劇場アニメ「どうにかなる日々」特集 生駒里奈インタビュー|「誰だって、誰に憧れても恋してもいい」アイドルを卒業し、少し大人になった今、志村貴子作品で見えてきたこと

主題歌「モノマネ」は聴く人の心情に臨機応変に寄り添えるような曲

──生駒さんは最近は声優としてのお仕事もされていますが、印象に残った声優さんはいらっしゃいましたか?

生駒里奈

私「おそ松さん」や「コードギアス」が大好きで観ていたので、櫻井(孝宏)さんがこんなにある意味“普通の人”を演じられているのが新鮮でした。櫻井さんをはじめ、皆さんアニメらしいお芝居ができる方々ですけど、こんなにナチュラルなお芝居を聞く機会はあまりなかったので。

──確かに、かなり自然に演じられていますよね。

アニメだからこそ、誇張して演じなければいけないお芝居の部分もあると思うんですけど、どのシーンをとってもすごくナチュラルで。どうやって演じているんだろうっていう興味が湧きましたね。

──演者さんの立場で観ちゃうんですね。

途中から「どうやってしゃべってるんだろう」って頭になっちゃいましたね(笑)。役者さんとしていろんなお芝居のレパートリーを持ってるんだなと。息遣い1つひとつがすごく勉強になりました。

──主題歌はクリープハイプさんが担当していて、劇伴も書き下ろしで作られてます。

「モノマネ」を聴いたときは、すごく聴く人の心情に臨機応変に寄り添えるような曲だなと思いました。悩んでいるときに聴いても、楽しいことがあった帰り道に聴いても、しっくり来るというか。

クリープハイプによるサウンドトラック「どうにかなる日々」のジャケットイラスト。 ©︎志村貴子/太田出版

──作品の雰囲気にもとてもマッチしていましたよね。

はい。劇伴も映像の雰囲気やキャラクターの心情にとても合っていて。この作品って、決してテンションが高いわけでも低いわけでもないと思うんですよ。だからこそ音楽で表現するのは難しそうだなと思ったんですが、どのシーンも違和感がなく自然で。映像とお芝居と音楽で、1つの作品として素晴らしいバランスだなと思いました。

当時の私にはまだ深く理解はできない部分もありました

──志村さんと生駒さんといえば、デザイン誌・MdN(エムディエヌコーポレーション)で「淡島百景」とのコラボ(参照:志村貴子×乃木坂46の生駒里奈、デザイン誌MdNの制服特集でコラボ)がありましたよね。その当時、印象に残ったことはありますか。

生駒里奈

当時まだ10代だったと思うんですけど、あの企画をきっかけに志村先生の存在を知って。「淡島百景」も読ませていただいたんですが、正直言うと、当時の私にはまだ深くは理解できない部分もありました。でもあのときの等身大の自分が作品とマッチしていたんだと思うので、そういう意味では貴重な体験でしたね。今「淡島百景」を読んだら、きっと当時とは違った気持ちになるんだろうなと思います。

──個人的に、乃木坂46と志村さんの作品の世界観って通じるものがあると思っていて。特に「淡島」や「青い花」のような女の子だけの世界を描いた作品は、先程、生駒さんがおっしゃっていたような10代ならではの儚い美しさを見せてくれる作品なので、非常にマッチしたコラボだったなと思います。

ありがとうございます。当時もっとそういうふうに理解できていれば、もっと楽しさが広がっていたかもしれないですね……。でも今こうして「どうにかなる日々」を観て改めて、あのときコラボをさせていただけてよかったなと思います。

同性同士の恋愛をありえないと思ってる人でも、
普通に思えてくるんじゃないかな

──「どうにかなる日々」という作品は、一般的に少し歪んだ恋愛や性的にマイノリティと言われる人たちを、特別なものではなくて自然な人として描いた作品集だと思います。そういった、人には言いづらい恋や思いを抱える人たちについて、どう考えますか。

志村貴子による描き下ろしイラスト。

誰だって、誰に憧れても恋をしてもいいと思います。私は今までアイドルというお仕事をしてきたこともあり、恋愛と向き合ったり、考えることがなかなか難しかったのですが、そこから卒業して。そして今回志村先生の作品を読んで、改めて捉え方も変わりました。自由な気持ちを大切にするべきだし、もし理解されなくても気持ちを持つのは自由。自分の気持ちを後ろめたく思ってほしくないですね。

──今の生駒さんから見て、「どうにかなる日々」の魅力とはなんだと思いますか?

ファンの方々が志村先生を「日常を切り取る天才」っておっしゃっているのを聞いて、本当にその通りだなと思います。しかも、ただ日常を切り取るだけではなく、それを当たり前に捉えさせることができるというか。普通のものを普通のものとして伝える力がすごいんだと思います。

──確かに、お説教っぽくなることもなく自然に入ってきますね。

そうですよね。私自身は、何事に対しても平凡な考えを持っているタイプの人間なんですけど、そんな私でも「どうにかなる日々」で描かれてることは理解できましたし、例えば同性同士の恋愛は想像がつかないと思っている人でも、志村さんの作品を読んでいると自然に受け止められるんじゃないかなと。ひとつの考えにとらわれるんじゃなく、いろんな考えがあるからこそ素晴らしいということを、作品を通じて感じてもらえると思います。

──原作は20年前に連載されていた作品ですからね。やっと時代が追いついてきたというか。

今観ても、アニメとしてすごく「尖ったことやってるな」と思いますし。映像としてはとても和やかだし、会話も多いわけではないんですけど、観ていてすごいドキドキする。それを20年前から描かれていたと思うと、本当にすごいですね。

生駒里奈

──では最後に志村先生にメッセージをいただけますか。

今回「どうにかなる日々」を観させていただいて、着眼点や描き方が独特なんですが、読んだあとに共感できる場面が多くて。そういった考え方はどこからくるのかすごく知りたいです。今はいろんな恋愛の形があるというふうな理解が広まってきていますが、歴史を振り返れば昔から理解されない思いに悩む人がいて、だからこそそれをテーマに描く方がいらっしゃって。志村先生はその人間の悩みの美しさを、すごく繊細なバランスで描かれていると思うので、これからも変わらず描き続けてほしいです。

志村貴子から生駒里奈へ

生駒のインタビューを受け、志村貴子からお手紙が到着。「切り口は独特でありながら、誰でも共感できる作品をどうやって生み出しているのか」という生駒の疑問に答えた。

生駒里奈さま

映画「どうにかなる日々」をご覧くださってありがとうございます。
私が過去に描いた作品や現行の作品は思春期の女の子たちが多く出てくるのですが
読者の方から「乃木坂さんの世界観に近い」「どちらも好き」と言ってくださる方が
時々いらしてこれは本当にこちらからしたら大変おこがましいことですが、とても照れくさく有り難いことでもありました。
私はアイドルの方々や映像・舞台の世界であらゆる表情をみせてくれる俳優の方々がとても好きなんですけど、私のそういった考えがどこからくるのかというご質問に対してはまさにこれまで触れてきた創作の世界、虚構の人々に自分なりの咀嚼をして血肉となった結果なのかなぁと思います。
生駒さんはたくさんの人が行き交う中にあって常に目を引く存在で、自分の漫画の中のキャラクターたちにもそんな瞬間を吹き込めたら良いなとやはりおこがましく考えてしまいました。

志村貴子