「サイコミ」葛西歩編集長×石橋和章(マンガワン)|マンガの新しい作り方を考える編集者2人 ガッツリ握手「サイコミ×裏サンデー」対談!

王道の少年マンガを作りたいと思っている

──サイコミというと、以前はゲーム原作のコミカライズが多い印象がありましたが、現在の連載作品を見るとオリジナル作品の割合がずいぶんと高くなったように感じます。

葛西歩編集長

葛西 再創刊のタイミングでシステムを大きく変えました。現在は人気至上主義に則ってドラスティックに判断を下し、人気のある作品は続くし、人気のない作品は終了しています。UIも人気の高い作品を前面に押し出していて、人気作が媒体を引っ張る形にしました。その結果、オリジナル作品、中でもバトルやスポーツマンガが人気の上位を占めるようになりました。終了したマンガの作家さんも、次回作に速やかに移れるような体制を組んでいます。

──再創刊でユーザー数に変化は?

葛西 再創刊から5カ月で、1日あたりの閲覧数が4倍に増えました。

石橋 数字で結果が出ているのは非常にうれしいですね。さっき話したバトルやスポーツマンガって、ほかのマンガアプリではあんまりやってないんですよ。本来、狙い目のジャンルのはずなんですけどね。

葛西 それは今の編集者が単行本至上主義の中で育ったのが最大の原因だと僕は思っています。書店で目立つためには、「ほかとは違うこと」が何よりも重要視されました。メジャーなジャンルを作れる編集者が育ちにくい環境ですよね、それって。でもマンガアプリが台頭するようになって、再びメジャージャンルのマンガが求められるようになった。

スポーツものが人気というサイコミで連載中の卓球マンガ「スリースター」第1話の扉ページ。

石橋 不思議なことに、僕、ほとんどスポーツマンガ作ったことがないんですよ。でもサイコミにきて、めちゃくちゃたくさんスポーツマンガを立ち上げました。サッカー、剣道、まだ始まっていませんが、野球、バレーボール……あ、あと太極拳も(笑)。

葛西 スポーツマンガを積極的に作るようになったのは、僕もサイコミからですよ(笑)。ほかがやっていないということは、逆に今のサイコミの読者層にとって王道少年スポーツマンガは新鮮に映っているんですよね。今、サイコミを新しく読んでいただいている読者層って、18~24歳が多いというデータがあるんです。

石橋 これってCygamesというブランド自体が若い男性ユーザーを抱えていた結果だと思うんです。紙の週刊少年マンガ誌は、どこも平均読者が30代以上だといいますよ。

葛西 我々はそこにチャンスを感じていて、これからマンガを買ってくれる、読んでくれる層に、王道の少年マンガを届けていきたいと思っているんです。

石橋 今って青年マンガや少女マンガの調子がよくて、少年マンガは少し元気がない状況なんです。僕らが昔好きだった少年マンガに、以前ほど出版社がリソースを割けていない。その中で、少年マンガに全振りできるサイコミさんはとても面白いですよ。たぶん、バトルやスポーツマンガが占める割合は、日本で一番高い媒体なんじゃないかと。

──実際にそれらのマンガの人気はいかがでしょう?

「黒影のジャンク」1巻

葛西 今の一番は「TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには」。次に上がってきているのが「黒影のジャンク」で、この作品は途中でバトル方面に方向転換したところ、すごく人気が上がりました。ほかにもサッカーマンガの「Forward!-フォワード!-」や卓球マンガの「スリースター」、剣道マンガの「剣に焦ぐ」など、このようにランキングの上位はほとんどバトルとスポーツなんです。

──「TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには」の丸山先生は社内にいた作家さんというお話でしたが、同じように社内からデビューされた方もいらっしゃるのでしょうか。

葛西 そうですねえ。リニューアル以降始まった作品の作家さんの中にも、社員だった方はたくさんいます。作家さんも社員の1人なので、毎日出社して10時から19時まで働くんです。朝だってみんなで一緒に朝礼を受けるんですよ。

石橋 マネージャーが「インフルエンザが流行ってますから手をしっかり洗いましょう」「はい、よろしくお願いします!」って(笑)。それで席に座ったら、僕らと企画段階から一緒に考えるんです。

──そして連載化まで進めていく、と。

葛西 ある程度企画ができて連載がスタートしたら、じゃあ君は卒業だということで外に出てもらいます。

石橋 そこからの仕事の仕方は、皆さんが想像するマンガ家さんと同じイメージですね。アシスタントさんを雇いながら個人で仕事をしていく。でも、当然それまで一緒に働いてきたからお互いの気心が知れていて、編集者との関係性はすごく濃いものが築けていると思います。

葛西 同僚であり、チームメンバーでもある。そういう関係がサイコミのシステムの中で育まれているんです。

左から石橋和章氏、葛西歩編集長。

石橋 サイコミでは作家さんも会社で一緒に働くので、社会性を学ぶには良い場だと思います。社会人(編集者)とフリー(マンガ家)という立場の違いは思いのほか大きくて、お互いの仕事ぶりを想像しづらかったのですけど、いつも何を考えてどんな仕事をしているのか間近で見られるから、とても高い関係値の中で仕事ができる。非常にビジネスパートナーとしてやりやすくなりますよ。

──これから持ち込みにくる作家さんやスカウトした作家さんも、連載が決まるまでは同じ形式で?

葛西 作家さんによって人それぞれですけど、そういったケースももちろんありますよ。

石橋 ほかにも、新しい試みとしては、セミナー形式で作品を作りました。「今から3カ月で葛西編集長のOKが出るネームをこのメンバーで協力して作りましょう」と、僕が講師で作家さんや編集者にマンガの作り方を教えながら、テーマは何にしようとか、どういうふうにキャラクターを立てようとか、全員で話し合いながらネームを作るんです。それで、隣にいる葛西さんに「どうですか?」と見せたら○か×かを判断してもらって……。

葛西 セミナー受講生は5期生までいますが、ほぼ全員が連載作家になりました。

「剣に焦ぐ」第1話の扉ページ。

──具体的にはどんな作品が?

葛西 「恋はヲタ活の後で」や「やまんば飯」「誰も教えてくれない友達を作る100の方法」「剣に焦ぐ」「ヒナ」「不死の楽園」など。今ランキング上位に入っている作品も多いですよ。

石橋 このセミナーをやりながら作品を作る方法って、実はマンガワンのときから実験的にやっていて、すごく効果があると可能性を感じていたんです。いまマンガワンで連載している「ヒマチの嬢王」もその1つで、最近とても売れているそうです。だからサイコミでも採用して、さらにブラッシュアップをしている感じです。

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葛西歩(カサイアユム)
葛西歩
サイコミ編集長。Cygames漫画事業部所属。前職にてWebマンガサイトのCOMICメテオ、COMICポラリスを立ち上げ。同誌副編集長を務める。2016年10月より現職。
石橋和章(イシバシカズアキ)
石橋和章
マンガ編集者。小学館マンガワン事業室所属。Webコミックサイトの裏サンデー、マンガアプリのマンガワンを編集長として立ち上げる。現在はアドバイザーとしてサイコミのプロデュース、掲載作品の原案協力などを行っている。

2019年6月11日更新