コミックナタリー PowerPush - アニメ「はじめの一歩 Rising」
「戦後編」収録! 森川ジョージがアニメを解説 コメンタリー収録現場潜入レポートもお届け
アニメ「『はじめの一歩 Rising』Blu-ray & DVD BOX part II」が、本日8月20日にリリースされた。鷹村の世界タイトル2階級制覇をかけた「イーグル戦」、鴨川会長や猫田の青春時代を描いた「戦後編」など、人気の高いエピソードが収録されている。
コミックナタリーではリリースを記念し、原作者の森川ジョージへのインタビューを掲載。収録エピソードの原作にあたる部分を描いていた当時の思い出や、創作にまつわる秘話を教えてもらった。またBD&DVDに収録されているオーディオコメンタリーの収録現場にも潜入。森川と幕之内一歩役の喜安浩平、鷹村守役の小山力也による現場の空気感をお楽しみあれ。
文/ツクイヨシヒサ
森川ジョージ(原作者)インタビュー
アニメのデンプシーロールを観て「ああやって動くんだ」
──アニメ「はじめの一歩」も、好評のまま第3期を終えました。森川先生は、アニメシリーズ全体に関して、どのような感想を持っていますか?
アニメは、素晴らしいと思っていますよ。自分の手から離れた作品として観てますから。「動くとこうなるんだ」「こんな声で喋るんだ」という感じで楽しんでますけどね。例えばデンプシーロールにしても、自分の中では立体的に動かしてないんですよ。あくまで2次元で動いている。だから、アニメで初めてデンプシーロールを観たときは、「ああやって動くんだな」って思いましたよ。僕はジャック・デンプシー(元ボクシング世界ヘビー級王者)の動きをアタマに入れて描いているので、ストロークが短いんです。もっと「カッカッカッ……」というリズム。でも、アニメでは「グルングルン……」って描いているじゃないですか。僕がマンガの中で派手に描いているのを忠実に再現してくれているんだけど、「ああ、こうなるんだ」という発見はありましたね。
──今回ボックス化される第3期の後半では、鷹村とイーグルの世界戦がひとつ目の大きな柱となっています。鷹村の対戦相手として、華やかな経歴を持ち、才能も人格も優れたイーグルというキャラクターを登場させた理由は?
あれは当時、現実にオスカー・デ・ラ・ホーヤという強者がいたので、単純に鷹村守というボクサーと戦ったらどうなるんだろう……という発想から出たものでした。イーグルは、もろにデ・ラ・ホーヤがモデルです。オリンピックのメダリストとして、鳴り物入りでプロボクシングの世界へ入ってきて、最終的に史上初の6階級制覇をしてるんです。
──心技体のすべてが備わったイーグルを相手に、もしかしたら鷹村が負けてしまうのではないか、という不安はありませんでしたか?
それは、ありましたよ。話をガッチリと決めて描いてないですからね。鷹村が勝つならどうなるかみたいに考えていて。でも結局、デ・ラ・ホーヤがモデルですから。どうしても相手のほうが強い。こりゃ勝てないぞ、と思いながら描いていました。
マンガ家と編集者は、ボクサーとセコンドの関係と同じ
──苦戦を強いられつつも、貪欲に勝利を目指す鷹村。これまで以上に、彼の必死さが見えた試合でした。
鷹村の必死さというのは、僕にとって必要な部分で……。これは深くは言えないんですけど、「今これを描いておかないと」っていうことなんですよ。僕だけが長いスパンで物語を知っているので、見せておきたかったというか……。よく言うんですけど、マンガ家ってタイムマシンを持ってて、作品世界の未来まで見てきてると思うんですよ。僕も大体こうなるっていうのを自分で見てきて、面白いことはわかっているので、あとはどう読者へ伝えるかだけなんです。
──では今後、連載が続いていく中で、いつか鷹村の描写に関する意味がわかると?
そうです、はい。「はじめの一歩」はスポ根マンガで一本気な感じになっているんですけど、意外と伏線があって……。例えば、ブライアン・ホークのセコンドがミゲルだったじゃないですか。そのミゲルが戦後編に登場する。あれも全部、決まっていたことなんですけど、先に言えないですよね。いま答えられるのはここまでです、ごめんなさい(笑)。
──なるほど。イーグル戦は、鷹村と鴨川会長の絆が再確認された試合でもありました。ただ、鴨川会長の中には、どこかに「鷹村は天性のボクサーであり、自分がゼロから育てたわけではない」という意識があるようですが。
ああいう関係は、ボクシングだと思わなければわかりやすいんですよ。プロの世界はすべて同じ。マンガ家と編集者だって、ボクサーとセコンドの関係とほぼ同じなんです。マンガの世界では、最初に新人マンガ家さんが来ると担当が付きますよね。その新人さんがたまたま天才だったら、編集者は何もできないです。変にイジってしまうと、天才が描く作品の人気が落ちるから。これが鷹村と鴨川会長の関係です。
──天才のおかげで、編集者は「ヒット作を生んだ編集者」になれたと?
ええ。でも、ヒット作を生んだ編集者は自信がつくから、今度は「頑張ればなんとかなりそうな新人マンガ家さんを男にしてやろう」と思う。「あの天才と勉強したことを教えよう」となるわけです。鷹村と一歩と鴨川会長の関係はそういうものです。野球でもサッカーでも、ほぼプロの世界はそうじゃないかな。天才に関しては、環境を整えるだけ。だから鴨川会長は鷹村にボクシングを与え、鷹村はそのことにすごく感謝している。対して一歩は、人を殴ることすら知らない状態から初めて、「すべて会長のおかげです」というボクサーですから、感謝の仕方が違ってくる。ただし、ここでも鷹村と鴨川会長のやりとりを一歩が見ている、という事実が重要なんです。「はじめの一歩」という作品は、鷹村の話になったり宮田の話になったり、いろいろとスピンオフみたいになりますけど、全部が幕之内一歩という主人公のためですから。一歩が常に「人と人との関わり方」を見ていることが大事なんです。
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- アニメ「『はじめの一歩 Rising』Blu-ray & DVD BOX part II」 / 2014年8月20日発売 / バップ
- Blu-ray BOX / 19440円 / VPXY-72911
- DVD BOX / 16200円 / VPBY-10966
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Blu-ray BOX & DVD BOX共通特典
- 音声特典
- オーディオコメンタリー(2話分収録)
森川ジョージ×喜安浩平(幕之内一歩役)×小山力也(鷹村守役)
- 封入特典
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- フルカラーブックレット(森川ジョージインタビュー、宍戸淳監督&西村聡監督対談インタビュー収録)
- 連動特典全プレ応募券
あらすじ
劣勢続きの一歩を救ったのは進化したデンプシーロールだった。カウンターが成立しない新型デンプシーロールを見ていた宮田にも戦慄が走る。会場内に巻き起こる怒涛の幕之内コールを背負って、一歩の拳が沢村を追い詰める。対し沢村も鮮血に顔を赤く染め、反則覚悟の攻撃で一歩に噛み付いていく──!ぶつかりあう活人の拳と殺人の拳。長き闘いに終止符が打たれようとしていた。(第13話より)
森川ジョージ(モリカワジョージ)
1966年1月17日東京都生まれ。1983年週刊少年マガジン(講談社)にて「シルエットナイト」でデビュー。1989年、ボクシングを題材に「はじめの一歩」を連載開始。同誌不動の看板作品と言われるほどの大ヒット作になる。同作は1991年に第15回講談社漫画賞の少年部門を受賞。2000年、2009年、2013年と3度にわたりアニメ化される。自身も熱狂的なボクシングファンとして知られ、趣味が高じてジムを経営しているほど。