CIVILIANが8月19日にシングル「正解不正解」をリリースした。表題曲はTOKYO MXほかで放送中のテレビアニメ「魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~」のオープニングテーマ。作中で圧倒的な力を持つアニメの主人公・アノス・ヴォルディゴードの意思や強さが楽曲を通して表現されている。またシングルの期間生産限定盤には、声優としてアノスを演じる鈴木達央が歌唱した「正解不正解 feat. アノス・ヴォルディゴード」を収録。こちらはアニメの第4話で実際にオープニングテーマとして使用され、視聴者の間で大きな話題となった。
この特集では、CIVILIANのフロントマン・コヤマヒデカズ(Vo, G)と、声優として活躍しながらOLDCODEXのメンバーとして音楽活動も行っている鈴木の対談をセッティング。同い年だという2人に、互いの音楽への印象や「正解不正解」に込められた思い、アニメの主人公が主題歌をカバーするという試みについて語り合ってもらった。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 草場雄介
CIVILIANとOLDCODEXの決定的な違い
──お二人は「正解不正解 feat. アノス・ヴォルディゴード」のレコーディングで意気投合したとのことですが、お互いの音楽に対してどのような印象を持たれていましたか? つまりコヤマさんのCIVILIANと、鈴木さんのOLDCODEXについて。
コヤマヒデカズ(Vo, G / CIVILIAN) OLDCODEXは1曲1曲のパンチ力がある、いかつくてカッコいいバンドだと思っていて。どんなミュージシャンでもそうだと思うんですけど、演奏された音楽から受ける印象と本人のキャラクターって、一致する場合とそうじゃない場合があるじゃないですか。僕は、OLDCODEXに関してはどちらかというと一致するんじゃないかと思っていたので「怖い人だったらどうしよう」という心配もちょっとだけありました(笑)。
鈴木達央 それよく言われるんだけど(笑)。俺は、今回のお話をいただいてからCIVILIANの楽曲を改めて全部聴かせてもらいました。やっぱり「正解不正解」という楽曲をお借りするというか、楽曲に参加させてもらう立場だったので、そこに至るまでにCIVILIANのことをちゃんと知っておきたくて。
コヤマ ありがとうございます。
鈴木 で、CIVILIANはものすごくテクニカルなロックバンドだなと。もう、和製Peripheryみたいな。全部の音を緻密に組み上げた状態でのバンドとしての個体を保てている、そのバランス感覚がすごいなと思って。OLDCODEX方面は、とりあえず「ドーン!」とやったあとで「どうする?」みたいな人たちばっかりなんですよ。
コヤマ (笑)。
鈴木 その場のノリで後先考えずに作っていっちゃう感じですね。CIVILIANの楽曲って、あらかじめ完成形の設計図が引かれていて、そこに全員で向かっていく感じだと思うんですよ。しかも、向かう過程でプラスαの味付けとかもされているはずだから、音楽偏差値がめっちゃ高いなって思いました。
コヤマ それは、もしかしたら僕の性格が影響しているのかも。僕はCIVILIANを結成する以前に別のバンドをやっていたんですけど、当時の僕は今よりも輪をかけて完璧主義だったというか、自分が作ったものが一番カッコいいと思っていたんです。だからメンバーが譜面通りに弾かなかったりすると許せなかったんですよ。
鈴木 そういう人、俺も知ってる。
コヤマ 今は違いますよ(笑)。でも、昔はメンバーに対して「俺が作ったデモをもう1回聴いてみて。これさ、どう考えてもこっちのほうがカッコいいよね?」という話を平気でしてたんですよ。当然、メンバーと「そこまでお前が決めたら誰が弾いても変わらねえじゃねえか!」みたいな口論になったりして解散してしまい。その反省から、CIVILIANを始めるときに「みんなで音楽を作っていこう」と心に誓ったんです。だから今のバンドではメンバーの意見をすごく大事にしてるんですけど、パズルみたいに曲を組み上げていく感じというのは、昔の名残りなのかも。
鈴木 CIVILIANの曲は、完成に至るまで見えてない景色が1つもないと思うんですよ。打ち込みもオブリガートも含めて全部のパートで「この音はどこまで鳴ってないといけない」とか、リバーブのかけ方1つ取ってもちゃんと理由がある。それがOLDCODEXとの決定的な違いだなと。うちは「どうしよう? これじゃまとまらないから、シンセでも足す?」みたいことがけっこうあるかな。
コヤマ ああー。
鈴木 あと、OLDCODEXというプロジェクトを始めたのは、誰かと一緒に同じ音を出したかったからなんですよ。要は「それ、いいね」って言い合える人たちと何かを作り上げたいという欲求からスタートしてるから、そもそもセッション感覚だったんです。なおかつ、俺はメンバーに「なんかいいアイデアない?」と常に言ってるくれくれ小僧だったので、その差は大きいのかもしれないですね。
“正しい”とされていることが、必ずしも自分を救ってくれるわけではない
──では、「魔王学院の不適合者」という作品に対するお二人の印象は?
コヤマ 「魔王学院の不適合者」の原作はいわゆる“俺TUEEE”系のラノベだと思うんですけど、同系統の作品群の中でも主人公であるアノスの強さが突き抜けているんですよね。
鈴木 俺はアノス役のオーディションを受けるにあたって原作を拝読したんですけど、序盤からアノスの強さの描写に呆然としてしまったシーンがあって。それが、心臓の鼓動で相手を攻撃するシーン。
コヤマ 「そんなのありなの?」っていうね(笑)。
鈴木 原作者の秋先生には大変申し訳ないんですけど、いち読者として思わず「ありえない!」と声が出ちゃいました(笑)。それでいて、さっき話したCIVILIANの楽曲と同じように、秋先生のストーリーテリングってものすごく緻密で、布石がそこら中にばら撒かれているうえに、ある重大なミスリードが仕込んであるんですよ。それを全部わかったうえでアノスを演じなきゃいけないから「これは超絶難しいな」と思いながら読んでいましたね。
──そんな突き抜けていると同時に緻密な作品の主題歌を、コヤマさんはどのように制作されたんですか?
コヤマ まず主人公のアノスがどういうキャラクターで何を考えていて、あの世界では何がよしとされていて何がタブーなのかというのを洗い出して、それを自分の言葉に変換していく作業から始めました。例えば理不尽な扱いを受けているキャラがいたとして、そのキャラとアノスの関係性を自分の身に引き付けるとこういう言葉で表せるかもしれないとか。そうやって作品と自分とのつながりを1つずつ見つけていくみたいな。
鈴木 「正解不正解」ってすごくいいタイトルだと思ったんだけど、このワードはどうやって出てきたの?
コヤマ 例えば常識だとか、世の中で“正しい”とされていることって、確かに正しいんですよ。でも、その正しさって、必ずしも自分を救ってくれるわけでもないなと思っていて。「魔王学院の不適合者」にしても、アノスはたとえそれが正しいとされていることでも自分が納得いかなければ全力で否定するし、もっと言えばあの世界の理を壊そうとしているじゃないですか。だから結局、自分にとって何が正解で何が不正解なのかを決めるのは自分自身であって、その決定に責任を持つのもまた自分自身なんだなと。そういう思いからこのタイトルにしました。
鈴木 現実でも、国家単位で嘘をついてるような世界で本当の正解なんてわからないし、どう考えても不正解なことが正解としてまかり通ってることなんていくらでもあるからね。
コヤマ そうそう。それも作品と今の自分が置かれた状況との共通点というか、普段自分が思っていることとリンクするなと。
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いつものCIVILIANより粘性が高い