ナタリー PowerPush - ヘルタースケルター

岡崎京子担当編集が明かす連載当時と、蜷川実花監督が語る原作への思い入れ

「すごい反響ですよ!」って言ったら「よかったね」って

──「ヘルタースケルター」連載時の反響はいかがでしたか。

最初から圧倒的な反響でした。第1話が載ったとき、アンケートもものすごい数がきて、読者の2人に1人は「すっごい良かった!」みたいな感じだったんじゃないかな。思わず岡崎さんに電話をした覚えがあります。それで「すごい反響ですよ!」って言ったら「よかったね」って。

──冷静すぎますね(笑)。この作品が載ることでフィール・ヤングの売り上げが上がった、みたいな具体的な動きは?

最初の連載時は部数に変化があった記憶はありませんが、「ヘルタースケルター」を再録したとき(2002年8月号~2003年4月号)ははっきりと上がりました。あれは雑誌的には成功だったと思います。

──たしかに「ヘルタースケルター」の評価は初回連載時よりも、事故後に読めない飢餓状態が続いてる時期にどんどん高まっていった覚えがあります。単行本化の作業にはぜんぜん入ってなかったんですよね?

「ヘルタースケルター」の最後、羽が舞うシーン。

大変な事故でしたから、単行本がどうこうという状況ではありません。祈る気持ちで岡崎さんの回復を待っていました。本としては出せないので、その前に雑誌への再録をお願いして、そのときにまたすごく反響があって、それで未完成ではあっても本として出させて欲しいとお願いしたんです。岡崎さんは単行本にする際に、加筆修正だけでなく、必ずといっていいくらい描き足しをします。でも、ヘルスケではそれができなかった。こちらで岡崎さんの意をくんで修正することも考えました。たとえば最後の羽が舞うシーン、本来だったら何かを描き足してたんじゃないかなと思ったんです。でもそこも含めて、岡崎さんに聞いたら「やらなくていい、このままでいい」ということだったので加筆はなし。明らかなベタの塗り忘れなどを除き、ほぼそのままの形で世に出すことになりました。

ちなみに「森」を単行本にしたときは、もう一切手を加えていません。明らかにトーンが貼ってなくても、ベタの塗り忘れっぽいところがあったりしても、それはそれでいいじゃないかということになったんです。

実はかなり普遍的な作品だったんだなと思います

──「ヘルタースケルター」の装丁は野本卓司さんでした。

それは岡崎さんから野本さんでという話だったからだと思います。「リバーズ・エッジ」が野本さんでしたから、これも野本さんかなーって話しあったと記憶してます。

「リバーズ・エッジ」から登場している吉川こずえ。

──「ヘルタースケルター」には「リバーズ・エッジ」から吉川こずえが引き続き登場していてある種の連続性を感じさせますし、岡崎さんの中で明確に「リバーズ・エッジの次の代表作を」という意志があったのではないかと考えられます。それが野本さんに装丁を頼むということにつながってるのではないでしょうか。吉田さんから見て「ヘルタースケルター」は代表作になったと思いますか?

岡崎さんの作風にはいろんな路線がありますから、どれが代表作かは難しいです。その中で「pink」以降のちょっとヘヴィーな路線の中では、「リバーズ・エッジ」と「ヘルタースケルター」は傑作だと思います。ただ、この前「森」を本にしたとき久しぶりに「森」の第1話を読んだら、「リバーズ・エッジ」から「ヘルタースケルター」の流れより、もう一段高いところに届いていて、すごいところに来てたんだなと思いました。やっぱりこの人全然違う、すごい才能だなぁと。あのまま描いていたらどんな作品を描いていたんだろうと思うと、ちょっと震えます。

──それでは最後に、岡崎さんのマンガの魅力はどこだと思いますか?

読むことでその人を変える力があるところではないでしょうか。前に小説家の辻村深月さんが、岡崎作品に出会ったことが小説家になったことと関係しているといったようなことを書かれてたと思うんですが、そういう何かをする引き金というか、人を動かす何かがあるような気がします、岡崎さんの作品を読むと、何かをやりたくなりませんか。自分の中で何かが触発されるというか。雑誌作ってみようとか、絵を描いてみようとか、東京へ出ようとか、行動させる何かがある気がするんです。

吉田朗

岡崎さんのマンガは口当たりがよいわけではないと思うし、ポヤーンとした頭でどれマンガでも読むか、って内容ではないですよね。ちょっと気合いをいれないと読めない。そういう作品は普通はなかなか売れないはずなんですけど、16年新作を描いてなくてもこうして話題になるし、実際に本が売れているのはすごいことです。僕は以前は岡崎さんは時代の空気を象徴する作家だと思ってましたが、読み返していると、こういうマンガっていま他にないなという感じがすごくして、かといって古い感じでもなくて、実はかなり普遍的な作品だったんだなと思います。そしてそれは、岡崎さんが全部自分で作ったものなんです。僕はそれを受け取って載せていただけで、ただただお世話になっただけだなあと思います。

映画「ヘルタースケルター」

原作は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子によるマンガ。岡崎作品として、初の映画化となる。岡崎は1996年、交通事故に遭って以来、執筆活動は行なっておらず、「自分の作品が演者を通してどう昇華されていくのか、大変興味深く見守りたい」とコメントしている。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作品「さくらん」がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを果たした蜷川実花。本作の映画化に宿命を感じ、約7年の歳月を重ね、ついに念願を果たす。

試写会には、数々の著名人が足を運んだ。村上隆、向井理、松田翔太、熊田曜子、千秋、中田英寿など、多くの著名人がTwitterやブログでも絶賛のコメントを寄せている。一部のコメントは公式サイトに掲載されている。

大ヒット上映中!

あらすじ

芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる“事件”へと繋がっていく――。整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。美容クリニックの隠された犯罪を追う者たちの影がちらつく。さらには、結婚を狙っていた御曹司の別の女との婚約スクープ! 生まれたままの美しさでトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。そして、ついに……!
りりこが“冒険”の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?

キャスト

沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進、哀川翔、窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり

スタッフ

監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
テーマ・ソング:浜崎あゆみ「evolution」(avex trax)
エンディング・テーマ:AA=「The Klock」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:映画「ヘルタースケルター」製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
©2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」 / 2012年7月6日発売 / 1260円 / 祥伝社

沢尻エリカ主演×蜷川実花監督で映画化された、岡崎京子の傑作コミック「ヘルタースケルター」の映画・原作公式ガイドブック。 映画と原作コミックのシーンを比較する「場面比較集」や、桜沢エリカ、安野モヨコをはじめとする人気作家の豪華イラスト寄稿など、ここでしか見られない企画が満載。 監督、主演、主要キャストのインタビューから、後藤繁雄、中森明夫によるスペシャルコラムまで、映画と原作を同時に楽しめる充実の内容。 蜷川監督の撮影によるフォト満載。映画ファン、原作ファン必見の1冊!

ばるぼら「岡崎京子の研究」 / 2012年7月11日発売 / 1680円 / アスペクト

岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?

1980年代から1990年代半ばにかけて活動し「pink」「東京ガールズブラボー」「リバーズ・エッジ」「ヘルタースケルター」を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全6章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう。