「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」 PR

「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」特集 喜安浩平(作・演出)インタビュー|“誰よりも一歩を知っている人物”が語る、舞台版「はじめの一歩」の魅力

連載30周年を超えた今なお、週刊少年マガジン(講談社)の看板作品として変わらぬ人気を誇るボクシングマンガ「はじめの一歩」。1月31日から2月9日にかけて東京・品川プリンスホテルのステラボールにて、待望の舞台版が上演される。その名も「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」。

舞台化を記念し、コミックナタリーでは脚本と演出を担当した喜安浩平にインタビューを依頼。TVアニメ「はじめの一歩」で主人公・幕之内一歩役を演じた喜安が本作に込めた思いとは何か。舞台版ならではの魅力や難しさ、キャストやスタッフたちの努力や工夫など、余すところなく語ってもらった。

取材・文 / ツクイヨシヒサ 撮影 / ヨシダヤスシ ヘアメイク / 齊藤沙織

森川ジョージからの要望は「喜安くんが脚本を書くこと」

──今回、まず周囲を驚かせたのはTVアニメ版で主人公の幕之内一歩役を演じた喜安さんが、作・演出を担当されるということでした。

喜安浩平

そうですね。最初にお話をいただいたのは一昨年の最後のほうだったかな。詳しく覚えてなくて申し訳ないんですけど、「はじめの一歩」を舞台化するという話が浮上していると。ついては、原作者である森川ジョージ先生からの要望は1点、「喜安くんが脚本を書くこと」だったそうなんです。で、もしその条件で企画を立ち上げるならと、プロデューサー陣が話し合われた結果、演出も僕がやったほうがいいだろう、ということになったらしく、今回は作・演出としてオファーをいただきました。

──率直なご感想は?

うれしかったんですけど、でも最初はとにかく怖かったですね。原作の大きさというか、連載の年数が長いだけではなくて、週刊少年マガジンという1冊の少年誌をずっと代表してきた作品ですから。僕はその巨大さを一度、TVアニメの一歩役で体感していたわけですけど、昔は若かったので、もうとにかく一生懸命にやって玉砕していただけだった。怖さを感じているヒマもなかったわけです。でも、40代になった今はいろいろなことを経験して知ったこともありますし、改めて「はじめの一歩」に関わる怖さを感じてしまいました。

──しかも森川先生からのご指名だと。

いやあ本当にキツいですよね(笑)。森川先生にご指名を受けたうえに、それが舞台化の条件だとなると、もし僕が断わった場合は企画自体が消滅してしまうかもしれないわけですから。「はじめの一歩」に恩返しをしたいという気持ちはあるものの、果たして自分に背負いきれるだろうか、ということが真っ先に浮かんできましたね。

「はじめの一歩」イラスト。©森川ジョージ/講談社

──長期連載である「はじめの一歩」が、今このタイミングで舞台化された理由は何だと思いますか。

30周年の節目を迎えたというのは、もちろん大きかったと思います。あとはまあ、たまたま僕が(いろんな作品の)脚本を書き、演出をし、多少なりとも世間で名前を見るようになったことが、先生の中で重なったんじゃないでしょうか。基本的に「はじめの一歩」って、マンガ以外のメディア展開に慎重な作品だと思うんです。実際に森川先生とお話をしたときも、先生ご自身は「白黒の原稿の中で勝負をしたい」という気持ちをお持ちだとおっしゃっていて、必ずしもさまざまな二次展開を望んでいるわけじゃなかったみたいです。ただ、今回のお話に関しては、僕がやると決まった時点で、もう何もご意見を出されないですね。脚本も演出も「すべて喜安くんに一任している」とおっしゃっていただいています。

──ネタバレになってしまうので細かく言えませんが、舞台化するにあたり、ストーリーをここまでで区切ろうというのは、初めから決まっていましたか。

いえ、最初のプランではもうちょっとコンパクトなボリュームの作品になる予定でした。しかし、一種のハッピーエンドというか、達成感やカタルシスを得るところで終わらせてはどうかというご意見が大きくなっていくなかで、だんだんと膨らんでいった。そうなると、「一歩」の中で大きなクライマックスというか、何かを達成した明確なマイルストーンというのは、やはり限られているのかなと。そうやって決まっていった感じです。

作品の芯にあるものを曲げるのは、僕の過去も否定することになる

──世間では一般的に、少年マンガの舞台化というと、女性ファンが多いイメージが定着しています。「はじめの一歩」は、どちらかというと男性ファンが多い作品ですよね。

「はじめの一歩」1巻

おっしゃるとおりですね。舞台というジャンル全体がそもそも、6:4なのか7:3なのか、比率はわかりませんけど、女性のお客様のほうが多い。一方で、「一歩」が男性ファンの多い作品であることは確かなことで、でもこればかりは考えても仕方ないことだなと思っています。劇場まで来てくださる女性にウケようと思ってなにかをネジ曲げてしまってもいけない。説明するのが難しいんですけど、ほかの誰かがやるんだったら、そういうことがあってもいいのかなと、たぶんみなさんも納得されると思うんです。でも、僕がそれをやってしまったら、おそらく納得できないんじゃないかと思うんです。さっき「怖かった」と言ったのは、そういうことなんです。TVアニメで幕之内一歩を演じてきた人間が、「はじめの一歩」の空気やテイスト、作品の芯にあるものを曲げるというのは、僕の過去も否定することになるので。

──安易な作り方はできないと?

もちろん、お客様を満足させるような努力は最大限いたします。あるいは、脚本家・演出家として、どこかで妥協したり、何かのテクニックを用いたり、折り合いをつけなきゃいけない部分もあるでしょう。ただ、それが「はじめの一歩」という作品を好きな方々が信じている部分とは異なる思想で表現されてしまったらいけないとも思う。例えば、ものすごく極端にキラキラした舞台にしてしまったら。それは総じて舞台を観に来てくれるお客様にとっては納得のいくものになるのかもしれないですけど、あえて「はじめの一歩」を舞台化するという難問に挑んでいる立場としては、簡単に手を出してはいけない手段だという気がするんです。

喜安浩平

──なるほど。先ほど「作品の芯にあるもの」という言葉が出てきましたが、それは具体的にどんなものですか。

やはり、森川先生が「人間」を描こうとしていることだと思います。そのキャラクターの人生を描こうとしている。だから嘘がない。もちろんマンガだし、物語だから、盛り上げるためにはいろいろな山や谷があるんですけど、それが取って付けたようなものじゃなくて、簡単にぶれないリアリティがある。例えば、一歩と同じジムに所属する先輩の青木勝や木村達也のように、ずっと報われないままのキャラクターがいたりする。たまに突然フォーカスが当たるときもありますけど、基本的には試合に勝ったり負けたりの繰り返し。でも、だからこそ感情移入してしまうんですよね。彼らがどんな人生を送るのか、作品の中に、結末の見えているキャラクターが1人もいない。