2018年末、サイコミ(Cygames)が大規模なリニューアルを敢行。友情・努力・勝利が基本となるバトルものや熱血スポーツマンガなど、少年マンガの王道を行くオリジナル作品をラインナップし、それらを週刊連載のペースで回す仕組みを築き上げた。さらに今年4月には小学館との業務提携でスタートした新レーベル「サイコミ×裏サンデー」を創設。この変化の裏では、一体何が起きているのか。
コミックナタリーではサイコミの葛西歩編集長と、サイコミにアドバイザーとして参加している元裏サンデー・マンガワン編集長の石橋和章氏(小学館所属)を取材。新レーベル立ち上げとリニューアルの経緯を聞いた。サイコミの現状について語ってもらう中で見えてきたのは、マンガの作り方そのものへの疑問と、少年マンガへの思い。マンガアプリ隆盛の時代に共鳴した編集者2人の対談をお届けする。
取材・文 / 小松良介 撮影 / 新妻和久
「サイコミ×裏サンデー」とは
Cygamesと小学館によって創設された新たな単行本レーベル。両社のコンテンツやコンテンツ開発のノウハウを掛け合わせ、新たなIPの創出を目指している。業務提携の締結にあたり、小学館・マンガワン編集室の石橋和章氏がアドバイザーとしてサイコミ作品のプロデュースに参画。レーベル第1弾作品として、サイコミの人気ランキングで1位を誇る丸山恭右「TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには」が、4月26日に電子書籍にて発売された。
「ゲームのようにマンガを作る」これはとんでもないことをしているな
──おふたりにお話を伺うということで、まず知りたいのが今年4月に発表された「サイコミ×裏サンデー」という新レーベルについてです。こちらの発起人である葛西さんと石橋さんは、過去にはCOMICメテオ、裏サンデーという大きなWebマンガ媒体を立ち上げた実績があり、ヒット作をたくさん手がけた編集者ですが、おふたりはどのような経緯で出会ったのでしょうか?
石橋和章 もともと僕はマンガワンの編集長時代に「モブサイコ100」のゲームを編集部で作ってみたり、「ケンガンアシュラ」のゲーム企画も立ち上げたりしたんです。でも僕は本業がマンガ編集者ですので、ゲームビジネスがわからない。そういうのもあって、ゲーム作りを学ぼうと「グランブルーファンタジー」を生んだCygamesさんとの交流が始まりました。実をいうと、今のマンガビジネスに行き詰まりを感じていて、ゲームに可能性を感じていたんです。そんなときに、逆にCygamesさんがマンガアプリを立ち上げるという話を聞いて興味を持って。
葛西歩 ちょうどCygamesからサイコミがリリースされた頃ですね。
石橋 そうですね。それで、葛西さんがコミックナタリーさんで「ゲームのようにマンガを作る」と話しているインタビュー(参照:サイコミ編集長インタビュー)を読んで、ものすごい感銘を受けたんです。
──マンガ制作の分業化を進めている、という話ですね。
石橋 これまでのマンガ業界では、作家と編集者が1対1の関係で作品を作るのが当たり前だった。でも、サイコミさんは新しいマンガの作り方を目指していました。社内に作家やライター、作画ができるスタッフが多数在籍していて、作品を作るためのリソースが潤沢にある。これはとんでもないことをしているなと思いました。
葛西 ありがとうございます。とはいえサイコミも、正直、ヒット作がなかなか出にくい状況が続いていました。うちはゲーム会社なのでそもそもマンガ作りのノウハウを持つ人材が少なく、せっかくのリソースが使い切れていなかったんです。そういう中で石橋さんが入ってきてくれて、僕らが考えていた理想と、石橋さんが持っている「マギ」や「モブサイコ100」などのヒット作の生み出し方など、作品作りのノウハウが合体して、新しいサイコミができたという流れです。
石橋 サイコミ×裏サンデーの業務提携が発表されたのは今年4月ですが、実は昨年の4月頃からコンサルティングアドバイザーという形でサイコミには参加させてもらっていたんですよ。
──実際に参加してみて、どのように感じましたか?
石橋 社内にいい作家がたくさんいるので、僕自身も今までの編集とは違う働き方……例えば原作と編集の中間みたいな仕事をできるようになって。毎日、作家と一緒に席を並べて、一緒に話し合いながらマンガを作れるんですよ。その結果、関われる作品の数が格段に増えました。これは本当に通常の出版社では考えられないことだと思います。
葛西 確かにサイコミはかなり特殊な環境ですね。普通の出版社では、作家さんと編集者が机を並べて、マンガを内製するという考え方がそもそもありません。ですが、ゲーム会社のCygamesはゲーム作りと同様にマンガを作ろうとしていました。しかしマンガを作ってみると、普通の出版社が持っているノウハウが必要だとわかったんです。特に足りないと感じていたのは週刊連載ペースでのマンガの作り方。これは僕自身経験したことがなかったところなので、石橋さんに教えていただき、とても助かりました。
──石橋さんがチームに加わったことで生まれた作品というと?
石橋 「TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには」がそうですね。この作品は僕がサイコミに入ったとき、丸山恭右くんという優秀な作家さんが社内にいるのを見つけて「マンガを描きませんか?」と誘って生まれたんですよ。4月に1巻を発売しましたが、売れ行きも非常に好調です。
葛西 作家だけじゃなくて他部署のスタッフとも一緒に作ってます。例えば「Forward!-フォワード!-」というサッカーマンガでは、僕と石橋さんがストーリーラインを作家さんと作っているんです。でも僕らはサッカーの知識がそんなにあるわけじゃないので、サッカーに詳しいマネージャーに試合シーンやプレーの監修をしてもらっていて。
石橋 担当編集が1人だけだったら、サッカーも何もかも全部詳しくないといけないけど、今はチームプレーで、お互いがプロフェッショナルな分野で力を発揮できています。僕はストーリーアドバイザー的に入って、そのほかに全体をコントロールできる編集者がいて、技術協力をするスタッフもいる。作家さんをサポートできる体制が整っていると思います。
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王道の少年マンガを作りたいと思っている
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- 葛西歩(カサイアユム)
- サイコミ編集長。Cygames漫画事業部所属。前職にてWebマンガサイトのCOMICメテオ、COMICポラリスを立ち上げ。同誌副編集長を務める。2016年10月より現職。
- 石橋和章(イシバシカズアキ)
- マンガ編集者。小学館マンガワン事業室所属。Webコミックサイトの裏サンデー、マンガアプリのマンガワンを編集長として立ち上げる。現在はアドバイザーとしてサイコミのプロデュース、掲載作品の原案協力などを行っている。
2019年6月11日更新