ナタリー PowerPush - ヘルタースケルター

岡崎京子担当編集が明かす連載当時と、蜷川実花監督が語る原作への思い入れ

まったくもってリアリティのある話にしか見えない

──映画のビジュアルで印象的だったものとして、何度も登場するりりこの部屋があります。蜷川さんの事務所は、りりこの部屋のイメージそのままですね(※インタビューは蜷川の事務所ラッキースターで行われた。赤い壁紙、目の壁紙など装飾の雰囲気が非常に近い)。

蜷川監督

部屋は個人の空間なので、どんなものでもありえるじゃないですか。「趣味の問題だから」で片づけられる。だからあれが突飛な部屋だとは全然思ってなくて、だってこの家がそうですから(笑)、ある種理想の部屋というか。私は最初から最後までりりこにシンクロしまくっていて、初めて原作を読んだ時から「あるよなあ、こういうことって」と共感して読んでいたので、彼女がモンスターだとは一度も思わずに、どんどん自分に──部屋なんかはとくにそうですが──近い感じになっていったかなと思います。

──「あるよなあ」というのは、つまり原作にリアリティがあった?

全身整形や硫酸をかけるのはどうなんだって話もありますけど、それ以外ではまったくもってリアリティのある話にしか見えなかった。ありとあらゆるモデルの女の子たちがどれだけ大変な思いをしてそこに立っているかとか、突然いなくなっちゃうのもよくある話だし、あの世界をずっと見続けていたので、とてもリアリティのある話だと思って読んでいました。

編集のときに精神的にしんどくなった時期もあった

──ただ、りりこは撮られる側、蜷川さんは撮る側ですよね。シンクロは可能でしたか?

自分の体験になりますが、90年代に自分がデビューした時に女の子写真ブームというのがありました。当時は美大生でしたが、テレビに出た時に「女子大生カメラマン」ってなっていて。「そういうものなのかー!」と。

──(笑)。

美大生は美大生でしかないと思っていましたが、ある社会のメインストリームにいくと、「女子大生」ってことで商品価値がつくんだなとその時思いました。そんなこと関係ないつもりでいたから衝撃で。写真を撮る女の子が今ブーム、プリクラ、セルフポートレート、ナントカカントカ……みたいな時代に出てきたので、規模は違いますけど、その時のなんとなく消費される感じだったり、自分が話の中心にいるのに、全然真ん中を突いてこないで周りがああだこうだとこねくり回している距離感なんかは、「こう消費されるんだな」という実体験としてあります。

──「若い」+「女の子」のセットが消費の欲望に晒される……というのは映画「ヘルタースケルター」で撮っている世界そのものですね。

映画ではそうやって彼女たちを削り取っていくということを原作よりもしつこくやっていて、私は意識していませんでしたが、ある日、自分もこの職業じゃん! 自分も削り取る側なんじゃん! と気づいて、編集のときにちょっと精神的にしんどくなった時期がありました。反対側(撮る側)からいつも近くで見ていたモデルの子たちを思いだしつつ、私もそれに加担しているんだなと、当初思っていたよりシンクロしてしまいました。

──りりこを演じる沢尻エリカさんはさらに現在進行形でシンクロしているように見えます。

余談ですけど、エリカが休業して騒ぎになった時、私の家の前にも記者が張ってたりとか、空港で取り囲まれたりとか、「マジ!?」と思って(笑)。改めて、沢尻エリカが立たされている位置の大変さを感じました。この数百倍かと。

──そういう作品とのシンクロについて、沢尻さんと話し合ったりはしましたか?

りりこが記者会見を開くシーン。

「エリカも作品とシンクロすることは一杯あるでしょ?」という話はクランクインする前からしていました。記者会見のシーンで、他の役者さんが入る前に、ひたすら椅子がダーッと並んでいる前に2人で立ってみた時、「いろんな記者会見思いだすでしょ」と聞いたら「思いだすね……」と言っていて(笑)。「ここに立ってたんだもん、すごいよねえ」と、しんみり2人で撮影前に話しました。彼女には彼女にしか見えていない風景・背景というものがあるはずなので、そこは活かした方がいいなと思っていた気がします。

──映画にはそういった自己批評性が感じられました。

そんなつもりはありませんでしたが(笑)。なにかあるんですよね。

映画「ヘルタースケルター」

原作は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子によるマンガ。岡崎作品として、初の映画化となる。岡崎は1996年、交通事故に遭って以来、執筆活動は行なっておらず、「自分の作品が演者を通してどう昇華されていくのか、大変興味深く見守りたい」とコメントしている。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作品「さくらん」がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを果たした蜷川実花。本作の映画化に宿命を感じ、約7年の歳月を重ね、ついに念願を果たす。

試写会には、数々の著名人が足を運んだ。村上隆、向井理、松田翔太、熊田曜子、千秋、中田英寿など、多くの著名人がTwitterやブログでも絶賛のコメントを寄せている。一部のコメントは公式サイトに掲載されている。

大ヒット上映中!

あらすじ

芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる“事件”へと繋がっていく――。整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。美容クリニックの隠された犯罪を追う者たちの影がちらつく。さらには、結婚を狙っていた御曹司の別の女との婚約スクープ! 生まれたままの美しさでトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。そして、ついに……!
りりこが“冒険”の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?

キャスト

沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進、哀川翔、窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり

スタッフ

監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
テーマ・ソング:浜崎あゆみ「evolution」(avex trax)
エンディング・テーマ:AA=「The Klock」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:映画「ヘルタースケルター」製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
©2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」 / 2012年7月6日発売 / 1260円 / 祥伝社

沢尻エリカ主演×蜷川実花監督で映画化された、岡崎京子の傑作コミック「ヘルタースケルター」の映画・原作公式ガイドブック。 映画と原作コミックのシーンを比較する「場面比較集」や、桜沢エリカ、安野モヨコをはじめとする人気作家の豪華イラスト寄稿など、ここでしか見られない企画が満載。 監督、主演、主要キャストのインタビューから、後藤繁雄、中森明夫によるスペシャルコラムまで、映画と原作を同時に楽しめる充実の内容。 蜷川監督の撮影によるフォト満載。映画ファン、原作ファン必見の1冊!

ばるぼら「岡崎京子の研究」 / 2012年7月11日発売 / 1680円 / アスペクト

岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?

1980年代から1990年代半ばにかけて活動し「pink」「東京ガールズブラボー」「リバーズ・エッジ」「ヘルタースケルター」を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全6章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう。