ナタリー PowerPush - ヘルタースケルター

岡崎京子担当編集が明かす連載当時と、蜷川実花監督が語る原作への思い入れ

台詞もストーリーも同じなのに、まるで違う世界

──当時の話を伺う前に、まず原作の連載担当者から観た映画「ヘルタースケルター」の感想をお聞きしたいです。こうした原作ものは、原作ファンからは原作のままやってくれと言われる場合も多いと思います。

初めて観たときは、蜷川さんのパワーに圧倒されました。台詞が同じで、ストーリーも同じなのに、まるで違う世界になっているなんて、監督の世界観がいかに揺るぎないかということでしょう。それはすぐれたクリエイターに共通することだと思います。そして、原作の静かな感じとは違うけど、岡崎さんへの敬意というかリスペクトは感じました。敬意を持ちつつ、新しい世界になっているのはすごいことです。岡崎さんやほかの編集者の評判はまだ聞いていませんが、僕はよかったと思いますね。作品としても良かったし、何よりあの映画が実現したのはよかったと。

祥伝社から発売された「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」には、原作と映画の場面比較集も掲載。

──映画化が決まってから単行本の売れ行きは変わりましたか? 2003年当時の記事を読むと、発売から約2カ月で8万部を突破していたようでしたが。

今は30万部を超えてます。たしかに映画化が発表されてからはすごい勢いになりましたけど、それまでもずっと増刷はしていたんですよ。映画化発表の前で15万部を越えていたと思いますから。岡崎さんのマンガは、クリエイターの人が紹介してくれたり、ファンの方がブログで書いたり、いろんな人がいろんなところで取り上げてくれるので、その都度新しい読者が生まれているのではないでしょうか。

──連載前に「ヘルタースケルター」につながる予兆みたいなものはなかったですか。

その前っていうと、うちでいうと、「私は貴兄のオモチャなの」に収録されてる作品を描いてもらっていた頃だと思いますけど、内容は結構ヘヴィーだったと思いますが、テーマ的にどうこうっていうのは僕にはわかりません。その辺はもっとトータルに岡崎作品を論じている方にきいた方がわかるのではないでしょうか。

主人公が死んじゃうと思ってたら死んでなかった、よかった

──「ヘルタースケルター」の連載にあたって、事前打ち合わせはどんな風でしたか?

岡崎さんの場合、事前打ち合わせとかはないです。

──しかし以前、AERAの2003年6月30日号に載ったインタビューで、吉田さんは『あの作品は“未完”という形の完結。最初に聞いていたプロットとは全然変わったけど……』と答えています。これは最初にプロットを聞いていたということですよね。

うーん、結末がうんぬんって話は記憶が曖昧なんです。萬(共同経営者)に聞いたら、原稿を受け取ったときに僕が「主人公が死んじゃうと思ってたら死んでなかった、よかったー」と話していたらしいんですね。だから事前に岡崎さんから、主人公が死ぬかもしれない、みたいな話を聞いていたのかもしれません。すみません、僕自身はよく覚えていなくて。今でもよかったと思いますね、主人公が死ななかったというのは。ただそれは岡崎さんが自分で決めたことで、僕がどうこう言った話ではないんです。

──「ヘルタースケルター」は第1部(1995年7月号~9月号)、第2部(1995年11月号~1996年4月号)ときて、第3部まである予定だったと言われています。実際に単行本に収録されたのは第2部まででした。

その3部構成というのも僕の記憶は曖昧なんですよ、そういう話をきいたような気もしますが、はっきり覚えていません。

「森」第1話が収められた「岡崎京子未刊作品集 森」。

──短期集中連載の「森」(1996年6月号から全3話予定だったが事故により1話で中断)が終わったらまた第3部を始める予定だとか、そういう話はなかったんですか?

