コミックナタリー Power Push - 弐瓶勉×「ゴースト・イン・ザ・シェル」
R・サンダース監督と同じく、押井守版「攻殻機動隊」直撃世代! 弐瓶勉が語る“マンガを映像化すること”
劇場版「BLAME!」は原作とかなり大胆に変えた
──その「BLAME!」の映画が、ついに完成したそうですね。
僕が参加したのは最初の脚本の打ち合わせからなんですけど、一昨年の10月ぐらいには会議を始めていましたね。ちょうど「シドニア」の連載が終わって自由に時間が使えたので、月2回、多いときは毎週参加して、キャラデザとかもいろいろやりました。ちなみに映画は、原作と全然ストーリーが変わっています。
──そうなんですか!
映画の尺に収めるために原作のどこかを切り取って作るという話もあったんですけど、やっぱりちゃんと1本完結した話を作らなきゃと思って。20年前に描いたマンガなのでいろいろ不備もあるし、そこを自分で修正しつつ、リメイクする感じで話を作り直しました。なので主要なキャラはちゃんといるし、原作にあるシーンをつなぎ合わせたりはしてるんですけど、物語としてはオリジナルです。
──では、原作を読んでいても結末はわからない?
ええ。最後まで楽しめるはずなので期待していただければ。今年5月20日公開です。「ゴースト・イン・ザ・シェル」とも再び「SFコラボナイト」のような企画ができるかもしれないと思えば、いいタイミングですね。
ここまで来たら東亜重工は出すしかないですね
──この春、相次いで公開される「ゴースト・イン・ザ・シェル」と「BLAME!」が、今の中高生がSFというものに興味を持つ入り口になってほしいですね。
そうなってくれたらいいですね。まだまだSFって一部の人の趣味って感じじゃないですか。もっと広がってほしいんです。新しい連載もそういう思いで描いています。
──新連載の「人形の国」は雪と氷に覆われた世界が舞台なんですね。
ええ、極限状態です。「ナウシカ」とかもそうですけど、酸素マスクとかの装備をちゃんとしてないと死んじゃうような環境のマンガを描きたかったんです。
──昨年、コミックナタリーで「人形の国」の読み切り掲載の記事を紹介したところ、すごく反響があったんです(参照:弐瓶勉、新作の伏線となる読切をヤンマガで発表!凍てつく世界描く「人形の国」)。コメントを読むと、凍った国というモチーフに反応している読者も多いようですね。
これまで黒い画面ばかりだったので、今回は白い世界にしてみました。ベタで塗りつぶすと、どうしても情報量が減っちゃうじゃないですか。以前はあえて黒い画面にしたかったから塗ってたんですけど、これまでさんざんやってきたので、もういいかなと思って。手も汚れるし(笑)。
──ヤンマガに掲載された読み切り版と新連載はどういう関係の話なんですか?
新連載は読み切りの続きで、1000年後ぐらいのお話です。読み切りの主要キャラも出てきますよ。物語の舞台はアポシムズというとても大きな人工の天体です。
──東亜重工も出ますか?
ここまで来たら東亜重工は出すしかないですね(笑)。「ブレードランナー」にもレプリカントを開発したタイレル社って出てくるじゃないですか。僕はそれを日本系の会社でやりたかったんです。「シドニア」も日本の文化に根付いた社会の未来を描いてるんですけど、やっぱり僕が日本人なので、何千年も経った地球の未来の話を描く場合、外国より日本の文化のほうが想像しやすい。なので、「人形の国」も日本人的な文化の要素が入った未来の話になっています。日本語も出てきますし。
「人形の国」はSFファン以外にもSFの面白さを広げられる作品にした
──今回、少年シリウスで連載することになったのは何かお考えがあったんですか?
