デジナタ連載 鈴木達央 × HD600N|10代のスピード感を“重さ”で表現した新曲 ワイヤレスヘッドフォンでの再現度は

「Heading to Over」に込めた彼らへの思い

──「Heading to Over」は鈴木さんが橘真琴役として出演されているテレビアニメ「Free!-Dive to the Future-」のオープニング主題歌としても起用されています。「Free!」の主題歌としてのこだわりについては、作品のWebラジオでもお話しされていましたね。

鈴木達央

そうですね。タイトルの「Heading」「to」「Over」の頭を取って「H₂O(=水)」になっていたり、第1期、第2期の主題歌(「Rage on」「Dried Up Youthful Fame」)と同じく楽曲のBPMを220で固定していたり。あとは今回、競技者としての彼らを成長させたいという意図もあって。そこをどういうふうに出していこうかと考えたときに、10代の頃の駆け足で何かを登っていくときのスピード感を、軽さではなく、足跡を残して走っていく“重さ”として表現したいなと思ったんです。なのでより力強い楽曲にするために、普段はドロップDやノーマルチューニングで弾いていたところを一音下げて、自分たちとしても一番力を発揮できるドロップCチューニングに変えました。

──そうすることでより重みのあるサウンドが表現できるように。

鈴木達央

はい。あとは仲間の絆と、その絆を感じながら自分自身がもう一歩踏み出すというところも今作のテーマだなと感じていて。これまで行けなかった場所に行くために、自分は仲間1人ひとりの力を借りて前に進めている、ということを表現するときに、全部の楽器がちゃんと聴こえていないと嫌だっていうのはもともと考えていたことなんです。なので自分が作ってきたラフよりも、完成した楽曲ではバンドメンバーの個々のアイデアを活かしたり、それぞれのパフォーマンスが映える場所を作るようにしています。ドラムのRyo(Yamagata)、ベースの(中村)泰造、ギターのSCHONの3人にもそこは大事にしてもらいたいと伝えながら、音作りをしてもらいました。うちってほかのバンドに比べても全体域が重く出ているのに、各楽器の音が潰れていることがないはずなんですよ。それはそれぞれのメンバーの見せ場を作りたいと、俺がずっと大事にしていることでもあるんです。

「どんな橘真琴でも演じる」その気持ちに変わりはないです

──「Free!」と言えば、鈴木さんの言葉で印象に残っているものがあって。2015年3月に行われた「Free!-Eternal Summer-」のイベント(「岩鳶・鮫柄 合同文化祭」)の最後の挨拶で「俺はどんな橘真琴でも演じる」とおっしゃっていました。覚えていらっしゃいますか?

ええ、覚えています。

──ファンの皆さんにとっても印象に残っている言葉だと思うんですが、まさか今こうして大学生の真琴を演じることになるとは想像していましたか?

鈴木達央

まったく想像していなかったですね。あのときは「映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-」の公開が発表された日でもあったので、中学生時代の真琴を演じきるという決意として口にした言葉でもありました。あのときも今も、とにかく第一に作品を愛していただきたいという気持ちがあって、それは自分だけでなく、どの演者もみんな同じで。フィルムに対して自分たちがどういうアプローチをしていけるか、どういうことを返していけるか、どんな新しい要素を付け加えていけるかっていうところは毎回大事にしていましたし、それは今回のシリーズでも同じですね。最初のテレビシリーズから5年も続いているので、ここまで来るとキャスト同士で「こうしよう、ああしよう」っていう話は意外とないんですよね。マイク前で出したものが自分の提示したい何かだと示す感じなんです。

──「どんな真琴でも演じる」という言葉に、今も変わりはないですか?

変わらないですよ、全然。

──いろんな声優さんのお話を聞いていると、“そのときのその人にしかできないお芝居がある”と語られる方もいて、役に対して声優さんのキャリアや背景も合わせて考えたときに、そうおっしゃられる言葉の意味もすごくわかるんです。そういった中で改めて鈴木さんの言葉を思い出すと、すごく重みのある言葉だなというか、相当の覚悟があった言葉だったんじゃないかと感じました。

そうですね。やっぱり自分が関わった作品にどこか執着していたいという気持ちはすごくあって。それはたぶん観ている皆さん以上に、俺自身が役を与えていただけたこと、名前付きの役でフィルムに入れることを、すごく重みのあることだと感じているからで。もちろん人によってどうフィルムと関わっていくのか、どう大事にしていくのかは違うだろうし、変わっていくとも思うので、それは人それぞれだなって思うんですけど、いかんせん俺自身は「まだまだ自分でできることがあるだろうな」と思ってしまえるので。なるべく自分の中で「これはできない」と可能性を否定しないっていうところは大事にしています。それが自分にとっての、フィルムに対しての筋の通し方みたいなものなのかなと思いますね。しかも、今回の「Free!DF」では大学生だけじゃなく、それこそ中学生時代の真琴も結構出てくるので。

──あ、そうですよね。皆さん演じ分けが大変だろうなと素人目に思っていました。

「映画 ハイ☆スピード!」のときも、自分が中学生時代をどういう声で演じたらいいんだろうというのはすごく研究して、あそこで一度、到達点には立てたと思っているんです。それを皆さんに愛してもらえているのであれば、いつでも出せるようにしなきゃいけないという意識があるので、逆に今は前よりも楽に出せるんですよね(笑)。それは、旭役のトシ(豊永利行)にも言われたことで。「ハイ☆スピード!」のときと同じように、みんなでハルに声を掛けるシーンを録ったときに、「たつ兄、あのときのセリフ、前より声が出てるからびっくりした」って言われたぐらいなんです(笑)。今後どんなものを求められたとしても、自分の中でキャラクターに対して迷うことがなければ、「この声色は出るかな、出ないかな」みたいなことに対しての不安は何ひとつないですね。