岡崎さんには引き続き作品を描いてもらおうと思ってましたし、岡崎さんの中で「ヘルタースケルター」の続きみたいな案があったのかもしれないですけど、僕には作品をどうしてほしいっていうのはなかったと思います。基本的に、岡崎さんが描いてくれたものを受け取って載せるだけですから。ただ、常に新しい作品を描いてほしいという気持ちは強くありました。「ヘルタースケルター」が終わったあとにすぐ「森」の連載を頼んでますからね。普通はあれだけ力のこもった作品を描いてもらったら少し休んでもらうはずですが、そういうことをまったく考えてなかった。今にして思えば本当に無理をお願いしていました。そしてよく描いてくださったと思います。第1部と第2部のあいだにも休みはほとんどなく、「BABY IN ACTION GO!! GO!! GO!!」(フィール・ヤング1995年10月号)を描いてもらっています。

──もし「ヘルタースケルター」に続きがあったとしたら、最後のコマにある“to be continued”の続きが描かれたんですかね?

それはご本人しかわからないことですね。

シュークリームの棚に保管されていた当時のフィール・ヤングには「THE ENDにするかTo be continuedにするか」と書かれた付箋メモが。

映画「ヘルタースケルター」

原作は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子によるマンガ。岡崎作品として、初の映画化となる。岡崎は1996年、交通事故に遭って以来、執筆活動は行なっておらず、「自分の作品が演者を通してどう昇華されていくのか、大変興味深く見守りたい」とコメントしている。監督は、世界的フォトグラファーであり、初監督作品「さくらん」がベルリン国際映画祭に正式出品、大ヒットを果たした蜷川実花。本作の映画化に宿命を感じ、約7年の歳月を重ね、ついに念願を果たす。

試写会には、数々の著名人が足を運んだ。村上隆、向井理、松田翔太、熊田曜子、千秋、中田英寿など、多くの著名人がTwitterやブログでも絶賛のコメントを寄せている。一部のコメントは公式サイトに掲載されている。

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あらすじ

芸能界の頂点に君臨するトップスターりりこ。しかし、りりこには誰にも言えない秘密があった――。彼女は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもの。その秘密は、世の中を騒然とさせる“事件”へと繋がっていく――。整形手術の後遺症がりりこの身体を蝕み始める。美容クリニックの隠された犯罪を追う者たちの影がちらつく。さらには、結婚を狙っていた御曹司の別の女との婚約スクープ! 生まれたままの美しさでトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。そして、ついに……!
りりこが“冒険”の果てに辿りつく世界とは? 最後に笑うのは誰?

キャスト

沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏(友情出演)、寺島進、哀川翔、窪塚洋介(友情出演)、原田美枝子、桃井かおり

スタッフ

監督:蜷川実花 脚本:金子ありさ
原作:「ヘルタースケルター」(祥伝社フィールコミックス)
音楽:上野耕路
テーマ・ソング:浜崎あゆみ「evolution」(avex trax)
エンディング・テーマ:AA=「The Klock」(SPEEDSTAR RECORDS)
製作:映画「ヘルタースケルター」製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント シネバザール
配給:アスミック・エース
©2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

「ヘルタースケルター 映画・原作 公式ガイドブック」 / 2012年7月6日発売 / 1260円 / 祥伝社

沢尻エリカ主演×蜷川実花監督で映画化された、岡崎京子の傑作コミック「ヘルタースケルター」の映画・原作公式ガイドブック。 映画と原作コミックのシーンを比較する「場面比較集」や、桜沢エリカ、安野モヨコをはじめとする人気作家の豪華イラスト寄稿など、ここでしか見られない企画が満載。 監督、主演、主要キャストのインタビューから、後藤繁雄、中森明夫によるスペシャルコラムまで、映画と原作を同時に楽しめる充実の内容。 蜷川監督の撮影によるフォト満載。映画ファン、原作ファン必見の1冊!

ばるぼら「岡崎京子の研究」 / 2012年7月11日発売 / 1680円 / アスペクト

岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?

1980年代から1990年代半ばにかけて活動し「pink」「東京ガールズブラボー」「リバーズ・エッジ」「ヘルタースケルター」を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全6章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう。