コミックナタリー PowerPush - アニメ「はじめの一歩 Rising」

「戦後編」収録! 森川ジョージがアニメを解説 コメンタリー収録現場潜入レポートもお届け

猫田が登場したとき、戦後編は面白くなると確信した

──第3期後半における、もうひとつの柱が「戦後編」です。原作でもファンの支持が高いエピソードですが、描こうと思ったのはいつ頃ですか?

森川ジョージ

いつぐらいだろう……もうずいぶん前ですよ。僕は連載が打ち切り続きのマンガ家だったので、「はじめの一歩」が始まったときも、まったく自信がなかったんですよ。でも連載が続いていくうちに、ちょっとずつ俯瞰で見られるようになって、ボクシングのことをもっと調べなきゃ、と思いはじめたわけです。すると、文献に載っている戦後のボクサーの話が、面白いんですよ。1日に4試合やったり、1週間前に減量を指示されるとか。今から考えればヒドイ話なんですけど、当時は何でもアリなわけです。で、戦後の話を描いてみたいと担当者や友人に話してみたところ、「ちょっと人気があるからって天狗になるなよ」と。

──反対されたわけですか?

いまから25年前ですから、主人公不在のマンガというのが当時の週刊少年マガジンでは考えられなかったんです。ところが、たまたま15巻ぐらいで宮田がタイに行くエピソードがあって。あの話はもともと2話ぐらいで終わる予定だんですけど、1話目でスゴく人気がハネて、単行本1冊分ぐらい続いたんです。あの辺りから、もしかしたら一歩のいない戦後編を描けるんじゃないか、と思いましたね。とは言え、役者が足りなかったんです。猫田がまだいませんでしたから。彼が登場したときに、これで戦後編を描いたら面白くなると確信しました。

──猫田が初登場したとき、若き日の凛々しい姿も浮かんでいたんですか。

戦後編より、若かりし猫田。

おぼろげですけど、あったと思います。猫田の顔のディテールは、ふざけて描きましたけどね(笑)。戦後編とのギャップは、自分で描いていて面白かったです。戦後編の猫田は、すごく人気がありましたよ。

──戦後編を描くにあたり、気を付けた点はありますか?

戦争の悲惨さを前面に出すのはやめよう、というのは肝に銘じて描きました。戦争の悲惨さを描きたいのではなく、「みんな逞しく生きていたよ」ということを表現したかったので。それと、当時のボクシング事情もメチャクチャだったんだよ、と(笑)。

教える立場からすれば、一歩というボクサーは快感

──「戦後編」で描かれた鴨川会長のボクシング・スタイルは、現在の一歩へとつながる部分があります。

戦後編より、若かりし鴨川会長。

そうですね。これもあまり話せないんですけど、なぜ鴨川会長が一歩に思いを託しているのか……ということ。たぶん鴨川会長も、一歩と自分が似ていてうれしいんじゃないですかね。鷹村は世界チャンピオンの喜びを味わわせてくれた弟子だけど、鴨川会長とは似ても似つかないスタイルですから。鴨川会長自身も、一歩の不器用だけど一生懸命なところは、やっぱり自分に似ていると思っているはず。しかも、一歩は教えるほうとしたら快感ですよ。鷹村が1勝したところで、マスコミとか周囲の評価は「当たり前」ですから。「世界チャンピオンになって当然。だってアイツ持ってるから」で終わり。だけど一歩が4回戦で1勝したら、「アイツを勝たせるなんてスゴいトレーナーだな」ってなりますからね。

──素直で真面目ですし、教えたら教えた分だけ吸収する。教えるほうとして気持ちがいいでしょうね。最後に「はじめの一歩」ファンの方々へ、メッセージをお願いします。

森川ジョージ

アニメ「はじめの一歩 Rising」については、本当にクオリティの高いものができています。これまで原作を超えたアニメがいくつあるのかと言われれば、僕はとても少ない気がしていますが、戦後編の西村聡監督による演出は僕の原作を超えていると思います。聞けば、第3期は特にいろいろな人たちをスタッフさんに揃えてくれたそうです。戦後編のためだけのスタッフさん、ボクシングの動きのシーンのためのスタッフさん、という風に声をかけて集め、さらに洗練してくれたのだとか。声優さんたちについても、アニメに詳しい人たちから「信じられない」と言われるぐらい豪華です。大勢の方たちがそこまで本気で作ってくれたものなので、僕も安心して観ていましたし、みなさんにもぜひ楽しんでほしいです。

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森川ジョージ×喜安浩平(幕之内一歩役)×小山力也(鷹村守役)
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あらすじ

劣勢続きの一歩を救ったのは進化したデンプシーロールだった。カウンターが成立しない新型デンプシーロールを見ていた宮田にも戦慄が走る。会場内に巻き起こる怒涛の幕之内コールを背負って、一歩の拳が沢村を追い詰める。対し沢村も鮮血に顔を赤く染め、反則覚悟の攻撃で一歩に噛み付いていく──!ぶつかりあう活人の拳と殺人の拳。長き闘いに終止符が打たれようとしていた。(第13話より)

森川ジョージ(モリカワジョージ)

1966年1月17日東京都生まれ。1983年週刊少年マガジン(講談社)にて「シルエットナイト」でデビュー。1989年、ボクシングを題材に「はじめの一歩」を連載開始。同誌不動の看板作品と言われるほどの大ヒット作になる。同作は1991年に第15回講談社漫画賞の少年部門を受賞。2000年、2009年、2013年と3度にわたりアニメ化される。自身も熱狂的なボクシングファンとして知られ、趣味が高じてジムを経営しているほど。