僕は最初にマンガを投稿したのも週刊少年ジャンプ(集英社)でしたし、元々少年マンガを描きたかったという思いもあって月刊の少年シリウスになったわけです。
──ヤンマガに読み切りが掲載されたので、連載もヤンマガなのかなと思っていました。
週刊連載は僕のマンガの場合、ペース的に絶対無理ですね。あの読み切りは「人形の国」の連載準備をしているときにヤンマガでいろんな作家が短編を描く企画があって。依頼を受けてからその企画用に何か別の話はないか考えてみたんですけど、「人形の国」以外のことは何にも思いつかなかったから事前に準備していた話で1本描いちゃったんです。「すみません! 別の雑誌でやる連載の前日譚を描きます!」って(笑)。
──かなり前から長編として準備されていたんですね。
担当編集 原型の原型みたいな話は3年前ぐらいに伺っていて。そこからちょっとずつ形になっていったイメージがありますね。
準備期間は長かったですね。実際に描いてみたらだいぶ変わっちゃいましたけど(笑)。「シドニア」の連載が終わってから、特にこの2カ月間は年末年始もなく集中して原稿を描きました。それこそ、投稿作品を描くぐらいの勢いで部屋に閉じこもって。今日久々に外に出ましたし、人と話すのも久しぶりです(笑)。今朝、第1話の原稿が上がったばかりなんですけど、ちょっと見てみます?
──(原稿を見て)先程おっしゃっていた通り、ものすごく緻密な絵なのに白い!
トーンもほぼ1種類しか使ってないんです。色分けのトーンは使わないようにして。
──ヤンマガ版に登場したキャラクターもいますね。これはシリウスでじっくり読むのが楽しみです。筆致を細部まで味わいたいので、さらにひと回り大きい原画サイズでも読んでみたいですね。
担当編集 そういう声が多ければ、単行本化の際にぜひ検討したいと思います。
マンガ家を20年やってきて思うことは、SFというだけで食わず嫌いの人も多いし、一度趣味じゃないって思われると選択肢から外されちゃうんです。なので「人形の国」ではSFファン以外にもSFの面白さを広げていきたいですし、これからもそういう作品を描き続けていこうと思っています。
──本日は原稿が完成したばかりのところ、どうもありがとうございました。最後に改めて4月7日公開の「ゴースト・イン・ザ・シェル」にひと言お願いいたします。
原作ファンとしては、士郎さんの絵がいい感じで動いてくれたら、ということに尽きます。原作にあった設定、キャラクターや義体化・電脳化の技術が発達した近未来の世界観、ゴーストの概念といったものが全部ちゃんと生かされてるといいですね。期待しています。
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ストーリー
電脳技術が発達し、人々が義体(サイボーグ)化を選ぶようになった近未来。脳以外は全身義体の“少佐”が率いるエリート捜査部隊は、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバーテクノロジーを狙うテロ組織と対峙する。上司の荒巻大輔や片腕的存在のバトーと協力し、捜査を進めていく少佐。やがて事件は少佐の脳にわずかに残された過去の記憶へとつながり、彼女の存在を揺るがす事態に発展していく。
スタッフ / キャスト
監督:ルパート・サンダース
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」
出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、ピルウ・アスベック、桃井かおりほか
- 「ゴースト・イン・ザ・シェル」公式サイト
- 「ゴースト・イン・ザ・シェル」公式 (@ghostshell_JP) | Twitter
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©MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
- 「人形の国」第1話掲載「月刊少年シリウス4月号」 / 発売中 / 講談社
- 雑誌 750円
- Kindle版 750円
弐瓶勉(ニヘイツトム)
1971年福島県生まれ。1995年に「BLAME」がアフタヌーン四季賞で谷口ジロー特別賞を受賞。高橋ツトムのアシスタントを務めた後、1997年より月刊アフタヌーン(講談社)で「BLAME!」の連載を開始。セリフが極端に少ない作風と、背景をこだわった硬派な画風が人気を博した。2009年から2016年まで月刊アフタヌーンで「シドニアの騎士」を連載。同作はテレビアニメ化も果たした。2017年より月刊少年シリウスにて「人形の国」の連載をスタート。また劇場アニメ「BLAME!」の公開も控えている。
©1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
2017年4月6日更新