタリー Power Push - 原作:ゆきもり 作画:ロドリゲス井之介「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」
国民的イケメン俳優の裏の顔は……?「作りたくなる」ガンプラマンガ生み出す、ゆきもりの“愛”溢れる制作秘話
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「ゆきもりさんはガンプラ詳しくないでしょうから」「バカヤロー!」
──お話を伺っていると、ゆきもりさんの“ガンプラ愛”がすごく伝わってきます。けれど、もともとはガンプラ好きを隠していたと聞いたのですが。
本気でロボットを作ってるとは言いたくなかったんですよね。友達が家に来てもガンプラは押入れにしまってましたし、知ってるのは親くらいでした。
──それが「プラモ男子」を制作するにあたってカミングアウトをされて?
最初に決めていた「模型好きな主人公」という設定を、「ガンプラ好きの主人公」に変更しましょうと当時の担当さんに提案いただいて。ガンプラのほうがアイコンとして強いということもありましたし。ただその段階では、まだガンプラ好きだとは言ってなかったんです。言うべきか迷いながら打ち合わせをしてたんですけど、担当さんに「ゆきもりさんはガンプラに詳しくないでしょうから、ブレーン(指導者)をつけますね」って言われて……「バカヤロー!」って(笑)。
──(笑)。
「ちょっと待ってください。今からすごい話していいですか?」って、そこで初めて打ち明けたんです。担当さんも20年ぐらい付き合いのあった方なんですけど、「初めて聞いたよ!」って驚かれて。それで「1週間ください」と伝えてから、「プラモ男子」の作中にも出てきた「オデッサ・デイズ」という“オレ設定”の「ガンダム」の小説を、用紙50枚ぐらいに書いたんです。
──「オデッサ・デイズ」は、ミズオが妄想していた「ガンダム」の外伝のような物語ですね。
アニメ本編では描かれていない、ストーリーとストーリーの隙間の部分を妄想して、新たな物語を作りだすことを“オレ設定”と呼んでいるのですが。その書き上げた「オデッサ・デイズ」を「まずこれを読んでほしい」と渡して。ただ内容が濃すぎたので、担当さんに読んでいただいても理解してもらえないんじゃないかと思ったんですよね。じゃあ誰ならわかるんだという話になって、「ガンダム」の版権を持ってるサンライズさんとバンダイさんに見ていただいたんです。そしたら「この方のガンプラ愛は本物ですよ!」という返事が来て。
──公式からも認められた(笑)。
認めていただきました(笑)。そこまではずっと隠してましたね。やっぱりなんていうんですかね、自分の世代って、オタクだと思われたくない世代だと思うんです。
──確かに今の若い人たちは、自身がオタクであることに対してオープンですもんね。
そう、皆さん「オタクです」って言えるじゃないですか。でも自分は世代的に、普通に恋愛したり洋服に興味を持ったりとか、リア充な部分も見せていないと大人じゃないと思われてしまうというか。まあそれもイメージで、本当はそんなことないと思うんですけど。ロボットだのなんだのっていうのは、ちょっと偏見を持たれてしまうんじゃないかという引っ掛かりが自分の中にあったんです。
──それが今では……。
ご飯を食べさせていただくくらいになりました(笑)。
自分から1歩踏み出さないと始まらない
──それだけ好きなガンプラに関わるお仕事をされていて、毎日がさぞ楽しいのではないかと思います。
趣味でガンプラも作りながら、仕事でガンプラについても書かせていただいて、ありがたいことですね。実は今までは編集者主導で作品を描いていたことも多くて。「こういうのが面白いと思います」って言われたものを「面白いですね、じゃあやりましょう」と、本当に面白いかどうかはわからないけどやってみた、なんてことも結構あったんです。けど今は逆で、自分が面白いと思うものを担当さんに対して「これが面白い、だから描きたい」と言ってやらせてもらっていて。好き放題させていただいてますね。たまに注意を受けたりはしてますが。
──注意……というのは例えば?
ちょっとヤスリがけのシーンが長いとか。
──ここでもヤスリが(笑)。
「展開が遅すぎるんでもうちょっと早く進めましょう」みたいな注意は受けたりして。でも本当はもっとゆっくりなんだけどな、と思ったりもしつつ(笑)。
──1巻の時点で、桜庭はガンプラのコンテストに出すためにひたすらヤスリをかけているわけですよね。
そうですね。桜庭は今までずっと1人でガンプラを作ってきて。自分の中で趣味として完結してたんだけど、今の自分の力がどれほどのものなのかとちょっと気になりだしたところ。
──“力”。
“ガンプラ力”ですかね。そんな言葉あるのかわからないですけど(笑)。ガンプラ力を試したいと思ってコンテストに応募してみた。あとはガンプラ用のTwitterアカウントを作ってみたり、そこからガンプラ界では有名な、憧れのモデラーである神作とのつながりが生まれて。そうやって自分が何かをしたいなと思って動き出してみたら、いろんなものが回転し始めることってあると思うんです。逆に何かが始まるときっていうのは、その人自身がまずは1歩踏み出したり、行動しないといけない。そういったメッセージみたいなものも、描いてる側としては意識として入れています。桜庭の成長物語……とまでは言わないですが、ガンプラマンガとしてだけではなく、そういった面白さも感じていただければと。
──ゆきもりさん自身もガンプラ好きを隠していたけれど、1歩踏み出したことによって世界が広がったといいますか。桜庭と被ってくるところもあるように思います。
そうですね。意識していたわけではなく、偶然僕もそうだったという感じではあるんですが。本当は好きなのにそのことを隠してる人って、実は結構いるんじゃないかと思うんです。僕も高校生ぐらいのときは、作ったガンプラを綿を敷いたキレイな箱に入れて、「○○年作」と書いたプレートを貼り付けてしまっておいて。それをたまに見返して1人で満足する、そういうことをずっとやっていたんです。今となっては真逆の状態ですが。共通の趣味を持った人と接してみると、それまでの自分の感覚との変化も生まれますし、新しい楽しみ方も発見できますし、面白いですね。
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今をときめく人気俳優・桜庭陸人。
金も地位も名声も、すべてを手にしたスーパースターには、1つだけ──秘密があった。
絢爛豪華なマンションの一室で、防塵マスクに身を固め、ニッパー片手に彼が夜な夜な耽るのは……ガンプラ作り!
彼の脳内に広がるは「機動戦士ガンダム」のもう1つの(?)物語、「ジャブローズ・スカイ」!
いつかこの手で完成させるぜ、“オレ設定”のモビルスーツ!
読めばきっと作りたくなる、ゲッサン×ガンプラストーリー!!
ゆきもり
2012年から2013年にかけて、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載されていた「プラモ男子とプリチー女子」の原作を担当。ガンプラ好きな40歳の男と、20歳の天然美女との恋を描いた。現在はゲッサン(小学館)にてガンプラを題材にしたマンガ「ガンプラ戦記 ジャブローズ・スカイ」を連載中。