Cygamesが運営するマンガ配信サービス・サイコミが単行本レーベルを創刊。その第1弾タイトルとなる7作品が7月28日に発売された。自社で展開しているゲームのコミカライズをはじめ、学園もの、ラブコメなど、オリジナル作品もバリエーションに富んだラインナップとなっている。
コミックナタリーでは、レーベル創刊を記念してサイコミの葛西歩編集長にインタビューを実施。単行本第1弾の見どころを始め、ゲーム開発のノウハウを生かした分業でのマンガ制作という制作体制についても聞いた。「マンガをどんどん作りたい人には、夢のような環境」と語る、サイコミ編集部の実態に迫る。
取材・文 / 籠生堅太 撮影 / 稲垣謙一
サイコミの使命は“最高のコンテンツを作る”こと
──いよいよサイコミ作品の単行本が刊行開始されました。編集部的に期待しているタイトルはありますか?
連載されている作品はすべて推し作品です。ただ、Cygames=ゲーム会社というイメージから、サイコミはゲームのコミカライズだけ掲載しているという印象をお持ちの方も多いと思います。もちろん、既存のゲームを新規の読者へと広げることもサイコミの目標の1つですが、オリジナルの作品も多数掲載されているということはアピールしていきたいですね。
──創刊タイトルには7作品がラインナップされています。そのうちオリジナルは「群れなせ!シートン学園」「待機列ガール」そして「ふたりモノローグ」。「ふたりモノローグ」は早くも実写ドラマ化が発表されましたね。(参照:ツナミノユウ「ふたりモノローグ」実写ドラマ化、福原遥と柳美稀のダブル主演)
サイコミの使命は「最高のコンテンツを作る」ことだと考えています。オリジナル作品は作るだけでなく、そこから多方面に展開していくことも重要。その意味では「ふたりモノローグ」は力を入れているタイトルですし、Cygamesらしいスピード感とクオリティで広げていきたいと考えています。
──「ふたりモノローグ」はどういった要素が読者に響いているとお考えですか。
「幼なじみの2人が、空白期間を経て再会。けれどお互いの雰囲気や立ち位置が変わっていて……」という設定だけ見ると、さほど目新しさはないかも知れません。ただツナミノユウ先生のすごいところは、2人のやりとりを会話じゃなくって、ほとんどモノローグでやってしまうところにあります。
──キャラの心情を説明するのに、モノローグを多用してはいけないとおっしゃるマンガ編集者の方もいらっしゃいますよね。
ある意味、セオリーを逆手に取っている。マンガには「何が正解」という答えはないということを証明している作品かもしれませんね。2人が胸の内ですれ違ったり、通じ合ったり、なのにそれに気が付けなかったり……そういう豊かな心の動きが、声には出ないモノローグだからこそ表現できているというのが面白いじゃないですか。ロボットものの戦闘シーンみたいですよね(笑)。コクピットの中にいるパイロット同士が、会話しているわけじゃないのに感じあっているような状態。
──確かに、2人の間に流れる緊張感にはバトルっぽさがあります。
めちゃくちゃ純愛なんですけどね(笑)。
──主人公2人はもちろん、サブキャラクターもクセがあって魅力的です。
ツナミノ先生が生み出すキャラクターはどれも非常に個性的で、サブキャラ一1人だけでも物語が作れてしまうほどだと感じています。そんな強烈な個性ばかりのキャラクターが揃っても物語が崩れないのは、ツナミノ先生のマンガ力の高さだと思います。
「シートン」は人を笑顔にできる作品
──「群れなせ!シートン学園」は人間と、獣耳・尻尾が付いた獣人の女子たち、それにリアルなケモノの男子まで入り乱れる学園ラブコメ。サイコミのサービス開始時からラインナップされている連載作品ですね。
「シートン」は人気ランキングで常に上位に入っている作品です。やっぱりラブコメというジャンルは非常に強いですよね。なにより山下文吾先生の描くキャラクターがかわいいということが最大の魅力。ちょっとエッチなところもありますが、いやらしくはないという絶妙なバランスが、山下先生のすごいところだと思います。
──たしかにヒロインが主人公に飛び付いたり、舐め回したりするシーンはちょっとエッチかもしれませんね。でも、どこか微笑ましい。
そこなんですよね。はじめから「シートン」はたくさんの人を笑顔にできる作品になればいいなと考えていました。万人に受け入れられるものを作ることは難しいけれど、「シートン」を「嫌い」っていう人は少ないと思っています。かといって退屈じゃないのは、先生の「攻めの姿勢」のおかげだと思います。結構、ネームの段階では攻めてるんですよ。そこを、編集とのやり取りの中でバランスをとっていきます。
──特別反響の大きかった回などはありますか。この回を更新したら、アクセス数が半端なかったといった。
