弐瓶勉が20年前に描いた、人類が駆逐される暗黒の遠未来。「BLAME!」は弐瓶自身が「台詞や説明が極端に少なく、物語の行間を読者の想像にゆだねがちな、いわゆる好き嫌いが分かれる漫画です」と言っている通り、読者に何度も読み、考え、想像することを要求する作品だ。しかし、その独特の世界観こそが読者を魅了し、「BLAME!」のノベライズ作家に立候補した冲方丁、劇場版の監督・瀬下寛之ら日本のクリエイターのみならず、海外の読者からも愛されてきた。
5月に2週間限定で公開され、最長7週にもおよぶロングランヒットとなった劇場アニメ「BLAME!」。Blu-rayのリリースを記念し、コミックナタリーでは瀬下寛之監督、吉平"Tady"直弘副監督、岩浪美和音響監督の3人による鼎談をセッティングした。日本のアニメで初となるドルビーアトモス、プレスコによる収録、また次回作への“予感”。今だからこそ語れる、劇場版公開時の思い出とともに振り返ってもらった。
取材・文 / 三木美波 写真 / 高原マサキ
弐瓶勉が20年前に描いた連載デビュー作
1995年、弐瓶勉は警視庁の捜査官・霧亥を描いた「BLAME」でアフタヌーン四季賞の谷口ジロー特別賞を受賞し、デビューを飾った。同作を元に、遠未来の都市を探索する霧亥を主人公にした「BLAME!」が月刊アフタヌーン1997年3月号(講談社)でスタート。2003年まで連載され、単行本は全10巻が刊行された。2015年より新装版が全6巻で登場し、果てしない「BLAME!」ワールドをB5の大判サイズで楽しめる。
舞台は太陽系レベルの大きさに増殖する都市
「BLAME!」の舞台は、無限に増殖を続ける超巨大な階層都市だ。どのくらい巨大かというと、「BLAME!」より過去の同世界を描いた「NOiSE」では、増殖し続けた都市構造物が、月と思われる“かつて天上にあった衛星”を飲み込んだことを暗示しているほど。また霧亥は階層都市を旅する中で直径が平均14万3000kmの球状の空間に出くわす。このことからも、直径13万9822kmの木星よりも大きい空間が、階層都市に内包されていることがわかる。
都市が太陽系レベルの広さにまで増殖してしまったのは、人間が“感染”により都市の無限増殖を止める鍵となるネット端末遺伝子を失い、都市をコントロールする統治局へアクセスできなくなってしまったため。ネット端末遺伝子を持つ人間を探すために、霧亥は遥かなる階層都市を探索し続けている。
劇場版誕生のきっかけは、テレビアニメ「シドニアの騎士」
劇場版「BLAME!」は瀬下寛之監督のもと、副監督・吉平"Tady"直弘、音響監督・岩浪美和、脚本・村井さだゆきと、弐瓶の「シドニアの騎士」をアニメ化したスタッフが再結集している。これはテレビアニメ「シドニアの騎士 第九惑星戦役」第8話に劇中作として登場したショートムービー「BLAME! 端末遺構都市」が、「BLAME!」劇場化のきっかけだったことが大きい。「かなり気合いを入れて作ってしまった」と瀬下監督が語るように、霧亥の声優に櫻井孝宏を起用し、重厚な音楽や霧亥の武器・重力子放射線射出装置を使った迫力のある戦闘シーンは、数十秒しか放送されない劇中作とは思えない出来栄え。このショートムービーの素晴らしさが映画関係者に認められ、劇場アニメ制作への第一歩となった。
弐瓶勉自らが脚本に参加し、劇場版のためにリメイク
原作マンガ「BLAME!」のストーリーラインは、「主人公の霧亥がネット端末遺伝子を持つ人間を探す」というシンプルなもの。しかし言語での情報が最小限にとどめられているゆえに難解だと評されてきた。劇場版では弐瓶自ら脚本の打ち合わせに参加し、壮大で難解な原作マンガの一部分をそのまま切り取るのではなく、「ちゃんと1本完結した話」を作るためにオリジナルストーリーにリメイク。まだ劇場版を観ていない原作マンガの読者は、重要な役割を果たすはずの珪素(けいそ)生物が登場しないと知れば驚くことだろう。
劇場版の物語は、新装版2巻に登場する“電基漁師”という、都市を放浪していたプランター(入植者)の子孫たちの集落を軸に展開される。ちなみに弐瓶が劇場版のために考え、描き下ろした資料は「劇場版『BLAME!』弐瓶勉描きおろし設定資料集」として1冊にまとまっている。このことからも、弐瓶がどれだけの熱意を持って劇場版の制作に取り組んできたかが読み取れるはず。
もう僕が監督じゃなくてもいいから早く映像化を!(瀬下)
──さっそくですが、弐瓶さんがBlu-ray初回限定版の特典用に描き下ろした短編、皆さんはもうお読みになりましたか?
吉平"Tady"直弘 たまんないですよね! シボが落としたアレも、短編の中で描いてくれていますし。
──シボが落としたアレ?
瀬下寛之 実は劇場版の最後のシーンで、軌道車両の扉が閉まる前にシボが何かを落とすんです。いくつかの舞台挨拶でネタばらししたんですが、この落とした“何か”というのはシボのメモリー。シボは人格が全て電子化されているから、メモリーはシボそのものなんです。
──劇場版で描かれた伏線を、短編できちんと回収されているんですね。
瀬下 そう、しかも短編のタイトルがまさかの「珪素生物の砦」。「映画の続きやん!」みたいなね(笑)。
──原作マンガでは霧亥と何度も戦った珪素生物たちが、劇場版では登場しなかったため、驚いた「BLAME!」読者も多かったのではないかと思います。この読み切りで珪素生物が描かれたということは……ファンは劇場版の続編を期待してもいいのでしょうか?
瀬下 まず、マンガで劇場版の続きを描いてくださった弐瓶先生に、我々スタッフは最大限の賛辞と感謝を改めて述べたいですね。それでこの読み切りを読んで僕が思ったことは、「早くこれを映像化してくれ!」ってこと(笑)。
吉平 他人事!
岩浪美和 ははは(笑)。
瀬下 もう僕が監督じゃなくてもいいから「早く作って早く映画館でみんなで座って観たい!」って思っちゃう。「シドニアの騎士」「BLAME!」と弐瓶先生とやってきて、それくらい最高に楽しいんですよ。皆さんもう予感がしてるでしょ、「次やるとしたら珪素生物でしょ?」って。
──そうですね。原作マンガで霧亥は今回劇場版に登場した敵・セーフガード、そして珪素生物と敵対する様子が描かれていますし、「劇場版『BLAME!』弐瓶勉描きおろし設定資料集」でも弐瓶さんは「描いていて楽しいキャラは珪素生物なのでいつか描ける日が来るといい」とおっしゃっていましたし。
瀬下 僕らも予感がしてるんですよ。「BLAME!」の続きを、岩浪さんがデザインしてくださる最強の音響で、みんなで観ながら大騒ぎする……という夢を見ています。「BLAME!」は「映画を作りましたので、観てください」というところで終わらないんです。我々もお客さんたちとともに楽しめる。観客の皆さんも巻き込んで、何かこう、映画鑑賞ではなくライブのようになってきているな、という感じがしているんです。
岩浪 うん、こんなに舞台挨拶した作品は初めてですよ。本当に毎週やりました。
──瀬下さんも吉平さんも岩浪さんも、いろいろな劇場で挨拶したりサイン会をしたりと盛り上げていましたね。岩浪さんは「会いに行ける音響監督」と呼ばれていました。
瀬下 岩浪さん、神戸の劇場ではコール&レスポンスしてましたよね。
吉平 マイクを持ってステージを飛び降りたり。
瀬下 もう、本当にライブなんですよ! 岩浪さんがダーっと走っていかれて、来場していたポリゴン・ピクチュアズの社長のお母さんにマイクを渡していました。
吉平 その間、舞台にいた僕たち2人の手持ち無沙汰感っていったら、たまらなかったですね。
瀬下 「映画ってこんなに盛り上がれるんだ!」ということを、21世紀も20年近く経ったこの2017年に「BLAME!」で再発見させてもらいました。
──2週間限定だった公開期間が、最長7週間のロングランになった要因も、このライブ感、観るだけではなく“参加して盛り上がる”という楽しさにあるのかもしれないですね。
瀬下 まさにそこじゃないですか。
岩浪 もちろんファンの皆さんが劇場に足を運んでいただいたことがヒットの要因ですが、劇場側のスタッフの皆さんが、この作品に非常に好意的だったことも大きいなと。2週間限定なので、「BLAME!」は小さな規模の映画なんですよ。でもいろんな劇場で、いいスクリーンでいい時間帯に上映していただいて、いろいろ独自のプロモーションもしていただいて、劇場さんが熱意を持って「お客様をおもてなししよう」という姿勢でやってくださったのが結果につながったんだと思います。
瀬下 劇場に手作りのスタンディとかPOPやディスプレイがあって。まさに愛に満ち溢れていて、行くたびに感無量なんですよ。だから僕の一生の中で「最高の思い出を挙げろ」と言われたら、「BLAME!」が公開された5月からの1カ月くらいの間に起こったことが入ります(笑)。
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「シドニアの騎士」にもいまだにバレてないネタがいっぱい(瀬下)
- 劇場版「BLAME!」Blu-ray
- 2017年11月1日発売 / キングレコード
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初回限定版 [Blu-ray2枚組]
10584円 / KIXA-90762 -
通常版 [Blu-ray]
6264円 / KIXA-762
世界が震撼したハイスペックなフルデジタル映像はそのままに、初回限定版では、音響は5.1chサラウンドに加え、日本アニメのブルーレイディスクとしては初となる“ドルビーアトモス”を採用。音響監督自らが調音した超高音質“東亜重音”仕様のドルビーアトモスとなり、環境次第で極上の音響体験が可能だ。また、監督&プロデューサー陣による本編オーディオコメンタリーも収録。映画の裏話や制作秘話についてじっくりと語る。
- 音声仕様
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- ①日本語(本編)ドルビーTrueHD ドルビーアトモス
- ②日本語(本編)リニアPCM(ステレオ)
- ③日本語(コメンタリー)リニアPCM(ステレオ)
- ④英語(本編)ドルビーTrueHD(5.1chサラウンド)
※ドルビーアトモスは現行のBDプレーヤーと対応のサラウンドシステムで再生可能。ドルビーアトモス対応のサラウンドシステムを使っていない場合は、自動的に最適な方法で再生される。
- 本編DISC収録内容
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- 「BLAME!」映画本編
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- 音声特典
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- 本編オーディオコメンタリー「裏ブラム!」 出演:瀬下寛之(監督)、吉平"Tady"直弘(副監督)、守屋秀樹(エグゼクティブプロデューサー)
- 本編英語吹替え音声
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- 映像特典
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- 本編英語字幕
- 各種予告編&SPOT映像集
- 初回限定版特典DISC収録内容
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- 映像特典
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- MAKING OF BLAME! 監督ほか主要スタッフへのインタビューを含む、「BLAME!」本編制作の舞台裏に迫る特別映像。
- GALLERY OF BLAME! ラフスケッチ、コンセプトアート、カラースクリプト、キャラクター設定画などの貴重な資料の静止画ギャラリー、台本データほか収録。
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- 初回限定版封入特典
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- 弐瓶勉描き下ろしコミックス 原作・総監修の弐瓶勉による、新作描き下ろし短編マンガ。映画のその後を描く、ここでしか読めないレア内容。
- 1/35スケールフィギュア全5種【彩色仕様完全版】<霧亥、シボ、サナカン、セーフガード(駆除系TYPE-01&02)> 映画前売り特典&入場者プレゼントで好評を博したフィギュアが全種類彩色仕様となった豪華コンプリート版。
- 縮刷パンフレット 各地で売切れ続出となった映画パンフレットが、縮刷版として復活。
- 劇場版「BLAME!」
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- スタッフ
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- 原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
- 総監修:弐瓶勉
- 監督:瀬下寛之
- 副監督/CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
- 脚本:村井さだゆき
- プロダクションデザイナー:田中直哉
- キャラクターデザイナー:森山佑樹
- ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
- 美術監督:滝口比呂志
- 色彩設計:野地弘納
- 音響監督:岩浪美和
- 音楽:菅野祐悟
- 主題歌:angela「Calling you」
- 音楽制作:キングレコード
- アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
- 製作:東亜重工動画制作局
- キャスト
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- 霧亥:櫻井孝宏
- シボ:花澤香菜
- づる:雨宮天
- おやっさん:山路和弘
- 捨造:宮野真守
- タエ:洲崎綾
- フサタ:島﨑信長
- アツジ:梶裕貴
- 統治局:豊崎愛生
- サナカン:早見沙織
©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
- 瀬下寛之(セシタヒロユキ)
- 1967年生まれ。1989年リンクス入社。映画「河童」、「パラサイトイブ」やTVCM、ゲーム映像など、さまざまな分野のCG/VFX制作でCGディレクター/デザイナーとして従事。1997年に渡米し、スクウェアUSA製作の映画「ファイナル・ファンタジー」(2001)にてアートディレクターを担当。2000年に帰国し、スクウェア(現スクウェア・エニックス)にて「ファイナルファンタジーX」(2001)、「ファイナルファンタジーXI」(2002)、「キングダムハーツ」(2002)、「ファイナルファンタジーX-2」(2003)などゲームムービー制作のデザイナー/VFXスーパーバイザーを手がける。2004年、カシオエンターテイメント株式会社設立に参画し、エグゼクティブ・ディレクターを務める。松本人志監督作品「大日本人」(2007)、「しんぼる」(2009)にてVFX監督を担当。2010年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。「シドニアの騎士」(2014)副監督、「シドニアの騎士 第九惑星戦役」(2015)監督、「亜人」(2015~2016)総監督、「BLAME!」(2017)監督、「GODZILLA」(2017公開予定)監督。
- 吉平"Tady"直弘(ヨシヒラタダヒロ)
- 1999年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。CGアニメーションの編集、合成、フィニッシングを専門分野として数多くの作品に関わり高い評価を得る。また映像設計の視覚的検証と編集・仕上げ(フィニッシング)の責任者として、海外テレビシリーズのワークフロー設計や編集システムの構築にもリーダーシップを発揮し、付加価値の高い編集業務の実現に貢献してきた。 2015年以降は編集の枠を超えて、テレビシリーズ「シドニアの騎士 第九惑星戦役」では、副監督/演出として従事。2017年には、副監督を務める「BLAME!」が公開された。
- 岩浪美和(イワナミヨシカズ)
- 1980年代より音響監督としてのキャリアを開始。「ビーストウォーズ」シリーズ、「ガールズ&パンツァー」、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズなど数多くのアニメの音響監督を務めるほか、監督や脚本を手がけるなど幅広く活躍している。