「シートン」については、ありがたいことにすごく安定しているんですよね。ずーっと安定してご好評いただいています。週刊更新を続けていることが大きな要因かと思っています。今の読者は、マンガに限らずエンタテインメントにスピード感を求めています。マンガアプリだったらもう無料は大前提で、それに更新ペースの速さが加わると、やはり多くの読者に応援していただけますね。ほかの作品ですと、例えば「255の5コマ」は創刊以降毎日更新されているのですが、やはり読者の獲得、定着に繋がってくれています。
どんなジャンルの作品にも「王道」が存在する
──来月以降の単行本ラインナップを見ても、ヤンキーやアイドルなどジャンルは多岐に渡っていますが、サイコミが目指しているものは。
Cygamesは“王道”を作る会社です。これまで発表してきたゲームもそうですし、これからサイコミが作るマンガも王道を目指します。ただ勘違いしないでいただきたいのは王道=バトルやファンタジーといった特定ジャンルを指すのではなく、どんなジャンルの中にも王道は存在する。それをブレずに狙っていきます。
──ラブコメにはラブコメの、ヤンキーものにはヤンキーものの王道があると。
その通りです。王道って、使い古されたものではなくて、多くの読者が望んでいるものだと思うんです。例えば20代から30代の読者は、1990年代の黄金時代の少年誌などを読んで育っているわけで、そこにもう共通の認識があるわけです。
──とはいえ、今、マンガ市場にはニッチなジャンルや特徴的な作品も多いと感じます。
その「ニッチ」も真剣に作ることで王道になると考えています。例えば「群れなせ!シートン学園」は王道で、「ふたりモノローグ」はどちらかといえばニッチなジャンルの作品だととらえられることが多いかと思います。ただ、「ふたりモノローグ」は次の王道になるべく、一本一本を真剣にやり切っていると自負しています。編集長の立場からすると、さまざまなジャンルの作品が揃ってこそ、雑誌として、媒体としては王道なのではないかと考えています。最初にお話ししたように「サイコミ」の使命は、“最高のコンテンツを作る”こと。多方面への広がりを考えると、ジャンルに関係なく王道で、芯がしっかりある作品を作っていけば、必ず届くと信じています。
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「グラブル」のマンガは、サイコミ編集部の横で描いている
- 第1弾ラインナップ(7月28日発売予定)
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- Cygames原作・楓月誠コンテ・cocho作画「グランブルーファンタジー」1巻
- バンダイナムコエンターテインメント原作、廾之「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」1巻
- バンダイナムコエンターテインメント原作、廾之「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」1巻オリジナルCD付き特別版
- Cygames原作・蝉川タカマル脚本・Ryota-H作画「神撃のバハムート TWIN HEADS」1巻
- Cygames原作・S.濃すぎ「STARTING GATE! -ウマ娘プリティーダービー-」1巻
- ツナミノユウ「ふたりモノローグ」1巻
- 山下文吾「群れなせ!シートン学園」1巻
- 凪庵「待機列ガール」1巻
- 第2弾ラインナップ(8月30日発売予定)
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- Cygames原作・楓月誠コンテ・cocho作画「グランブルーファンタジー」2巻
- Cygames原作・蝉川タカマル脚本・Ryota-H作画「神撃のバハムート TWIN HEADS」2巻
- Cygames原作・水田ケンジ「神撃のバハムート マナリアフレンズ」1巻
- Cygames原作・邪武丸SHADOWVERSE「 ありさデュエルバース」1巻
- TNSK「あいどるスマッシュ!」1巻
- 村上よしゆき「ブラザーフッド」1巻
- 凪庵「待機列ガール」2巻
- 第3弾ラインナップ(9月29日発売予定)
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- Cygames原作・楓月誠コンテ・cocho作画「グランブルーファンタジー」3巻
- Cygames原作・蝉川タカマル脚本・Ryota-H作画「神撃のバハムート TWIN HEADS」3巻
- Cygames原作・近藤るるる「神撃のバハムート ミスタルシアサーガ」1巻
- 縞野やえ「恋愛したくないわけじゃないけど」1巻
- 十凪高志「妖怪ごはん」1巻
- 山下文吾「群れなせ!シートン学園」2巻
- TNSK「あいどるスマッシュ!」2巻